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降参

 王国の宮廷筆頭魔術師。今度の魔族は面識がある者だった。


「おい!ビルバオ!」

「あ?誰だその名で呼ぶのは?」

 赤ちゃんの俺の姿を見て、ビルバオは固まっている。


「なっなんで赤ん坊がその名を? お前何者だ?」

「俺はボードルだよ。転生して今はケインと名乗ってる。」

「ボードル………あー!童貞魔術王か!」

「童貞って言うな!」

 ビルバオは魔王の直属の幹部だったはず。

 魔王以外の他の誰かに使われる事はないはずだが……。


「お前誰の下で動いてんだ?パラツインでお前らが暗躍してんのは魔王はたぶんタッチしてないんだろ?」

「うっ………。」

 なんだ? ビルバオは少し言いにくそうにしている。


「あの、その、チェ……チェスタだよ!」

 チェスタ?―――ああ、あのゴスロリ魔族の。

 だがチェスタはビルバオと同列だったはずでは。


「なんだお前降格でもしたのか? それともチェスタが出世した?」

「いやそこは特に変わってない。」

「じゃあなんでチェスタに使われてんだよ。」

「そ、それは………報酬をもらえるからだよ!チェスタに!」

 報酬?―――ああ、分かった。多分ろくでもないやつだな。


「お前も好きなだなあ。」

 俺はニヤニヤしながら言う。


「うるさい! お前は何しに来たんだ!」

「ああ、そうだ! お前らパラツインでの暗躍を止めろ。じゃないと討伐するぞ。」

「なに!?………くっ」


 ビルバオは前に戦った魔族のハイリゲンと違って俺と戦っても勝てない事を理解している。不本意だろうが負けるのを分かっていて戦うような真似はしないだろう。


「じゃあチェスタの所に案内しろよ。」

「しょうがない……こっちだ。」


 ビルバオはそう言うと浮遊術で浮き、移動を始めた。俺もそれに続く。



 建物の2階の窓から中の様子が見える。ゴスロリの格好をした少女がソファーに寝っ転がって、お菓子を片手に何かの雑誌を読んでいる。


「はあーー、はあーー、はあーー」

「おい……」

 と俺はビルバオに声をかけるが気づかない。

 赤ん坊と大人の男一人が宙に浮いて2階をのぞいてる。

 通行人にでも見られたら通報必須の場面だ。


「はあーー、はあーー、はあーー」

「おい……おいったら!!」

「は!?」

 ようやくビルバオは我に返った。


「ゴホン――分かってるよ!」

 コンコンと窓を叩く。


 チェスタがそれに気づき…窓を開け…俺とビルバオが部屋に入り……チェスタは手に持った杖でビルバオを思いっきり殴った。


「このバカ!来訪してくる時は玄関からノックして知らせろって毎回言ってんでしょ!」


 ビルバオの恍惚の表情を見て――

 あーこれはダメなやつだ。

 チェスタは罰を与えているつもりだろうがビルバオにとってはご褒美になってしまっている。


「隣の赤ちゃんは何よ!?」

「あーこいつはボードルです。」

「前世はな。今世ではケインと名乗ってる。」

「ボードル?……あーあの童貞魔術王の!」

 クッソ、魔族にまでしっかり童貞広まってんのかよ!


「何しにきたのよ!今は…ケインだっけ?」

「お前らパラツインでの暗躍を止めろ。止めないと討伐する」

「うーーー!?」

 チェスタも俺には勝てないと分かってるはずだ。


「な、何であんたが出てくんのよ! 邪魔者のハーフェンを時空の狭間に飛ばして、人族の魔術の弱体化をしようとしただけなのに!」

 チェスタは両こぶしを握って腰の辺りでプルプルさせ、うーーーと抗議の意思を示している。


「いや、人族の魔術の弱体化は見過ごせんよ。そもそもお前は何でこんな事やってんだ?」

「それは……あのクソ女が私の事をペチャパイ若造りババアだって!」

 あの女とは―――ハーフェンの事だろう。

 悪口の内容もどんぐりの背比べだ、全く。


「だから?」

「だから復讐よ! あの女は時空の狭間に飛ばして、後、もし戻った時に魔術が弱体化されてたら悔しがると思って……」

「あいつは時空の狭間で悠々自適に暮らしてたぞ。それにちょっと人族の魔術が弱体化されてるぐらいで悔しがるたまか、あいつが。」

「うるさい! あーーもう、じゃあ終わりよ。ビルバオ、魔界に帰るわよ。こうなったらもう人間界に用はないわ!」

「その格好でか?」

 チェスタはゴリゴリのゴスロリの格好をしている。

 それに部屋には何かのグッズっぽいものも見受けられるのでおそらく人間界を楽しんでるはずだ。


「わっ悪い! 別にいいでしょ。まあちょこちょこ偵察で戻って来ようとは思ってるけど。」


 ボンッ!

 チェスタとビルバオは魔族の姿に戻る。


 チェスタは元の小悪魔のような姿に、

 ビルバオは緑色の皮膚をしたブヨブヨの魔導士の姿に戻った。


「じゃあね。あのクソ女に短足年増耳長貧乳女って言っといて。じゃあね!」

 そういうとチェスタとビルバオは空を飛んで魔界に戻っていった。


「誰がそんな事を伝えるかよ。」

 俺はボソリと独り言を呟く。また新たな揉め事になるに決まっているのだ。


『ちょっとケイン、あいつら討伐に行って』


 遠隔念話が突然入る。この声は―――

 そういえば遠隔で状況確認するって言ってたな。


『降参して帰っていったんだからもういいだろ。』

『ダメーー! あのクソチェスタ! 討伐してきてーー!!』


 やれやれ、予想通りめんどくさい事になった。

 俺は耳をふさいでその場から逃げ去った。

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