「手のひらの踊り子」
その日は深酒だった。
もう意識が朦朧とし、チップで払おうと思った5ドル札を手に持ちながら、右腕を伸ばし、机に突っ伏していた。
ふと、前に目線をやれば、腕の延長線上では妖艶な踊り子が舞台で踊っていた。
年は若く見えるにも関わらず、目を抉る美しさが飛び込む。
吸血鬼のような、吸い込まれる赤い目。
引き立てる黒く艷やかな髪。
ここだけ年相応のあどけなさが残る顔。
貪りたくなるような細い首、背中、くびれ、尻、脚。
全身を彩り、より踊りを深く魅入らせる鮮やかな色合いの装飾。
目線をわざと外すように顔を背けようとするが、もはや正常な思考は出来なかった。
私だけの物に。
そう思い、5ドル札を乗せたまま、伸ばした腕の手のひらを広げる。
すると、舞台がちょうど手で隠れ、あたかも小さなステージとなり、踊り子がその上に乗っているように見える。
5ドル札のステージで、華麗に舞い、私だけに微笑むように振り向く、手のひらの踊り子。
誘うように、時にはわざと逃げるように舞う。
本当に私だけのために踊っているかのよう。
夢でもいい。
この一瞬だけは私だけのステージだ。
そんな光景に、私の心も彼女の手のひらの上で舞い上がってしまうのだった。
「素敵なステージを用意してくれてありがとう」
気がつけば、手のひらの5ドル札はなくなっていた。
こんな事になるのだったら、深酒をするなら、もっとチップを用意しておけば、もっといいステージを用意できたのにと後悔した。
とある夜の話だった。