卒業式まで4日
「これとこれどっちがいいかな?」
留伽は二つの缶を持ち、陽に差し出す。
「うーん、こっちのが可愛くないー?」
陽は片方の缶を指差す。
「可愛さとかどうでもいいんだよ、十年間もつ耐久性が大事なんだよ。」
「えー?真面目だなあ、缶なんてどれも変わらないでしょー?」
留伽と陽がたくさんの缶を比べながら言い合いをしている。
今日は、学校帰りにタイムカプセルのための買い出しをしにショッピングモールに四人でやってきた。
しかし、いつの間にか留伽と陽の言い合いが始まり、私と航はそれを見守っていた。
「未羽はどれがいいとかある?」
隣に立つ航が急に話しかけてきた。
私はまだあまり航とは話したことがないため、少しだけ話す時に緊張する。
きっと、陽と留伽と仲良いんだからいい人に決まってるんだけど。
「ないかな。待ってれば二人が決めてくれそうだし。」
二人で話すことになりそうだし、何話すか考えとかなきゃ、と私は航への話題を考えながら返した。
「じゃあ、ちょっとあっち行かない?」
「あっち?」
航が指差す方を見ると、そこはペットコーナーだった。
ここからでも可愛い子犬がこちらを見ているのがわかり、私も思わず顔が緩んでしまった。
「行こう!」
テンションが上がって少しだけ大きい声になると航は笑って「よかった、元気で。」と言い、歩き出した。
そんな元気なく見えたかな、気遣わせちゃって悪かったなと思いながら後をついて行った。
私たちはペットコーナに入ると、無言になっていた。
私は、何か話さなきゃと思い考えていると、先に航が話し始めた。
「あの二人仲良いよな。」
航が予想外のことを話し始めたので、私は驚いて何を言っていいかわからなかった。
「いや、今日、特に仲良くない?」
航の方を見ると子犬を見ている目は、どこか違うものを見ているようなものだった。
たぶん、陽は留伽との距離を詰めるために頑張っているんだろう。
でも、そんなこと勝手に言うわけにはいかなかった。
「でも、私には留伽より航の方が仲良く見えるよ?」
私は、昨日陽に言ったことと同じことを言った。
「きっとそうだろうな。俺は友達だから。」
航は私の顔を見て、悲しそうな顔をした。
私はその言葉と航の目で、航の気持ちがわかった。
「でも、急に積極的に頑張るってことは、たぶんそうゆうことなんだろうな。」
航は陽が卒業式に告白しようとしていることに勘付いている。
それに気付いた瞬間、顔を背けてしまった。
「やっぱり、そうなんだ。」
「え、違う。いや、今のはそうゆうんじゃなくて!」
顔を背けたことで、航に心を見透かされた。
「ごめん、鎌かけたんだよ。未羽になら陽も話してるかなって。」
航の声は明らかに先ほどよりも沈んでいた。
もしかしたら、が確信に変わったからだろう。
「そうゆうの、話してくれないからさ。せめて、一番の男友達にはなりたいのに。」
私は昨日の陽の言葉を思い出して胸が苦しくなった。
「一年の時から、ずっとライブに来てくれてたんだ。その時から顔を知ってて、二年で同じクラスになって仲良くなれて嬉しかった。」
航は考えながら話すように言葉を繋げた。
「三年で俺と仲良い留伽も同じクラスになったから紹介して留伽と陽が仲良くなった。俺はそれが素直に嬉しかった。」
「うん。」
「陽が何か悩んでるような見える時期があって、俺は留伽に『陽、最近なんか違うよな。』って話したんだ。その後、陽は留伽に相談したらしい。留伽が陽に『なんかあった?』って声かけたらしい。」
私は、昨日の陽の話を思い出した。
陽が留伽を意識し始めた理由だった。
「俺は留伽に嫉妬してた。たぶん、気付いたら好きになってたんだろうな。でも、行動できなかった自分が憎くて、嫉妬する権利なんてないと思ってたんだ。」
そんなことない。
そんな無責任なこと私は言えなかった。
きっと、ものすごく考えてきた航の気持ちを否定はできなかった。
「タイムカプセルの話を陽に持ちかけられた時に思った。留伽を呼んでほしいから、俺に声をかけたんだって。」
「そんなことない!」
私は思わず言葉が出ていた。
自分でも声の大きさに驚いた。
「陽が航に声かけたのは、航といて楽しいからだよ、それは間違いないよ。陽が航に見せてる顔は本当だよ。ずっと一緒にいるんだから私はわかるよ。」
航は少しだけ驚いた顔をしていた。
でも、私は言葉が止まらなかった。
「それに、私にも気遣ってくれて優しくて、ほとんど話したことなかったのに、一緒にいて楽しい人なんだろうなってわかるから。だから、絶対航のことだって大切な人だって思ってるよ。」
私は自分でもこんな無責任な何の根拠もないことを言うとは思わなくて驚いた。
「なんだよそれ、最後の方ほとんど未羽の気持ちじゃん。」
航は笑ってくれていた。
「もっと、航は考えないで行動していいんだよ。きっと思っている以上に周りは航のこと大好きだから。」
航に笑って欲しかったから、素直な気持ちを言った。
すると、航は笑ってはいなかった。
少しだけ泣きそうな顔をして私を見ていた。
「ありがとう。」
涙で溢れそうな航の目はきっといろんなものを見てきたんだろう。
留伽に嫉妬する自分を責めたり、大好きな友達なのに憎んでしまったりしたんだろう。
「なんか、めっちゃ気が楽になった。戻るか!」
航が振り返って、歩き出そうとした。
「あ。」
航は急に思い出したように声を上げた。
「なに?」
私は航を見た。
「未羽も考えすぎるなよ、気遣ってんの、未羽もめっちゃ伝わってきてた。わかりやすいよな。」
そう言って航は笑った。
「きっと、何話そうって思ってたんだろ。」
そんなわかりやすいか、ばれてたの恥ずかしいなと思って顔が赤くなりそうだった。
「でも、わかりやすいから、今やっと本当の未羽を見れた気がして、嬉しいわ。熱い女だな。」
熱い女なんて初めて言われてもっと恥ずかしくなったから、私は無視をした。
「わかりやすいな、ほんと。」
航はヘラヘラ笑っていた。
「もう、帰るよ!」
私が怒ると航は笑っている。
「考えないで、話してんだよ。未羽は俺のこと大好きだから許してくれると思ってな。」
航は笑って歩き出した。
「言わなきゃよかった!!!!」
私が大声を出すと航はどんどん笑ってくる。
「俺も告白できたら、するよ。」
航は急に真剣な声になった。
「考えすぎずに、したいようにする。好きなら好きって言いたいからな。」
航は前を歩いていたから、顔は見えなかった。
でも声だけで、その気持ちは十分に伝わってきた。
「おーい!留伽!陽!」
二人のところに帰るとまだ二人は言い合いをしていた。
「タイムカプセル用の入れ物、ネットにめっちゃあるからそこで買った方が安全じゃね?」
航はスマホの画面を二人に見せながら言った。
「それ最初から言えよお前!」
留伽は怒鳴りながら航のスマホを奪う。
「他にも買うものあったからいいだろ?」
航は留伽をなだめながら笑っていた。
「あとは、やっぱもう少しなんだから短い時間でもお前らとふざけてたかったんだよ。」
航は少しだけ真剣な声で言うと、留伽は少しだけ照れたように「きもい!」と航の背中を叩いていた。
陽は二人を見て楽しそうに笑っていた。
新しい友達がまた増えたな。
私も嬉しくて一緒になって笑っていた。
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