卒業式まで5日
「ばいばーい。」
「また明日ねー。」
色んな人の声が混じる中で私は黒板の《卒業式まであと5日》というカウントダウンを見つめていた。
今日、留伽とは席が前後なのにも関わらず、「おはよう。」しか言葉を交わさなかった。
私からは話しかける勇気がなく、そのまま時間だけが過ぎ去った。
昨日の電話でなんとなく仲良くなれた気でいた自分は間違いだったのかな、あと五日で終わる関係なのかな。
そんな一人で考えても仕方のないことをぐるぐると一日中考えていた。
「未羽ー帰るよー!」
後ろから陽に声をかけられ私は急いで帰る準備をして教室を出た。
階段を降りていると途中で留伽と航がカップラーメンを持ちながら歩いているのが見えた。
私は声をかけるか迷っていると陽も気付き横から「留伽ちゃーん!航ー!」と声をかけると、二人は気付いて手を振ってきた。
陽が「練習頑張ってねー!」と言うと二人は「ありがとう!また明日な!」とこちらに返してきた。
陽は笑顔で手を振るが、私はなぜか手を振ることはできなかった。
きっと、私なんかより何倍も陽のが仲が良い、だから声をかけることだって躊躇わないんだ、そう思うと自分がちっぽけに思えたから。
もう卒業も目前ということもあり、帰り道はプリクラに最近人気のカフェという、いかにも女子高生らしいことをしようと計画していた。
プリクラを撮り終え、カフェで散々スイーツの写真を撮りまくると、陽は急に静かになった。
私は陽が話し出すのを待ち、スマホを見ながら時が流れるのを待った。
きっと一分もなかったとは思うけど、私にとっては長かった沈黙の後、陽は口を開いた。
「言おうか、迷ってたんだけど、やっぱり未羽には、言うね。」
よく女子高生が内緒話の最初にいう台詞。
私は「うん、何でも聞くよ。」と言い、スマホをテーブルに置き、陽を見た。
やっぱり好きな人の話とかかな。
陽はモテるし、卒業式前にしてもう告白されたのかな、など一人で考えていると陽は話し始めた。
「私、留伽のことが好き。」
陽は恥ずかしそうに、でも私の目を見て言った。
きっとそんな顔されたら男子は好きになっちゃうんだろうな、なんて冷静なことを頭では考えていた。
私は言葉に詰まった。
別に詰まる必要なんてないのに。
「そうなんだ。」
違う、もっと何か言わなきゃ。
「仲良いし、お似合いじゃん。応援するよ。」
頭では何も考えず、私の口からは言いたくもない言葉が勝手に出ていた。
「一年の時に、歌ってる留伽を見て、かっこいいなって思った。ただの憧れだったけど、三年で同じクラスになってちゃんと話せるようになって、内面が、すごい素敵な人なんだって知ったの。」
陽は女の子の顔をしていた。
「いつもはふざけてるけど、仲良くなり始めた頃に私が進路で悩んでたことを相談したの。そしたら、私には無い考えとか、未来を見ていて、知っていくうちに、好きになってた。」
知ってる、素敵な人なのも、未来を見てるのも、知ってる。
心の中で少しだけ反抗していた。
「私、陽は航のことが好きなのかと思ってた。」
私は素直な疑問を口にした。
「航の方が仲良く見えるよね。わかってるの。でも、私どうしても好きな人の前だと緊張しちゃって、上手くいかなくて。本人の前では留伽ちゃんなんて言ってる。せめて、一番仲良い女友達にはなりたいのに。」
緊張して、上手くいかない。
私は驚いた。
私にはわからないくらい留伽への態度はいつもの陽のままだったのに。
私は、心の中で反抗したことを後悔した。
陽はきっと、すごい努力をしている。
陽くらい可愛かったらな、なんて考えたことはいくらでもあった。
でも、陽は外見が可愛いだけじゃないし、きっと毎日欠かさないことだってきっとあるんだろう。
「まあ、今日言いたかったのは、それだけなんだけどね。気を使ってほしいわけでも何でもないけど、未羽には言っといた方がいいかなって思ってたからさ。すっきりした!」
陽の笑った顔は可愛かった。
「告白しないの?」
私はまだまだ陽の話が聞きたかった。
自分にはない、何かがあるから。
「私にそんな勇気があればいいんだけどね、今は、一緒にタイムカプセル埋められるだけで本当に嬉しいんだよね。」
言葉を言い終わった後、陽は私から目を逸らし少しだけ迷った顔をして、また口を開いた。
「でも、やっぱり離れちゃうって思うと最後に気持ちを聞きたいとは思ってるよ。」
卒業式。
陽は卒業式に告白するつもりなんだ。
「やっぱり、こうゆうの話すの恥ずかしいね。」
陽は照れて顔を手で覆っていた。
外も暗くなり始め、私たちは明日も学校があるため、帰ることにした。
「ばいばい!」
駅で手を振る陽は夕焼けでオレンジで、留伽と二人で初めて話した公園を思い出した。
お似合いじゃん。
そう思って、なんだか胸が苦しくなった。
気のせいだ、そう思って私も手を振り、家に向かって歩き出した。
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