卒業式まで7日
「タイムカプセルを埋めたい。」
その一言により、今日私たち四人は学校の後このファミレスにいるわけである。
言い出したのは私、与田未羽の友達 真田陽。明るい上に顔も綺麗なため男女問わず好かれるタイプの人間。
今日は高校の卒業式のちょうど一週間前の土曜日。学校ももう数少ないこともあり、「最後に青春したい。」と言っていた陽が急に私たちを集めた。
「んで、なんのメンツだよこれ。」
吉川留伽がコップの中の氷をストローで突きながら不満そうに言う。
「留伽ちゃん未羽と仲良くないっけ?」
「留伽ちゃんて呼ぶな!!」
吉川留伽の厳しいツッコミが飛ぶ。
そもそもこの企画は陽が席が前後の佐久間航に提案したことで始まった。
佐久間航は背も高く運動神経も良いことから典型的にモテるタイプだった。しかし、女子に言わせれば優しすぎる節があるらしくなぜか彼女はいない。
そんな佐久間航が仲良い吉川留伽を、陽が私を誘ったことからこの四人でタイムカプセルを埋めることになった。
しかし、私はあまり男子と話すタイプではなく、女友達がいれば楽しいじゃん。というタイプだったため、二人とは同じクラスなだけであって、接点はあまりなかった。
「まず、なんて呼べばいい?与田さん。」
目の前に座る吉川留伽が私に話題を向ける。
私は急に名前を呼ばれてドキリとした。
「与田でいいよ。」
私は無難に返すと、陽は不服そうだった。
「この1週間で距離縮めなきゃなんだから、未羽でいいじゃん!で、未羽は留伽ちゃんって呼びな!」
「留伽ちゃんはやめろ!お前も呼ぶな!」
陽は吉川留伽につっこまれるとケラケラと笑って楽しそうにしている。
「じゃあ、もうみんな名前呼びでいいな?」
吉川留伽が急にまとめ始め佐久間航も「いいよー。」と小声で言う。
「よし、決定!」
「なんだかんだ言って一番ノリノリなの留伽ちゃんだよね。」
陽は嬉しそうに笑い、話を進めていく。
その日の会議では卒業式の前日にタイムカプセルは埋めること、開けるのは十年後ということが決定した。
他にも、この一週間で買い出しする日タイムカプセルに埋めるものを入れる日、タイムカプセルを埋める日の三日は集合することが決まった。
陽はもっと仲良くなりたいと言っていたが、吉川留伽と佐久間航は卒業式後に軽音部のバンドのライブがあるため、これでも練習日以外は全て私たちに時間をくれている。
私はドリンクバーに向かう時、陽に疑問をぶつけた。
「なんで、私を誘ってくれたの?私たぶん男子とあんまり喋らないからつまらないと思うよ。」
素直な気持ちを言うと陽は笑っていた。
「未羽、本当に面白いからそれをみんなに知ってほしいのもあるし、私は未羽と最後まで思い出作りたいからねー。」
こうゆうところを声に出して言えるところが、陽はずるい。ずるくて可愛いところだ。
ファミレスを出たときにはもう夕方になっていた。私は学校まで自転車通学のためみんなとはここでお別れだなと思っていた。
「じゃあ、私自転車だから、ここで。」
私が一人で歩き出そうとすると吉川留伽が隣に立ってきた。
「まじか、俺もチャリなんだよ、珍しいな。」
学校後、男女それぞれでファミレスまで向かったため、自転車のことには気付いていなかった。
「じゃあ、私らは駅あっちだからここで!」
陽は笑顔で私たちに手を振り佐久間航と二人で歩いていった。
私も小さく手を振ると、吉川留伽は「行こうか。」と言って駐輪場に向かった。
私は少し夢見ていた男子との下校に胸が高まった。
しかも相手は吉川留伽だ。
吉川留伽は身長は高くない、運動神経が良いわけでもない。しかし、歌がめちゃくちゃに上手い。やっぱり歌が上手いっていうのは心が奪われてしまうわけで、軽音部のライブには吉川留伽目当ての女子がわんさかくる。
でも、一週間の仲だ。もう、その後関わることもないだろう。そんなことを思ったら気楽に喋れそうな気がした。
自然な流れで自転車には乗らず押しながら喋っていると家が意外と近いことがわかり、帰り道もほぼ一緒だった。
「遠回りしない?」
吉川留伽の提案に私はなんとなく乗り、二人で公園の木陰の道をゆっくりと歩いた。
「未羽ってどんな人?」
「んーーー。」
そんなのほぼ今日初めて喋った人に直接聞くことではないんじゃないかと思いつつも、話題を出してくれているんだからと感謝して答える。
「よく喋るとか、笑ってるとか言われるかな。」
私は他人から言われるイメージを絞り出した。
「そうだよな、女子の前だとずっと笑ってるイメージあんだよ。もっと気軽に話してくれて良いのにちょっと緊張してんだろ?」
吉川留伽はヘラヘラと笑っていた。
私は少しムッといて言い返した。
「ちょっと緊張してんだろとかよく言えるよね。自分がモテてると思ってるんでしょ。そうゆう人嫌い。」
私は少し言い過ぎたと思い吉川留伽の方を向くとやっぱりヘラヘラと笑っていた。
「つまりは少なくとも未羽は俺がモテてるって思ってくれてるってことだな、ありがとうございまーす。」
ありがとうございまーす。の語尾が上がった言い方がうざかった。けど、私は自然と笑顔になれた。
「そうゆう留伽ちゃんはどんな人なの?」
少し嫌味も込めて留伽ちゃんと呼ぶと案の定「留伽ちゃんて呼ぶな!」と怒ってきて私は笑った。
「俺はな、熱い人間なんだよ。」
なんとなく気付いていたけど、吉川留伽はこうゆうことを言っちゃう人間らしい。
私の少し苦手なタイプ。
「熱い人間とは?」
「妥協はしねえ、楽しいことも辛いことも全力で。これが、俺の生きる道だわ。」
吉川留伽の声からは心から思っているというのが伝わってきた。
私はこの手のタイプには言い返したくなる。
「そんなの疲れちゃわない?」
「疲れるよ、そん時は休めば良い。」
吉川留伽は自分の考えを少しずつ言葉にするようにゆっくりと喋った。
「俺が大事にしてる友達は俺を大事にしてくれんだ。だから、疲れた時はいっぱい下向いてそいつらに頼るんだ。遊んでーって。それで、一日一緒にいたらもう復活。」
ものすごく吉川留伽はイメージ通りだった。
友達が大事で、全力で。
私にはやっぱり思考回路が理解できない。
苦手なタイプ。
「なんて、嘘だわ。」
吉川留伽は前を向いていた。
「なんで?」
私は吉川留伽の顔を初めてちゃんと見つめた。
「疲れた時はめちゃくちゃになる。でもな、そんなこと言ってたって誰も助けてなんかくれないんだ。自分を助けられるのは自分しかいない。だから前を向くしかないんだ。」
吉川留伽はそのまま前を見続けた。
「俺は夢があってな、妥協したくないんだ。それでも折れそうになる時はあって。誰かにすがりたくなる時もある。でも…。」
吉川留伽は言葉をつまらせた。
言うか言わないか迷っている顔、感情が全て伝わってくるようだった。
「キャラじゃないんだよ。」
意外だった。
いかにも自分に自信があり、本当に自分の夢へとまっすぐに走ってそうな人が、私みたいな何もない人間と同じような悩みを持っていることが。
だから、なんだか感情が表に出ちゃったんだ。
「私は夢を語るキャラでもないし、落ち込むキャラでもないし、何かを真剣に考えてるキャラでもないんだ。そんなこと知ってた?」
吉川留伽はなぜそんなことを聞くんだと不思議がりながら、「初めてちゃんと話すからな。」と答えた。
「じゃあ、私の中で留伽のキャラなんてないよ。私の中の留伽はまだ真っ白だよ。だから、私に話して。キャラなんかじゃない、全部本物の留伽と私は話したい。」
初めて誰かに感情が止まらなかった。
「きっと、友達といるときの留伽だって偽物なわけじゃないけど、何でも言っていい人がいるってそう思えるだけで楽じゃない?」
言い切ると私は自分でもこんなに話してしまうとは思わずに恥ずかしくなった。
「待って待って、ごめんね。こんな生意気なこと言って。なんか自分でもちょっと調子に乗ってしまったと思ってる!」
ちょっと早口になりながら、言い訳を並べる。
「留伽って呼んでくれた。」
留伽は話を聞いていたのかいないのか本当に嬉しそうに笑ってくれた。
「初めて人にこんなこと話しちゃったなー。恥ずかしー。」
留伽はヘラヘラと笑っていた。
きっと私が焦っているのをわかってくれて空気を変えてくれた。
「私のが恥ずかしいよ、こんなこと言うキャラじゃない。」
人に全部自分に話してなんて本当に言ったことがなかった。
「あー自分で言ってんじゃん。俺の中では未羽も真っ白だよ。」
「俺には見せてよ、本物の未羽。」
その本気なのか本気じゃないのかわからない目が今の私には安心をくれた。
私はこの人なら何でも話せるな、おこがましいけど、似てるななんて思ってしまった。
「じゃあ、最初の議題ね。」
私が張り切って言うと留伽は「なんだなんだー!」と茶化してきた。
「青春ってなんだと思う?」
私は自分で切り出しといて恥ずかしくなった。けど、留伽はなんだか真剣な顔をして考えてくれている。
「んーーー。」
こんなこと真剣に考えてやっぱり私と似ている。
「私と似て馬鹿だね。」
「なんだよそれ。未羽につられて馬鹿になっていくかもな、俺。」
なんだか、嬉しかった。
夕陽と重なる留伽がかっこよく見えるわけでも、心が高鳴るわけではなかった。
でも私は、この時間が続けばいいと思った。
私たちは二人の帰り道の分かれ道までいつの間にか歩いてきていた。
「じゃあ、ばいばい。また学校でな。」
留伽が手を振り自転車に乗ろうとすると、急に寂しくなった。
「また話したい!」
私はこんなこと声に出して言うことはなかったし、男子に言う時がくるとも思ってなかった。
そしてまた、キャラじゃないなと恥ずかしくなった。
「同じこと今思ってた。」
留伽はヘラヘラと笑った。
「嬉しかったよ、未羽の言葉。まじで、本気で、本当に嬉しかった!ありがとう!」
留伽は手を振り自転車に乗り込み私に背中を向けた。
ありがとうってちゃんと言ってくれて私の今日の不安は救われた。
そして私は自転車に乗り清々しい気持ちで帰り道を走った。
私の今日は、間違いなくキラキラしていた。
私は寝る前にそんなことを考えながら目をつぶった。
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