事実と小説は奇なり
中二の俺は、読書好きの友人から“交換自作小説”を持ちかけられた。
いきなり大学ノートに小説の冒頭を書いて寄越す友人はこう言った。
「なんか面白いこと、起きて欲しいって思わない?」
でも現実は所詮、起こり得る範囲内でしか物事は起こらない。
だったら、自分で好きな世界観を創ろう、というわけ。
でも俺は小説なんて書けない。だから翌日、ノートには一文字も書かずに友人にノートを返した。すると、友人は物語のイメージを話し始めた。俺が書きやすいように、とか言っていたが、結構内容は出来上がっている。俺は「変な話だ」と思いつつも、「もうお前がその内容で書けばいいじゃん」って気持ち。やる気ゼロ。
友人が語った話は「悪VS超悪。主人公は剛火って名前で―――」て感じ。話で聞いた主人公は、イメージとしてヒーローっぽくない。それがいいんだ、と友人は言っていた。
その日の放課後。
俺は、剛火のイメージそのままの人と偶然会った。
会った、というより巻き込まれた。
「悪VS超悪」の戦いに。
頭はパニック。
小説の世界が飛び出してきたのか?
それこそ“事実は小説より奇なり”ってコトで。
―――ていう話を、俺は友人と向かい合って話した。
俺が書いた小説の冒頭。
折角だから、友人を登場させた。ただ、話の中では“書く立場”が逆転している。
やっぱり「変な話だ」と友人は言う。そして議論は、「もし自分の空想生産物が現実世界に現れたら、そいつはどうするだろう?」と言うテーマになった。昔、そんな本を読んだんだ、と言う俺。
俺の考えでは、剛火は間違いなく俺を殺す。
俺が剛火を生み出したのだから、責任を取らなければならない。そんなことを友人に言う。
「それ、僕に対する罪滅ぼし?」
中学生の姿のまま、友人が言う。
大人になった俺は口を噤む。もう何年も照明をつけない、この暗い部屋で。
狂った俺は、毎日友人の幻を見た。
それは初めて犯した罪。
中学時代の裏切り、そしていじめ。
自殺した友人。
毎日毎日、友人は現れる。
俺の罪は消えない。
俺は、自分が作ったものに、責任をもたなきゃならない。
でも俺は、その友人が幻であることも、自分がいつの間にか大人になったことも、自覚できないでいた。いつまでも中二のあの日。
これこそ、小説より奇なりの出来事だというのに、俺は気付かない。