第64話 そしてウシオの場合
細かな九尾の狐の伝承とは差異がありますが気にしない!だってオリジナルのお話ですもの。
~ウシオサイド~
気にくわぬ。
何やら先程帰ってきた悠介たちだったがどうにもルヴィンのやつの距離感が著しく近い気がしてならん。
で、本人に聞いてみれば新しく買うてもらった服を生涯大事にするときた。果たして吸血鬼とはこんなにも喜色満面で微笑む種族であったものか・・・。
結局今日アリスのやつは酒では酔わぬ奴の種族特性からか途中で体を動かしてきたいと二本足で走り込みに行ってしまったからの。付き合ってくれたのは宿屋の幼い倅だけであったし。「キツネのお姉ちゃんすっごく綺麗でドキドキする!」とは・・・無垢な子供はどこの世界でもいい物よ。
その後は昼から呑んでいたせいか珍しく、らうんじの長椅子で寝てしまっていたらしい。
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微睡みに見た夢はつまらぬ過去の夢であった。
殷王朝時代の中国。そこでこの世に生を受けた妾は最初は平々凡々なそこらの娘と大差は無いと思うていた。
しかしわが母上は常軌を逸している。
それが後の世に伝わる傾国の女、蘇妲己。歴史に残る大国家の紂王を己が色香で狂わせ贅沢・悪逆三昧の末に滅ぼした金毛白面九尾妖狐その人であった。それより以前は印度にいたとかいうがそこまで詳しいことは知らん。
古来より妖狐は魂だけの存在となり何度も転生を重ねると信じられてきたが実際はその力を脈々とその娘に継がせていく種族であったため、母上が討伐された際にまるっと妾にその全ての力が継承されたのである。
その後は己が強大な力と追っ手に脅えながら何とか東から海を渡って来たとかいう者共を【魅了】で傀儡とし、後に日本と呼ばれる島国に逃げ延びた妾は玉藻の前と名乗り暫く生活していたが息子を産んだ頃に陰陽師に狐の気配を察知され追いかけ回されることになったのじゃ・・・。幸い男の子であったためか我が力は微々たるものしか持って行かれんかったが。
そうしてかえでの話では殺生石と呼ばれていた岩の鎮座する那須野が原の地にて妾は神の遣いを名乗る者と出逢うたのだ。
奴曰く、『母親のせいで悪辣の獣呼ばわりされなんとも見ておれん、【悪さ】をしないと誓うなら別の世界に送ってやろう。それから後々我が世界にある一人の男が現れることになるから手助けを頼みたい』とのことだった。
さすがに怪しく戸惑ったが状況は背に腹は変えられぬもの、提案を呑むと伝え目を瞑った次の瞬間には世界の雰囲気や大気に内在する魔力は見知ったものとはうって変わっていた。
火山の裾野にいたはずの妾は海の見えるどこまでも続く草原の只中に突っ立っていたのだ。妾とて瞬間移動の術くらいは持っておったがかなりの魔力を持っていかれる上、一度訪れた見知った場所同士の間しか跳べない故ほぼ死にスキルと化しておったので使った覚えは当然無い。
落ち着いたあとは周りに何かないかと探したところ打ち捨てられたような小屋があり、そこにはご丁寧に玉藻様用と書かれていた。
半ば呆れつつも中を覗くと当面の食べ物に加えてこの世界の世相や常識など記した本が丁寧に揃えてあったので遣いが余程神経質なのだなと少し笑えたものだ。
この世界の名はうぃとるーす、前の世界に比べ魔力に満ち満ちた土地である。
界渡りが上手くいったのであれば名も変えようと思いつつ、窓に目を移した時に見たこともないようなとても美しく夕焼けに染まった海に感銘を受けたので《潮》と名乗り、姿もそれまでの熟れた肉体から幼い童女のものにすることにした。
言葉はどうしたものかと思ったがいつの間にやら習得していた【異世界言語】によりこの世界の言葉は会話も書かれた文字でさえ自動的によく見知った物に変換されるという便利さ。日本に渡った時にこの術があれば苦労して覚える必要もなかったというのに・・・。
そして元の世界で使っていた様々な魔術に仙術は問題なく行使可能なことも実証した妾はとりあえずがいどにあった近くの街へ身を寄せることにしたのだ、それが現在のひゅーまんの国であるくろのすであった。
どうも妾はこの世界の名称が苦手らしい。
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「おーい、メシだぞウシオ。」
「ぅあ?」
なにか夢を見ていた気もするが覚醒と同時に消えていったので特に言及するまでもないモノだろう。
「それにお土産もあるんだよ。」
「ほう?妾に上納品とはなかなか殊勝なものではないか。」と涎を拭いながら上体を起こしたところになにか手渡された。
悠介はたまにこういったさり気ない気配りをすることがあるが対象が妾とは珍しい・・・ん?これは・・・。
「この世界じゃ珍しいだろ?」
「おお、金平糖ではないか!!」
「俺もこれ好きでさー、今日買い物してる時に見つけたんだぜ?」
それは古い記憶、まだ母上が生きていた頃によくくれた大好物のお菓子であった。
ひとつ摘んで口に放れば程よい甘さが広がって懐かしい子供であった頃の思い出も蘇ってくるというものだ。
思えば悪を極めたような我が御母堂さまであったが妾に接する際だけは世の母親と変わらぬ愛を授けてくれていたのだったな・・・。
その結果、妾は自分でも気付かぬうちに大粒の涙を流していたらしい。大慌てする悠介と騒ぎに気づいたクロをはじめとした数人が寄ってきて結局いつもの五月蝿さに辟易するのであった。
奴には精一杯の感謝を。
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金平糖美味しいです。




