96話 無礼な探偵
俺は城下で評判の探偵を、城に招く事にした。
「お初に、お目にかかります。」
血を連想させるような赤い口紅、凍てつくような冷たい視線。
「秋にございます。普段は商人として財を得ているのですが、事件が起きた際は探偵として働いています。」
探偵の名は、秋。
大した家柄では無さそうだが、目と目を合わせるだけで威圧感を感じる。
「此度の用件は、そなたに仕えてもらいたく呼びつけたのだ。」
「・・・仕官のお誘いですか?」
「ああ、何か問題でも?」
「・・・はっきり申し上げますと、私は今の将軍が嫌いです。伊勢長島で2万人を大虐殺した、織田信長を、どうしても許せないのです。」
「貴様っ!」
蘭丸が抜刀した。
「やめよ、蘭丸。秋殿、話の続きを。」
「・・・はい。実は私は、伊勢長島の一向一揆に加わった健二の娘です。つまり、伊勢長島の残党です。今、私を手討ちにした所で、無駄です。私は既に2児の母親ですから。それに、朝廷から仕官のお誘いがあったので、そちらを優先しないと私の首が刎ねます。」
「・・・ならば、朝廷へ行くがよろしい。話は終わりだ、早急に立ち去れ。」
秋は帰っていった。
静まり返っていた部屋は、秋への愚痴でいっぱいになった。
「何じゃ、あの態度は。」
「今すぐ手討ちにしたほうがよろしいのでは・・・」
「口の利き方も知らぬとは、さすがは田舎娘。」
俺は隠れた場所で人の愚痴を言う奴が嫌いだ。
愚痴を言うなら、その人の前で言えばいいのにもかかわらず、影でこそこそ愚痴を言うとは、まるでネズミだ。
「黙れ、静かにしろ。」
俺は家臣たちの愚痴にうんざりして、部屋を出た。
「東様、秋殿を放っておくのは危ないかと・・・」
「朝廷から仕官の誘いが来た女だ、そう簡単に始末できる女では無い。」
俺は菊を呼んだ。
「菊、今すぐ秋に会ってこい、そして似顔絵を描いて来い。」
「はい、絵は得意ですので。」
俺は菊を見送ると、今度は小松を読んだ。
「小松、九戸城の跡地に新たな城を築く。牢獄にいる者たちを九戸に送れ。」
「はい。」
九戸城・・・
俺的に好きじゃない。
改名しよう。
ん~と、俺が築く城だから、大滝城!
・・・イマイチ。
岩手のお城だから、新岩手城!
いいかも・・・
次は星を呼んだ。
「星、今すぐ茶々を探すお触れ書きを出せ。些細な情報でもいいから、とにかく情報収集だ。」
「はい、かしこまりました。すぐに取りかかります。」
三つの事を同時に進める事によって、時間に余裕が生まれる。
同時進行は便利だ。
俺は武士の美学とか和の精神とかはどうでもいいから、とにかく便利性を重視するスタイルで暮らして行くつもりだ。