90話 時には嵐のように
「茶々、心配したんだぞ。」
意識を取り戻した茶々に、俺は言う。
「・・・心配するのは私も一緒。」
冷めた目で、茶々は言う。
茶々は普段は可愛い。
だが、その可愛い顔とは裏腹に、心はいつも冷たい。
「私はあなたの事が好きです。このような事は言いたくありませんが、言わせてもらいます。あなた様は、物事を楽観的に考え過ぎです。」
茶々は、俺の悪い所を、遠慮も無くズバリと言った。
「あなた様がただの農民であれば別に良いのです。でも、あなたは大名。もう少し、危機感を持って、物事に当たるべきです。」
俺は何も言えなかった。
「・・・もう、話しても無駄ですね。では、あなたを後悔させてやりましょう。」
茶々はどこかへ行ってしまった。
俺は不吉な予感がした。
俺は城の警備を強化し、茶々の見張り役も数人増やした。
俺は信長様の居る、安土の方角を眺め、祈った。
俺自身、なぜ自分が祈っているのか分からない。
時々、神頼みをしてしまうのも良いと思う。
だが、神などいない。
現代でキリスト教などを信じている人も多数いると思う。
キリスト教の信者を真っ向から否定する訳では無い。
ただ、俺は神を信じていない。それだけだ。
それでも、神頼みばかりしてしまうのが、俺の悪い癖だ。
茶々の言う通り、俺は物事に対する見通しが甘いのかもしれない。
高校受験の勉強の為、進学塾に通った時も、テストの点数は全く伸びなかった。
俺は、先生の出す問題を、8割以上解けるようになればそれで良いと思っていた。
でも違っていた。
「・・・結局俺が悪いのか。」
俺は少し、頭を冷やす事にした。
茶々の言葉を、胸に刻みながら。
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言い過ぎたかもしれない。
が、姫というのはそういう物。
時には南風のように暖かく、時には嵐のように激しく接するのが戦国の女。
東様には、自分の甘さを思い知って頂かねば。
夫の欠点を埋めるのも、妻としての役目だ。
私は蔵から金を取り出し、荷車に乗せた。
他にも、薬や着物などを荷車に乗せた。
家出するのだ。
旅人と偽り、各地の情報を集める。
ただ、厄介なのは見張りの存在だ。
私は見張り役たちを、薬で眠らせた。
布で口を塞ぎながら、門の前まで来る。
「御方様、どこへ行かれるのですか?」
・・・やはりこうなるか。
「近くに珍しい花が咲いていると聞いた。見つけ出して、東様に渡そうと思う。」
私は噓を付く。
「不要不急の外出はおやめくだされ。」
・・・うるさい門番。
私は征夷大将軍、織田信長の姪。雑兵どもに指図などされたくない。
「黙れ。私の事を疑っておるのか?それならば、私に着いてくるが良い。」
門番たちは、それに従おうとした。
好機は今だ。
私は門番たちに攻撃を仕掛け、一瞬で気絶させた。
「すまぬな。」
私は走り出した。
最初の行き先は、九州。
情報を得る事が目的でもあるが、それだけではない。
九州は温泉地が多い。
日頃の疲れを癒すのに適している。
私は西の方角を見て、にっこりと笑った。