85話 安土からの使者
「東様。それは、乙女心という物です。」
茶々が言う。
「そ、そうなのか。」
俺は茶々に聞き返す。
「はい。東様の時代は、自らの意思で他人に嫁ぐのですか?」
ああ、そうか。
この時代は、政略結婚がほとんどだったんだ。
「そりゃあ、戦国時代とは違って戦が無いから。」
「・・・良い時代ですねえ。まあ、私は東様と恋愛結婚できた訳ですので、三姉妹の中で一番幸せかも。」
「おいおい、そんな事言ったら初や江が怒るぞ。政略結婚でも幸せに暮らした姫だってたくさんいるんだからな。」
「そうなんですね。で、話を戻しましょう。江が喜んだのは、蘭丸様が自分の事を愛しているかが分かったからです。」
「え?そりゃあ、愛してるに決まってるじゃん。」
「いいえ。この時代は政略結婚が当たり前の時代なので、男子が姫を愛しているかどうかは分からないのです。伯父上だって、私の義理の伯母である濃姫様が嫁いで来る前は、生駒屋敷に住む吉乃(読み方には諸説あり)というお方に夢中であったと聞いています。」
「でも、今は濃姫様を愛してるじゃん。」
「まあ、それは認めます。が、徳川殿の正室、築山殿はどうでしょう?嫉妬心が非常に強く、悪女と名高い築山殿は、きっと徳川殿から忌み嫌われていたでしょう。」
「確かに。でも、俺の時代では側室持てないんだよなあ。」
「子供が1人でも戦がありませんし、医療も発達していますからね。」
「戦国時代では、嫉妬深い女は嫌われるのか?」
「そうですよ。戦国の姫は家を守るのが使命ですからね。戦国は子供を残す事が重要ですから、側室も迎えなければならないのです。つまり、築山殿のような、側室を迎える夫に対して不満を抱く女は、嫁ぎ先の家を滅ぼそうとしているも同然なんです。」
「ん~、難しいなあ。」
戦国の姫って大変だなあ。
「いいえ、単純です。姫は家を守る為に生きるのですから、家の為になる事であれば率先して行う。それだけです。」
なんか良く分からないけど、姫は大変だって事なら分かった。
「東様。」
菊が来た。
「安土城から登城を呼びかける使者がお見えです。」
ん、使者?
俺は急いで身支度を整え、使者に会いに行った。
「信長様が急遽登城せよ、と仰せでございます。茶々様も御一緒に。」
登城?戦でもするのか?
でも、島津なら信忠様たちが頑張っているし、南部攻めだって準備さえ整えれば今すぐにでも出陣できるし、戦をするのであれば茶々を連れて行く意味が分からない。
政治的な面での話かな?
「茶々、安土城に登城する。一緒に来い。」
翌日、俺は数十人の護衛を従えて安土に向かった。