83話 江の失態
1583年、1月。
江は3万という大軍を率いて出陣した。
「無事であると良いですね。」
茶々がため息混じりに話す。
「護衛を付けているから、大丈夫だろう。ただ、厳しい戦いになるはずだ。」
姫にとっての戦は、恐らく恐怖でしか無いと思う。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ 江視点 ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
ふふふ、おかしいの。
どうして義兄上はあんなに必死何だろう?
私は織田信長の姪であり、浅井長政の娘である江よ?
勝てるに決まっているじゃない。
「敵が見えました。敵の兵数は、1万5千人と思われます。」
足軽が報告する。
兵数が上回っていれば、大丈夫。
鉄砲を持ってきた意味も無かったみたい。
「ここに陣を張れ。」
私は命令した。
素早く陣が完成する。
私は椅子に座った。
「敵が攻めて来ました!」
足軽が報告する。
「全員、鉄砲を捨てて私に着いて来い!」
鉄砲は万能だけど、重い。
兵数が上回っているのであれば、鉄砲なんていらない。
「突撃ーっ!!」
私は馬に乗り、命令した。
私を中心とした大軍が、戦場に移動する。
敵軍の姿が見えた。
「かかれーっ!」
私の合図で全軍が突撃した。
私自身も槍で戦う。
「てっ、撤退っ!」
敵軍は逃げていった。
「皆の者、勝ち戦ぞ!」
私の初陣は、見事勝利って訳ね。
これで義兄上も認めてくれるはず。
・・・ん?
何か、おかしい。
敵軍の総大将は南部陽政と聞いていたのに、私の前に出されたのは、汚い顔の雑兵らしき首。
主力部隊はどこへ行ったのだろうか。
・・・まさか!
「全軍、今すぐ撤退するぞ!」
私は馬を走らせた。
私は攻めるのに夢中で、主力部隊が奇襲してくる可能性を考えていなかった。
しかし、遅かった。
敵軍の旗が何万も掲げられている。
恐らく、兵は5万くらいだろう。
「江様、逃げましょう。」
森家の家臣が私に言う。
「嫌だ、皆と共に戦う。」
私は抜刀する。
「おやめください、江様。」
「義父上は決して逃げない人と聞く。ならば私も・・・」
「可成様の事は良いですから、逃げましょう。」
私は家臣の意見を無視し、敵陣に突っ込んだ。
「我は魔王の使いぞ!我と思う者は出会え!」
私は大声を出して、敵の注意を反らした。
その間に、味方は鉄砲を手に取り、射撃の用意を始める。
「誰もおらぬのか!南部家は終わりだな!」
敵を挑発し、なるべく鉄砲で射撃しやすい位置におびき寄せた。
「放てーっ。」
敵はようやく気付いたけど、もう遅い。
鉄砲の弾が敵軍を襲う。
私は弾に当たらないように気を付けながら、陣に戻った。
5万人もの兵で成り立っている大軍は、射撃に怯え逃げ帰っていった。
再び勝ちを手に入れた。
が、私は泣きそうになった。
3万の兵で出陣したにも関わらず、今の兵は五千人。
私の采配が下手だったのだろうか。
伯父の織田信長は、二千の兵で今川義元の二万五千の大軍に勝利した戦の天才。
なのに、その信長の姪である私が、なぜ采配が下手なのだろうか。
強さは、遺伝しないのだろうか。
私は自分を責めながら高遠城に帰還した。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ 俺視点 ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
江を迎えに行った。
もちろん、蘭丸も一緒に。
「蘭丸様っ!」
江は蘭丸を見ると、蘭丸に抱きついた。
「江、怖かったの。人がいっぱい死んでて・・・」
江は泣きじゃくりながら言う。
「分かったか、戦場の怖さが。」
俺は冷たく言う。
「分かったよ。分かったから、怒らないで。」
これはやばい。本気で泣いている。
「蘭丸に慰めてもらえ。俺は忙しい。」
俺は自室に戻った。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ 蘭丸視点 ◆◆◆◆
「お前は頑張った。」
私はそう、慰めるしかなかった。
初陣は辛い勝利、か。