55話 茶々が怒るとハリセンボウ
「信長様、畠という方からの贈り物でございます。」
力丸は俺に進言した。
「持ってこい。」
俺は命令した。
しばらくすると、漆塗りの文箱と、黒薔薇が包まれた和紙が差し出された。
俺は文箱の中に入っていた和紙を手に取り、内容を読んだ。
「えっ、これやばい意味の和歌だろ。」
俺は側にいた茶々を見た。
「どうしたのです?」
茶々は源氏物語を読みながら、涼やかな声で言う。
俺は返事の仕方が分からなかった。
「お見せください。」
茶々は俺の手から、和歌が書かれている和紙を抜き取った。
「・・・素晴らしい。素晴らしい和歌です。」
「本当か?」
俺は茶々が怒るのではないかと思っていた。
「畠殿は素晴らしきお人にございます。是非、畠殿を側室に。」
「側室を迎えると、茶々が悲しむかなって・・・」
「バカな事を言うのはおやめくだされ!東様を好きになってしまった畠殿の気持ちは、私の気持ちと一緒です。」
茶々はすごい剣幕で怒鳴った。
「分かった。分かったから。」
俺は茶々の説教をエスカレートさせるまいと、苦笑いしながら茶々をなだめた。
茶々は時々ハリセンボウのように怒る。
でも、怒る時の表情も何となくかわいい。
思わず、ニヤけてしまった。
ビシッ!
茶々の扇が俺の頬を打ちすえた。
「痛ッてっ。何するんだよ茶々。赤くなってんだぞ、もう。」
「何するんだよじゃなくて何してんだよ!ぼけーっとイヤらしい事考えているヒマがあったら、領地を発展させるために手を尽くす物です。伯父上から与えられた領地であるにも関わらず、未だに分国法を定めていないではないですか。」
「分かった。今すぐ考える。考えるから。」
「その前に、畠殿への返事を。」
「はいぃ。」
俺は和紙と墨を用意すると、畠への返事を書き始めた。