51話 引越し
少し前に命じられていた、美濃、信濃の領主の座。
先日、信長様から、正式に引越の命令が下された。
「ついに俺も大名か。」
「おめでとうございます。信長様に精一杯尽くした褒美ですよ。」
茶々は喜びでいっぱいの俺を褒めてくれた。
「いや、一番の褒美は、そなたが懐妊したことだ。」
「男子だと良いのですが・・・」
「気を重くする事はない。姫でも良いではないか。それに、男子が産まれなくても側室が・・・いや、何でもない。」
流石に身ごもっている正室の前で、側室の話をするのはやめといた方がいい。
「側室を迎えるのは、いけないことではありません。」
「いや、でも・・・」
「良いですか?お聞きください。当主というものは、何が何でも家を絶やしてはならないのです。そのためには、子供がたくさん必要です。ですから、側室は必要なのです。側室がたくさんいたら、私が悲しむと思っているのですか?私はそのような嫉妬深い女ではございません。私だって無理に側室を迎えろと言っているのではありません。ですが、私は東様の血が続くように願って、こうして注意しているのです。せめて、5人以上は側室を持ってください。」
「分かった。分かったから、それ以上はやめてくれ。」
「はい。」
俺は茶々が賢いという事を改めて実感した。
「輿を用意してある。疲れたら、すぐに言え、宿を借り受ける。」
「はい。」
茶々は輿に乗った。
旅は長いので、必ずひまになる。俺は、茶々にひまつぶし用の品々を、漆塗りの箱にぎゅっと詰めて、茶々に渡した。
「ひまになったら、貝あわせでもしておけ。他にも、書物や化粧品を詰めてある。」
「お心遣い、ありがとうございます。」
茶々は微笑んだ。
俺は馬に乗り、信濃へと行軍した。