35話 『京の都の殺人鬼』
7月に入って間もなく、うれしい知らせが届いた。
「『京の都の殺人鬼』が宣教師に大人気?」
「はい。そうでございます。」
使者ははっきりとした口調で答えた。
「ポルトガルで売る事を許可してほしい、との事です。」
「うーん。」
勝手に許可して、良いのだろうか?
茶々に聞いた方が良いのではないか?
でも茶々は近江の竹生島に遊びに行っている。
「著作権は茶々様にありますので、利益の半分を茶々様に納めますが。」
「分かった、許可しよう。」
茶々は大滝家の発展に尽くすと言っていた。
大滝家当主の正室の作品が売れれば、大滝家の格式も上がるだろう。
そう説明すれば、茶々は理解してくれる。
「はっくしゅっ!」
その頃茶々はくしゃみを連発していた。
「姉上、調子に乗って泳ぐからですよ。まだこんな寒いのに。」
初が言う。
初もまた、竹生島に来ていた。
「初の姉上の言うとおりですよ。ああ、寒い。茶々の姉上は寒くないのですか?」
「私をなめるな江。これでも大滝家初代当主の正室なのだぞ。」
茶々が反論する。
「それなら私も、佐治一成様の正室ですわ。」
初が自慢げに言う。
「ならお2人とも。私が大滝家家臣森蘭丸様の正室である事も、お忘れなく。」
いつのまにか、『竹生島バーベキュー会』ではなく、『○○様の正室自慢会』になっていた。
「はっくしゅっ!もう、誰かが私の噂でもしてるわけ?」
うむ、それは茶々の正解だ。大正解だ。