177話 限界
「やはり、大広間の衛生環境が死因でしょう。幼子は、まだ免疫力も弱く、環境が悪いと成長に悪影響を及ぼす事もあります。あの汚さで今日まで生き抜く事ができたのは、奇跡と呼べます。」
曲直瀬殿の言葉が異国の言語に聞こえる。
「我が子を2人も亡くし、落ち込んでいるとは思いますが、過去を振り返っても失った物は戻りません。ですが、新たな子をつくることはできます。ですから、前を向きましょう。」
曲直瀬殿の言葉は、薬となって俺の体に浸透していく。
2ヶ月後、菊は大病を患った。
轟が死んでから、食が細くなり、栄養が十分に摂れていなかったからだろう。
何度も注意した。
顔が青白くなっていたし、腕も枯れ葉のように細くなっていたので、普通ではないと思ったからだ。
俺の言葉が菊に届くはずがないと分かっていた。
分かっていたけれど、諦めれる訳がない。
茶々は健全だが、夜中にいつも泣いているので、四六時中目が腫れている。
夜中に泣き声がするので、怪談までできてしまった。
それに、前よりも随分と痩せている。
健康には問題はないのだが、いつ倒れるかは分かったものではないので気を抜く事はできない。
だが、まだ望みはある。
小松はもうすぐ臨月に入る。
菊と茶々は誰かを妬むような性格ではないので、大丈夫だろう。
自尊心はあるものの、傲慢ではない。
国母にふさわしい性格を持ち、夫をいかなる状況でも支えられる女が、大名の妻となれる。
だからこそ、大名の奥方は尊敬され、第二の主君と謳われるのだ。
だが、いくらなんでも人には限界というものがある。
大切な者を失った時、限界は訪れる。
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