169話 浪人
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ 蘭視点 ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
私のような小娘がたった1人で大滝家に立ち向かうなんてできない。
だから、仲間を集める事から始めよう。
不正に入手した大金で、浪人たちを買い集める。
人は『義』ではなく、『利』で動く。
浪人たちを買えば、そいつらはもう私の手足。
近江と大和の国境付近には、浪人がうろうろしているらしいので、行ってみよう。
道中には素敵な商品が沢山売ってあったが、欲を抑えて歩き続けた。
大滝家に対抗する為、というよりかは、自分にとっての幸せがどういう物なのかを調べる為。
人攫いに攫われた時から私は、自分にとっての幸せが何なのかが分からなくなっていたのだ。
初恋の人である東様の側室になれたというのに、どうしてだろうか。
裕福な家庭で育って、望む物を全て手に入れて、好きな人と結婚できれば、それで幸せという訳でもない。
前方に、つぎはぎだらけの服を着ている男たちが見えてきた。
「お前、誰だ?」
目つきが悪い。
そりゃそうだろう。
私は、平民たちでは入手不可能なおしろいと口紅を使っている。
自分たちを馬鹿にしにきたのかと誤解しているのだろう。
「私の名は蘭。元は大滝家初代当主の側室だったが、ここに逃げてきた。お前たち、私の手下になる気はないか?もちろん、腹一杯食わせてやるし、金は好きなだけやる。」
浪人たちの目に光が戻った。
「本当なのか?いや、本当ですか?」
「本当だ。」
浪人たちは歓喜する。
「早速、飯を食いに行こう。」
手下を連れて飲食店に行き、昼食を済ませた。
「これだけの人数なら、屋敷をで完成させる事ぐらい簡単だろうから、家を作れ。木材は近くの森の木を伐採してこい。」
具体的に言うと、200人ぐらい。
高遠城の城下町の人口に比べたらかなり少ないが、別にかまわない。
朝から晩まで働き、1週間で木造の屋敷が完成した。
広い訳ではないが、狭い訳でもない。
この屋敷なら質素で目立たないし、隠れるのに最適だ。
「まずは五十路の者たちから風呂に入れ。その次に二十歳未満の者たちが風呂に入り、最後に成人たちが入れ。」
200人もいるのだから、統率が大変だ。
夕飯の支度もまだできていない。
忙しいけれど、楽しく過ごせそうだ。