165話 笑う
気付いた時には、もう遅かった。
螺旋階段がある建物は、煙が充満しやすい。
安土城も螺旋階段がある。
今、安土城から使者が来た。
「安土城が何者かによって爆破されました。信長様はご無事ですが、重傷でございます。」
深呼吸をする。
呼吸を整えて、体の中心から全体に広がる怒りを抑えよう。
限界まで心を『無』にして、余計な考え事は一切しない。
時が進むに連れて、心が透明になっていく。
「政宗!」
「はい!」
「蘭を呼べ!」
上杉家を攻めた時、蘭はなぜか麻酔を使っていた。
だから信長様に苦痛を感じさせる事なく治療できる。
「東様、どうなされましたか?」
「信長様やその小姓が重傷だ。治せ。」
「はい。」
いつも同じだ。
塾の模試でも、終了したと同時に答えを思い出す。
それがいつも悔しかった。
でも、努力しようとは思わなかった。
もし、あの時俺が努力していたら、信長様は痛みを感じずに済んだのかもしれない。
無力な自分を責めてもどうにもならないというのに、俺を責める。
出来損ないだ。
神の失敗作だ。
小学生の時、喧嘩したともだちに言っていた言葉が全てブーメランで返ってきた。
ああ、ほんと、俺はどうしようもない人間だなあと笑う。
自分勝手だなあと笑う。
笑う権利すらないのに、なぜ笑うのか分からなくて笑う。