159話 無礼講
朝鮮の時のような悲劇は起こらなかった。
無茶をしてはいけないと、口が酸っぱくなるほど言ったからだろう。
俺の家臣団の殆どは、10代の若者だ。
手柄を立てたいが為に、後先考えずに行動するのがいけない。
ちゃんと指導しとけばよかったなと、今思う。
まあ、今さらこうしておけばよかったと考えても意味がないのだが。
「日本に戻ったら、安土で信孝の葬儀がある。お前も参列しろ。」
「はい。」
朝鮮から日本までは船で行く。
飛行機や車など、交通機関が発達した時代に生まれたので、船での移動には不慣れだ。
その為、船に乗ったら船酔いは避けて通れない。
初めて船に乗った時よりはマシだが、それでもしんどい。
「お前はまだ船が苦手なのか?」
呆れた、と言わんばかりに信長様は溜息をつく。
「す、すみません。」
「謝る必要はない。だが、そろそろ克服しろ。」
「はい。」
波が通常でもこんなにしんどいのに、荒波での渡航なんて死人が出そうだ。
九州に上陸すると、悪夢は終わる。
船酔いから解放された俺は、生き生きとした顔で乗馬した。
しかし、先日の無礼講のせいで、まだ酔いが覚めていなかった。
20日後、安土城は目前に迫る。
天下を統べる信長様の恥とならぬよう振舞っていたが、もう限界に近い。
「休んでもいいですか?」
「安土城は目の前だぞ。我慢しろ。」
体中から汗が吹き出てくる。
安土城に登城すると、すぐに厠で嘔吐した。
吐き気が鎮まったら、真水で口を濯ぐ。
嘔吐した日は、胃がダメージを食らって弱っている為、できるだけ消化の良い物を食べる事が重要だ。
もちろん、食べる量も重要だ。
嘔吐した後の胃の中は空っぽだ。
急に食べ物が運ばれてくると、胃は休止状態になっている為消化できず、また嘔吐する事になる。
だから、嘔吐した後は、消化の良い物を少しずつ食べるのが鉄則だ。
豆類は消化に悪い。
俺は枝豆が好きだが、嘔吐した後は食べないようにしている。
消化が悪い食べ物は嘔吐してから24時間が経過したら問題ない。
うどんは消化が良く、おまけに栄養豊富なので、食べる事を薦める。
「東。もうすぐ無礼講が始まるぞ。」
「ええっ、またですか?」
ああ、もう、うんざりする。
いくら大国に勝利したからとはいえ、これはやり過ぎだ。
が、命令と割り切ろう。
大広間には、信長様の重臣のみが集められている。
「ほれ、東。踊ってみろ。」
信長様が変な事を言う。
「どうした?これは命令だぞ。」
仕方あるまい、これは命令だ。
扇を持ちながら敦盛を舞う。
「下手な踊りだな。」
文句言わないでくれ、頼むから。
踊り終わると、杯に日本酒を注いで飲んだ。