144話 悲しき毒見役
体調が回復したので、松姫様に話しかけた。
「なぜ、このような事を?」
「・・・命令ですよ、信長様からの。」
命令?信長様の?
頭に大きなハテナマークが浮かぶ。
「これは、毒を見分ける事が出来るか出来ないかを試しているのです。ちなみに、このフグの毒で、佐々成政殿と柴田勝家殿が死にました。」
「ど、どうして試す必要が?」
「命を狙われる立場だというのに、毒を見分ける事が出来なければ論外です。」
「毒見役が見分けてくれるので、大丈夫だと思いますが?」
「可哀想ですよ、18歳の娘に毒見を任せるなんて。」
それは、江に言ってくれ。
「ですから、毒見役を解雇する事をお薦めします。いえ、命令します。織田信忠様の正室として。」
「かしこまりました。」
俺は、千鶴代に解雇する事を伝えた。
「嫌です。」
断られた。
普通に考えれば、解雇すると言って、黙って従う奴などいないだろう。
「退職金はいくらでもやる。だから・・・」
「そういう問題ではございません。毒見役でなくてもいいので、どうか私に仕事を・・・」
千鶴代は、急に黙った。
「どうした?」
「あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・」
千鶴代は、喉を押さえて苦しみ始めた。
「どうしたのだ?」
「・・・やっと・・・だ・・・やっと・・・死ねる・・・のだ・・・」
声がかすれている。
「あ・・・あ・・・東・・・様・・・あなたの・・・おかげで・・・私は・・・友人の・・・仇を・・・討てた・・・あ・・・あ・・・・・・・・」
千鶴代は、呼吸していない。
「あ・・・・が・・・う」
何を言っているのか分からない。
「もう1度、言え。」
「あり・・・とう。」
「もう1度!」
耳を、千鶴代の口に近づけた。
「ありが・・・とう。」
「!」
その言葉を言い終えた後、千鶴代は倒れた。
「分かっていたんですよ。」
ひとりごとのように喋り始めたのは、茶々だった。
「何が?」
「千鶴代が、最上家が滅んだ後に自殺する事は。」
仇を討つ事に成功したとしても、友人は戻ってこない。
永遠に。
だから千鶴代は、新しい友人を探すのではなく、一番仲が良かった友人とあの世で再会する事を選択したのだろう。
千鶴代の人生は、短かった。