海の彼方へ
急遽、信長様から安土城へ登城するよう命令が下った。
俺だけではなく、信長様の家臣団全員が。
恐らく、大声では言えぬような話なのだろう。
「私も連れて行ってください。」
勝の生母・茶々が言う。
「お前は勝の面倒を見ていろ。」
「勝の面倒は侍女に任せます。どうか、私もお供させてください。」
頑固。
「分かった。」
どうしても、近江に行きたいのだろう。
安土城に登城すると、極めて珍しい光景が広がっていた。
大広間に、信長様の正室、側室が座っている。
手前には、信長様の侍女や家臣やその家族、小姓たちも座っており、信長様が口を開くのを待っている。
「東、お前はここに座れ。」
信長様が扇子で、ここに座れと指図した。
「はい。」
俺は織田家の親戚衆だから、織田家での地位はそこそこ高い。
「皆、心を落ち着かせて聞け!」
信長様の声を聞き、くつろいでいた侍女や家臣達も、一斉に頭を下げた。
「わしは征夷大将軍に任ぜられ、若い頃から実現したいと思っていた天下布武を成し遂げた!だが、このままで終わる訳にはいかぬ!海外と貿易し、世界に進出する!」
家臣達がざわめく。
「信長様、世界へ進出するのは不可能でございます!折角戦乱の世が終わったというのに・・・」
佐々成政が反対した。
「黙れ!民が困らぬ程度にすれば良いのだ!」
信じられない。
世界に・・・進出?
さすがは尾張の大うつけ、そこまで考えていたのか。
日本を統一しただけで満足した俺が恥ずかしい。
「されど、信長様。世界は広く、信長様が生きている間に世界を平定するのはかなり困難かと・・・」
「東がおるではないか!時代の最先端を行く、東が!」
ええっ、俺?
茶々はニンマリと笑っている。
ちょ、ちょっと待って。
時代の最先端を行くのは信長様じゃないの?
何で、俺?
意味不明なんですけど。
「それでも・・・」
「成政殿!!!」
信長様の意見に反抗し続ける成政の言葉を、前田利家が遮った。
「我らは信長公家臣団!信長様の夢の為ならば、たとえ火の中水の中!それが信長公家臣団の心得ではないのか!?」
「利家、信長公家臣団ではなく信長家臣団と言え。これはわしからの命令だ。」
「承知!それでは言わせてもらう。我らは、信長家臣団!」
利家の一喝によって、世界進出反対派の意見は抑え込まれた。
茶々と共に、若狭湾を眺めた。
折角近畿に来たので、行ってみようと思ったのだ。
「信じられませんよ。」
茶々が言った。
「何がだよ?」
「伯父上が、世界に進出するだなんて・・・」
「そうだよな。信じられないよな。」
この綺麗な海の先には、まだ知らない世界がある。
ハワイやグアムには行った事があるが、スペイン、オーストラリア、ロシアなどの国は行った事がない。
日本だけではつまらない。
世界各地を巡り、その国の歴史や文化に触れる事によって、自分の世界観が少しずつ変わっていく。
「行こう。」
「どこへ、ですか?」
「・・・海の彼方へ。」
これで天下統一編が終了しました。
次は、世界進出編です。