134話 岡崎城
三河、岡崎城。
秀吉殿に招かれた。
俺と茶々は、天守閣に上がった。
「東殿、茶々様。お久しゅうございます。どうぞ、ごゆっくり。ほれ、茶を持ってこい。」
秀吉殿は濃いめの茶を出してくれた。
旨いし、温かい。
「今回、岡崎城へ招いたのは、もちろん祭りに誘う為で御座います。祭りは明日の早朝から夜中まで。」
なるほど、祭りの時間を長くして、混雑を避けているのか。
名案だ。
「茶を飲み終わったら、岡崎城の見学でもしてはどうでしょうか?家康殿が築城したので、籠城戦にも適しております。」
ああ、あの狸オヤジが住んでた場所か。
呪い殺されそうな気が・・・
いや、呪いなんてない!
・・・はず、だよな?
大丈夫大丈夫、秀吉殿の陽気な笑い声で、狸オヤジの幽霊も復讐なんて忘れてしまうだろう。
「茶々、これ食べてろ。」
「これは?」
茶々は懐紙を開くと、目を輝かせた。
「ま、ま、饅頭!」
「え?饅頭そんなに好きなの?」
「当ったり前!」
まるで子供みたいだな。
「俺は秀吉殿と話したい事があるのでな。」
先ほど部屋を持した秀吉殿は、東屋で昼寝をしていた。
申し訳ないが・・・
俺は秀吉殿の肩を揺すった。
「あっ。ああ、御用件は?」
松姫様と茶々、信長様は俺が現代人である事を知っている。
だが、秀吉殿にはまだ教えていない。
「実は俺、未来から来たんです。」
「・・・そうですか。で、これをどうぞ。」
・・・
ええっ!?
普通、「ありえない!」とか「すごい!」っていうリアクションをとると思っていたのに。
「そうですか。」って、理解するの早過ぎ。
まあ、それは放っておこう。
で、秀吉殿が俺に差し出したのは・・・金平糖だった。
「南蛮の砂糖の菓子にございます。」
あ、大好物のお菓子だ!
現代で好きなお菓子を聞かれて、「金平糖」と答えると、聞いてきたクラスメートは言った。
「あんなの、ただの砂糖の塊よ。」
分かってねえな、と俺は思う。
砂糖の塊だから好きだって事を理解できないのか?
小瓶の蓋を開け、金平糖を1つ食べた。
やっぱり、甘い。
「そうだ、木に登って頂けませんか?」
『サル』というあだ名を持つ秀吉殿だから、きっと木登りも上手いのだろう。
「木登りなら得意でございまする。」
そう言うと、秀吉殿は一瞬で木に登った。
「す、すげえー。」
中身までサルだな、おい。
木から降りた秀吉殿は、大声で笑った。
「木登りだけでなく、踊りもできますぞ。」
「では、やってみてください。」
「応!」
秀吉殿は、槍を持って踊り始めた。
「人間五十年~下天の内を~比ぶれば~夢幻の~如くなり~一度生を享け~滅せぬ者のあるべきか~。」
人間にとっての50年は、天の神たちにとっては夢幻と同じくらい短い。
産まれて死なない人間など、この世にはいない。
これは敦盛の舞だ。
信長様も日頃から好んでいるそうで、落ち着かない時はいつも敦盛を踊っているらしい。
「東殿も何か踊りを。」
「えっ!?俺が!?」
俺が好きな踊り、俺が好きな踊り・・・
そうだ、あれしかない!!