133話 科学者の暴走
1583年7月下旬。
奈々と親王が、正式に結婚した。
それに伴い、朝廷から大滝家に扶持が与えられた。
現代ではただの中学生でしかなかったのに、戦国時代にタイムスリップしたら妃になるだなんて、本人も想像していなかっただろう。
俺だって、こんなに出世するとは思わなかった。
でも、喜んでいる暇はない。
戦続きだったから、飢えた民が多くいるのだ。
ならば、蔵で管理している米や味噌を民に分けて、貧困層の民たちを救おうと思う。
「蘭丸、蔵に貯めてある米や味噌を農民たちに配給してやれ。」
「はっ。」
もう戦はしない。
後は穏やかな生活を楽しもう。
一揆が起きた場合は、武力で鎮圧するが、自ら戦をすることはもうやめる。
「申し上げます!加藤亜希子と名乗る者が、殿と話をしたいと申しております。」
加藤亜希子・・・
あっ、近江を中心に広がった病気の原点らしき者か!
「通せ。」
加藤亜希子は現代では有名な科学者だったから、テレビで見たことがある。
「あなたも、私と同じなのね。」
うん、テレビで見た通りの美しさだ。
「あなたは私が、近江を中心に広がった病気の原点だと思っているのね?」
「なぜそれを?」
「少し頭を使えば、それくらい分かるわ。私は、心理学者でもあるの。で、私は病気の原点なんかじゃないわ。」
「本当に?」
右手を挙げた。
すると、蘭丸と政宗と三成が障子を閉め、抜刀した。
「あらまあ、怖い。分かったわ、本当の事を話すわね。私は、ウイルスの研究をしていた。でもある日、何者かによって鈍器で殴られた。気が付けば小屋にいたわ。」
俺と一緒だ。
「実は私、新型のウイルスを生み出す事ができるのよ。だから、旅先の近江で新型のウイルスを生み出して、周りの人を感染させていったわ。」
「そうか。」
こいつは、生かしておいても何の得にもならないが、害にはなる。
今ここで息の根を・・・
「蘭丸、やれ!」
「はっ。」
蘭丸は亜希子に近づくと、刀を振り下ろした。
「御免!」
返り血を浴びた蘭丸は、懐紙で刀に付いた血を拭き取った。
「殿、この女はどう始末しますか?」
「適当な場所に葬っておけ。葬儀など悪女には必要ないしな。」
科学者は怖い。
好奇心が強すぎる。
現代でも、犯罪を犯して研究を行う科学者も大勢いた。
別に好奇心がありすぎるのを批判している訳ではないのだが、その好奇心が制御できない事を批判しているのだ。
さて、そろそろお腹減ったしご飯を・・・
ん?
俺って完璧に戦国武将になっちゃったよな?
初めて人を斬った後はご飯も食べれなかったし、全然眠れなかったのに。
完璧なる戦国武将にはならないと決めていたが、もうやめた。