123話 教育係といる日々
親王の婚約者は、教養や礼儀作法を叩き込まれる。
教える立場から、教えられる立場になったって訳だ。
漢字は得意だから苦労しないけど、礼儀作法がとっても難しい。
女子は座る時に片膝を立てるのだが、それが意外と苦痛。
普通に正座で良いじゃん。
「ほら、何をしているのです?あなたはいずれ国母となります。しっかりと学んでください。」
教育係の綾という人がものすごく厳しいのだ。
スパルタすぎ。
「次は香道です。」
「ええ?まだやるの。」
「これ、そのような言葉を使ってはなりません。」
「・・・はい。」
お香を焚く時は、決してくしゃみをしてはならない。
粉末が飛び散ってしまうからだ。
それもまた、難しい。
匂いがきつい香を嗅ぐと、どうしても鼻がむずむずして、くしゃみをしてしまう。
その度に綾は、「礼儀を知りなさい」と言う。
しっかりやっているつもりだが、教育係からしてみれば、まだまだ甘いのだろう。
「は、は、は、はっくしゅん!」
またくしゃみをしてしまった。
粉末が飛び散り、綾が咳き込んだ。
「何度言えば分かるのです?香道の際には決してくしゃみをしてはいけませんと申したでしょう。」
「そうは言われても・・・」
「言い訳は不要!」
2人子供がいると聞いたけれど、かなりの教育ママなんだろうなあ。
他人に対してもこんなに厳しいのに、自分の子だとしたらもっと厳しくしつけているのだろう。
行水は1週間に1回ぐらいしかできないから、香を焚いて体臭をごまかすのだ。
頭のふけなどは、目が細かい櫛で取り除く。
洗髪は殆どしない。
お母さん、きっと怒るだろうなあ。
ロケットランチャーなんか組み立てたら、そりゃあ悲しむわ。
「ほら、何をボーッとしているのです?次は流鏑馬ですよ。」
「や、流鏑馬?」
「そんなのも知らぬのですか?馬上で矢を放ち、的に命中させる武術ですよ。」
「そんなのして、何がおもしろいの?」
「おもしろい、おもしろくないの問題ではございません。これは学問です。」
こんなのが学問?
学問って、国語・数学・理科・社会・英語じゃないの?
歴史が好きでも、教科書に出てこないような、ほんのちょっとの雑学などはあまり知らない。
基礎中の基礎レベルだ。
「綾様、大変です!」
下女が転がり込んで来た。
「慌てるな。申してみよ。」
「はい!長宗親家が大軍を率い、私たちがいる御所に攻め入らんとしています!」
「なっ。」
長宗親家、とんでもないな。
御所に攻め入ったら賊軍って事になるんだよ。
それでも御所に攻め入るって、どんな理由だよ。
「噂によると、長宗親家は織田信長様を征夷大将軍にしたのが妬ましかったんですって。」
なあんだ、単なる嫉妬か。
でも、噂は噂。
百聞は一見にしかずということわざもあるくらいだから、自分の目で確かめた方が良いだろう。
「敵軍の兵は圧倒的。きっと負けます!」
何が心配なんだろう。
負ける訳ないじゃん。
こつちには、最高の切り札があるんだから。