120話 2人の計画
蘭は、暗くて狭い部屋に閉じ込められていた。
手足が縄で縛られているので、縄をほどいてあげると、蘭は俺に抱きついた。
「怖かったのよ、寂しかったのよ!?どうしてもっと早く見つけてくれなかったの?」
まるで子供みたいだ。
いつもの礼儀正しい蘭とは違い、声を上げて泣きじゃくっている。
次の瞬間、破裂音が洞窟内に響いた。
茶々が、蘭の頬をぶったのだ。
「茶々、何すんだよ!?」
思わず、声を荒げて言う。
「見苦しい。東様の側室たる者がそのように取り乱しては、天下人の親戚としての東様の立場が保てないでしょう?」
冷たい声に冷たい目。
やはり、正室と側室には決定的な差がある。
胸を張れるのは、正室のみ。
それゆえ、正室は強気になる。
だからといって、これはひどい。
長い監禁から解放されたのに、そのすぐ後に平手打ちされるとは、誰も予測できないだろう。
「廊下で私が挨拶をしても、返さない。貝合わせに誘っても、すぐ断る。私だって無視されて、寂しいのですよ。自分が一番、可哀想なんて思ってはいけません。」
正室への挨拶をしないとは・・・
明らかな嫉妬だな。
「東様の側室になるという事は、正室である私に仕えるも同然。なのに挨拶を無視するとは無礼に等しい行為。今ここで謝りなさい。」
蘭は、土下座しようとした。
「やめろ!茶々、俺が悪かった。蘭にも注意しておくから、土下座は勘弁してやってくれ。頼む!」
「東様が言うのなら、良いですよ。」
こうして修羅場は、終わりを告げる二方の謝罪と共に、幕を閉じた。
一件落着っと。
しかし、これは2人の企みだったのだ。
2人は自分たちにかまってくれないので、喧嘩をして東の注意を惹く事にしたのだ。
「私の言いたい事が良く分かりましたね。」
「ええ、目で訴えていましたもの。茶々様の目は、口ほどに物を言いますからね。」
優雅に紅茶を飲む、大滝家で2番目に権力を持つ者と、それに次ぐ位の者。
東は、まんまと罠にハメられたのだ。
「東様ったら、こんな罠も見抜けないとは、正室として恥ずかしいですわ。」
「ええ。」
女たちは、東に対して愚痴り始めた。
「料理ド下手。」
「不器用。」
「鈍感。」
「面倒くさがりや。」
「忘れんぼう。」
「ケチ。」
「冗談ド下手。」
「怖がり。」
「時々素直。」
「時々真面目。」
全て当てはまっている。
「へっくしょい!!」
東はくしゃみが止まらなかった。
「風邪でしょうか?最近、病が流行っていると聞いているので、休んだ方が良いのでは?」
「風邪じゃない!!」
鼻声だ。
「へ、へ、へ、へっくしょいっ!!」