117話 正室と側室
四国攻めは、大人数であたる。
最大で6万人までだ。
兵糧は信長様と交渉して、ある程度織田家から分けてもらうつもりだ。
戦となれば、足軽たちの腕を磨かなければいけないので、いつもよりハードな練習をさせた。
俺も、庭で流鏑馬をしてみたり、日本刀でスイカ割りをしてみたり・・・
でも、日本刀でスイカ割りとか、日本刀のファンの人からしたらイラッとくるだろうなあ。
で、ここでビッグニュース。
茶々推しにはたまらないニュースだよ。
何と、茶々が帰ってきたーっ!
一応、謹慎を命じてはいるけれど、時々一緒に遊んだりする。
「茶々ーっ。あーそーぼー。」
「はい。」
茶々は家出する前からおとなしい性格だったから、謹慎していても特に変化は見られなかった。
「今日は枕草子を読んで思った事を話し合いましょうよ。」
「いいぜ。」
枕草子を読み始めた。
「ふむふむ。作者の清少納言は、変わった事を好むのですね。」
「今で言う傾奇者だな。」
読み進めていくと、気になる文章が見つかった。
「清少納言は、紫式部の夫の悪口を書いている。日頃から、息をするように愚痴を言っているのかもしれないな。」
「東様、あまり清少納言の事を悪く言わないでくださいまし。清少納言は、皆が藤原道長のご機嫌取りをする中で、最後まで主君の定子を裏切りませんでしたもの。きっと、根は良い人なのですよ。」
「まあ、それもそうだな。」
しばらくすると、俺が茶々と遊んでいるのを妬んだ側室たちが文句を言いに来た。
「茶々様ばかりずるいです。」
小松が愚痴る。
「小松様。私は正室であり、東様の長女・勝の生母ですので。」
「むう~。」
仕方ないから、俺の正室側室全員で遊ぶ事にした。
正室は1人しか認められない、姫が憧れる最高の立場だ。
少しくらい、いばったって良いのでは?
「ほら、東様も少しは茶々様を注意してくださいまし。私たちだって東様の妻ですからね。」
「そうですよ。」
星の意見に、菊も同情した。
「そうは言われても、正室は1人しか認められない特権だぞ。俺の側室なら正室を敬わないと・・・」
「関係ありませぬ!そんなの早いもん勝ちではありませんか!」
言われてみれば、確かに。
「では、小松殿。東様の正室側室に、位を付けてはどうですか?」
「位?」
「ええ。私は正室なので、『一の御前』とでも名乗りましょうか。」
「なぜそのような名前を?」
「1人しか認められない立場なので、『一』の御前なのですよ。」
ネーミングセンス、どうなのかな?
独特なだけだよね、うん、多分。
「じゃあ私は・・・小松の松を取って『松の御前』。」
「では、私は『空の御前』。星は空を見上げなければ見えませんからね。」
「『甲斐の御前』で。父上は甲斐の領主ですので。」
「『二の御前』で。私は二番目に東様の妻になったのが理由です。」
結局、自分に由来する言葉に『御前』を付けただけじゃん。
苦笑いすると、小松が言った。
「何か文句が?」
そんな事聞かれても、文句を言わせんとばかりに小松が睨んでくるのだから、答えられない。
「な、何でも・・・」




