110話 気遣い
川で溺れた俺。
でも、側室の星が助けてくれた。
「北九州って、相当遠いなあ。」
俺は溜息をついた。
この前、小松が茶々の残した文を見た。
『決戦の地・北九州』とだけ書かれていた。
短期間で良くそこまで行けたな。
でも俺には、心強い味方がいる。
我が妹、奈々だ。
奈々なら、車を作ることだってできるだろう。
俺は奈々に、車を作って欲しいと書いた手紙を送った。
さて、2人も妊婦がいるとなると、大変だ。
猛暑の日は氷を入れた器を側に置き、食事も栄養満点のメニューにした。
日が進むにつれて、部屋を訪ねる回数も増やしたりした。
それに加えて、菊の体調が日に日に悪くなっていった。
そうなると、菊が面倒を見ていてくれていた勝は、蘭か星に育ててもらう事になる。
側室の2人にしか遊んでもらえない勝は泣き喚き、勝の泣き声のせいで妊婦の2人は睡眠不足で隈ができている。
俺の静かにしてくれない勝への怒りも溜まりに溜まり、俺は妊婦2人と宿屋で暮らす事した。
高遠城にいる家臣達の統率は、側室の星と蘭に任せた。
戦国時代の家臣にとって、主君の奥方は『第二の主君』なのだ。
2人の朝食は、卵焼きと、お粥。
たまに、果物を食べさせたりもする。
そうやって栄養を摂らせて、臨月に入れば食事の回数をさらに増やす。
風呂に入る時は、浴室を最大限密室に近づけた。
暖気を閉じ込め、お腹が冷えるのを防ぐ為。
他にも出産経験者から様々な意見を聞き、必要と思った事は取り入れた。
妊娠中は精神的にも支えてあげないといけないから、寝食を供にしてあげ、こまめに水分補給をさせた。
暇であるといけないから、枕草子や源氏物語を置いてあげた。
些細な気遣いを2週間の間、根気良く続けた。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ 蘭視点 ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
私は大返しを成功させ、思ったより早く安土城に登城できた。
「失礼します。」
信孝様の病室に入った。
私は信孝様の呼吸を確認した。
虫の息だ。
次に脈を測ると、しっかりと脈を感じ取る事ができた。
信孝様の肌は乾燥していて、目を開ける事はない。
「信孝様。」
反応は無し。
「信孝様!」
次は大声で呼んだ。
すると、信孝様の指がかすかに動き、信孝様が目を覚ました。
「あなたは・・・?」
「私は大滝東の側室・蘭です。」
「そうか。」
「吐き気などの体調不良は続いていますか?」
「今は大丈夫です。」
何で敬語?
私は農家の出なのに。
私が信長様を救った東様の側室だからかな?
「空腹ですか?」
「小腹が空いています。」
「では、水菓子をお持ちしますね。」
私は信長様に頼み、苺を用意してもらった。
信孝様の体を軽く起こし、匙で苺を食べさせた。
信孝様が苺を食べ終えると、今度は水を飲ませた。
その日は、殆ど信孝様の部屋で過ごした。
看病には気遣いというものも大事なのだ。