108話 猛毒
六月上旬。
暑さも力を増し、俺は扇子を扇いでいた。
「東様。」
三成が話しかけてきた。
「げえ、三成!それどう考えても暑いでしょ!?」
三成は、和服を何枚も重ねた服装だった。
「私もそう思いました。が、私の不満と、殿の面子を考えれば、暑さなど苦ではございません。」
「いや、ダメ!ブラック企業みたい。」
「はい、着替えてきます。」
二分後、三成はさっきよりも涼しそうな服に着替えていた。
「それでよし。で、用件は?」
「信長様から、高級品の品々が届いております。」
「ここへ持ってこい。」
「かしこまりました。」
暑いし、動きたくないから、三成に任せちゃおう。
三成なら何を言っても「かしこまりました」って言ってくれそうだし。
しばらくすると、三成が戻って来た。
「へえ、これが。」
差し出されたのは、漆塗りの文箱に、金の扇子に・・・西陣織も!
「きゃは、きゃははは!」
妙に高い声を出すと、三成がドン引きしていた。
「あれ?」
俺はプレゼントに添えられている和紙を見つけた。
『1年とは、早い。そなたへの感謝は、これだけではない。』
「きゃは、きゃははは!」
三成は白い目で俺を見た。
やった~、信長様に褒められた~。
俺の体は突然、踊りだした。
「ま、政宗殿~。」
三成は、通りすがりの政宗に話しかけた。
あ、政宗はちゃんと涼しい服だ。
「三成殿、どうなされたか?」
政宗は俺の踊りを見て、目を輝かせた。
「素晴らしい!!あの軽やかな動き。感じるぞ~、見てるこちらさえも踊りたくなるような魅力的な何か!!」
政宗は勢い良く踊り始めた。
政宗はもしかして、ダンスオタクなのかもしれない。
独眼竜政宗という異名を持つ政宗に、そんな一面があったのか。
「あ~~~、桜が散る頃にゃ~。梅雨がやってくる~。桜~舞う中~、酒飲もうぞ~。」
政宗作詞作曲の歌かな?
「あ、東様~。政宗殿~。」
三成はげっそりとした様子で去っていった。
三成は真面目すぎるかな。
政宗みたいな、真面目だけれど、冗談も言う人が好みなのだ。
こんな事言ったら、絶対三成怒るよね。
「きゃはは!!」
東が呑気に踊っている頃、近江ではある大事件が起きていた。
「信長様っ、信孝様が、毒にやられましたっ!」
「それは真か!?」
信長の三男・織田信孝が、毒にやられてしまったのだ。
「信孝、目を覚ませ!信孝っ。」
信長は必死になって、信孝の肩を揺すった。
「父・・・上。」
消え入りそうなかすれ声で、信孝は言う。
「毒見役は!?」
「毒見役の方は、失明してしまった御様子でございます!」
信長は舌打ちをした。
「東の側室に、畠という者がおったな?すぐに畠を呼べ!」
「はい!」
信長は全身に汗をかいていた。
「死ぬなよ、信孝。」
信長の言葉が届いたのか、信孝の指が僅かに動いた。
蘭、またまた活躍。




