105話 ダイヤのような塊
翌日、森蘭丸率いる大軍は、盛岡城に行軍した。
いつも隣にいる茶々の姿が無い。
少し寂しさを感じるが、いつまでも茶々の事ばかり考えてはいられない。
5月も後少しで終わる。
収支の確認をしなくては。
今までは茶々が財政を管理してくれていたが、茶々は家出中だ。
俺が財政を仕切る。
「手伝おうか?」
江が聞いてくる。
「心配はいらない。」
俺は支出と収入を記録した紙を睨んでいる。
計算のスピードが遅い為、時間がかかる。
受験において計算はかなり重要なポイントとなる。
高校受験でもかなり苦戦した。
奇跡の合格と言える。
「終わった~。」
俺は水を飲んだ。
喉が潤う。
「東、おつかれ。」
江が御茶を入れてくれた。
「サンキュー。じゃない、ありがとう。」
俺は礼を言うと、御茶を飲んだ。
御茶を飲み終わると、江を追い出して饅頭を食べた。
暇だったから、小松の部屋に遊びに行った。
小松は髪を整えていた。
戦国時代の女性は主に、垂髪と呼ばれる、真っ直ぐ後ろに髪を下ろす髪型だ。
「ちょっと相手してくれよ。」
「はい。」
俺は酒を盃に注ぎ、小松に渡した。
「美味ですね。」
小松は思ったより多く酒を飲んでいた。
小松の頬が赤くなっている。
頬紅のように。
それは酒のせいだろうか、それとも俺に対する・・・
いや、多分酒のせいだろう。
「東様、渡したい物があります。」
「ん?何だ?」
小松は懐から懐紙を取り出した。
懐紙を開くと、そこにはダイヤのような塊があった。
「何だこれは?」
「知りませぬが、先祖代々伝わる物でございます。何の役にも立たぬでしょうが、気持ちが高ぶった時に眺めると、自然と落ち着く物です。」
「そうか。」
俺はダイヤのような塊を、懐紙に包んで懐にしまった。
「少し、髪が乱れてしまったので、整えますね。」
小松は手鏡を見ながら、櫛で髪を整えていた。
その仕草が、何となく可愛かった。
「何を見ているのです?酒を召し上がってはどうですか?」
やはり、ばれていたか。
俺は酒を飲み干した。
ほんのり頬が熱くなる。
「さっきのやつ、一体何?」
「だから、知りませんって!でももしかしたら、あの塊は、あなた様の命を救ったりして?」
「そんな訳無いだろ、あれはただの塊だぞ?」
「・・・そうですよね。」
小松は笑った。
小松の笑っている顔が、一瞬、寂しげに見えた。
気のせいだろう、と思い、俺はもう一杯酒を飲んだ。
アルコールが体を満たす。
「蘭丸殿の軍勢、勝てると良いですね。」
「・・・いや、勝つ。絶対に勝つ。弱気になるな。」
「ごめんなさい。私、女ですから、戦の事なんて分かりませんから。」
そう言えば、蘭と小松と星と菊は、戦デビューしてないな。
機会があれば、大将を任せてみよう。
「じゃあ、また機会があれば出してやるよ。俺が目指すのは、女武将大量生産だからな。」
「女武将を増やすのですか?」
「ああ、そうだ。」
俺は話題を変え、ある面白い事を思い付いた。
「小松、俺にも化粧してくれ!!」
小松は振り向くと、俺の顔に白い粉をまぶした。