100話 逆賊の葬儀
家康の葬儀は、信長様の侍女や妻たちが参列する大行列であった。
自分の家臣を殺そうとした者の為に、そこまでするのはお人よしすぎるのではないか?
こんな大行列では、費用が現代のサラリーマンの年収を軽々と超えているはずだ。
まあ、天下を握った織田家の財力なら、こんな行列は大した物でも無いのだろう。
俺は別に、葬儀に参列する事自体はかまわない。
ただ、気になるのは、女たちの存在だ。
別に女は参列するなと言っている訳では無い。
なぜこんなに化粧をするのかと言いたいのだ。
まあ、女からしたら美貌は命のような物かもしれないが、匂いを考えて欲しい。
化粧の匂いが苦手な俺に取って、できれば濃い化粧はしないで欲しいのだが。
それに、おしろいの匂いも何か嫌だ。
おしろいをしていないほうがお好みなのだが、それは男の勝手という物。
女子はいつまでも美しくありたいのだろう。
「すご~い。」
奈々ははしゃいでいる。
「静かにしろ。」
まだまだある。
僧侶の唱えるお経がうるさい。
信長様の家臣を暗殺しようとした逆賊の葬儀なのだから、それほど盛大にやらなくてもいいはず。
もしかしてこれは、信長様の権力がいかに強いかを示すための作戦なのだろうか。
それは良いのだが、この匂いにはとても耐えられない。
早く終われ。
そう思っていたら、早く終わった。
「あ~、疲れた。」
菊はあくびをしながら言った。
菊は一応身重なのだが、菊が大丈夫だと言い張るので、仕方なく葬儀に参列させた。
「帰るぞ。」
俺は馬に乗って高遠に帰還した。
高遠城は盛岡城への出陣の用意で慌しかった。
俺は部屋で孫子の兵法書を読んだ。
孫子の兵法は所々難しい所があるが、これも勉強のうちだ。
時は静かに流れていった。
気付けば晩御飯の支度が出来ており、俺は急いで食卓へ向かった。
「東様、遅いですよ。」
菊が怒って言う。
「ごめんごめん、読書に夢中になっちゃって・・・」
「もう、しっかり食事を取らないと栄養失調になってしまいますからね。」
「は~い。」
俺は汁物をすすりながら答えた。
「食べ物を口に入れたまま喋らないでください。」
「は~い。」
俺は答える。
「おかわり、たくさんありますから、遠慮無く食べてくださいね。」
菊はそう言うと、洗濯物を片付けに行ってしまった。
その後は、茶々の話でもちきりになった。
「茶々様、一体どこへ行かれたのですかね?」
「信長様の所じゃないの?分かんないけど。」
俺は素っ気無い返事を返す。
「東様、茶々様はあなたの正室です。もっと真剣にお考えくださいませ。」
蘭が呆れ顔で言ってきた。
「そうですよ、東様。他国にこの事が知れ渡ったら大変な事になります。織田家の家臣は身内から見捨てられるほど愚かなのか、と。ですから、真面目に考えてください。」
「ごめんなさい。」
俺はちゃんと謝った。