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シャルトル家のタケル  作者: 七夕 アキラ
第1章 転生と幼少期編
8/189

1ー8


 何を植えるかをセリーヌと相談した結果、ククの苗とロアエとなった。ただし、ククは成長するとかなり大きくなる事から、場所を広く取る為に森の近くへ。

 ロアエは最初に土石実験した場所と、今回の長方形にした場所で。本当は別の種を植えようかと思ったけど、今回に関しては栽培の実験的な側面が強い。


 そこで、種の量が多かったロアエになった。セリーヌが持たされていた他の種でも良かったけど、量が少なかったから栽培に成功したらという事で意見が一致。

 さっそく種を植え、今後は成長速度を観察するだけだ。水やりに関しては、意外にもククの方が楽。オレリアに聞くと土がある程度湿っていれば、それ以上は必要ないとか。


 それに対してロアエは、発芽した直後からかなりの速度で成長の為に水分を必要とするらしく、土の湿り気具合でも違うが1日に2回は絶対らしい。

 朝と夕方、この2回の水やりを毎日。土の状態と陽当たりさえ良ければ早いと1ヶ月で採取が可能な状態となる。そして現在、俺とセリーヌは種を植え終わって、一気に疲れを感じていた。


「蒔き終わったなぁ」


「疲れたわね」


 食堂でだらしなく、ぐったりとした状態を隠す事もせずにアデラールとフラヴィが淹れたハーブティーでティータイム中だ。


「ククの苗が成長して樹になるまで、どれくらいの年数が必要なんだっけ?」


「ある程度の採取ができるようになるまで、だいたい5年くらいだったと思うわ」


「5年か。魔法薬を作る上で原材料の確保は大変だけど、ククほど成長が遅いのも珍しいよな」


「そうね。ミルトなんて、自分達で種植えしても1週間もあれば採取できるようになるし」


「あれは成長が早いからな。わざわざ種から育てなくても道端にだって生えるくらいだし」


 ついつい成長が早くて、手間の掛からない薬草や花の話題になってしまった。


「タケル、ロアエと灼熱草、同じだけの種があったらどちらを育てる?」


「灼熱草だな。ロアエと同じで火傷にも効くけど、解熱剤や代謝促進薬の元にもなる」


 セリーヌが持っていた灼熱草の種は、たったの20粒。もう最低でも50〜70粒あれば、ロアエを育てる選択はしかなかった自信があるよ。


「今からでも栽培用の畑を増やしてみる?」


「却下。俺は久しぶりに起きたせいで体力が戻っていないからな。それに祖父さん指導で、体力作りと魔力操作、武術指導も始まるだろうし。はぁ、憂鬱だ」


 俺達がこうして休憩している間にも、アルフォンスはトオルによって鍛えられている。仮にアルフォンスと戦ったとしたら、間違いなく俺が負けるだろう。

 俺が興味あるのは魔法薬作りであり、既存の薬を改良して新しい物を作り出す事でもある。だが、残念な事に魔法薬にだけ時間を割くのは難しい。


 その理由はトオルにある。シャルトル家は王国内で使われる様々な武術の基本を編み出した。それ故に血筋である以上は、多少なりとも戦えて当然と世間は考える。

 それに成人したら王国内のあちこちを旅してみたい。アルフォンスが護衛で付いてきたとしても、1人しか戦えないのは危機的状況に陥った場合に問題だ。


 そんな俺の考えを感じたのか、あるいは気付いたのかは分からないけどトオルが食堂に来て、とんでもない事を言ってくれたよ。


「タケル、もう少し休んだら1キロマラソン5セットだ」


(おい!病み上がりならぬ、起き上がりの身体にどんだけ無茶をさせるつもりだよ!!)


 すぐに反論しようとしたけど、急いで答えるべきじゃないな。答えが早かったら、喜んでいるとでも思われかねないぞ。よし、ここは。


「祖父さん、明日からにして。今日は起きたばかりだから、無理や無茶をしたくないんだ」


(体調が万全じゃない人間に無理を強制する程、鬼畜でも人外でもないだろう。きっと頷いてくれるはず)


「それもそうだな」


 思わず、よしって声に出しそうだ。


「だが、健康作りのためには多少の無茶も必要。さぁ、走ろうか」


「セリー、助けてくれ。殺される!」


 予想していなかった言葉に思わず、セリーヌに救援を求めてしまった。


「えっと……が、がんばって!」


 どんなつもりかは知らない。ただ、両手を胸の前で組んだ状態で上目遣いに見送るような動作は可愛いけど、希望したいのはそうじゃなかった。


(聞きたいのは応援の言葉じゃなくて、制止するための言葉なんだよ〜)


「心配するな。1キロ走る毎に30秒の休憩時間を挟むから」


「お、鬼め〜〜!!」


 思わず絶叫になってしまった。しかし、トオルは何が楽しいか笑いながらも俺の手を引っ張っていく。残念ながら体力強化イベントは明日じゃなくて、今日からになった。




「も、もう無理」


 トオルによって強行された1キロ5セットマラソン、いやジョギングか?5歳児の身体で何とかやり遂げた。そのせいで、疲労困憊状態。その理由は魔力使用による身体強化なしで。

 しかも、本当に1キロ毎の休憩時間が30秒だった事もあり、5キロを走破した直後俺は地面へと倒れ込んだ。強烈な吐き気に、身体の向きを変えるのも困難。


「10分休憩したら、今度は無手の確認だ」


「孫を殺す気か!?」


「オレリアから簡易回復薬を預かっている。これを飲めば問題ない」


「生命力が減っている訳でもないのに、効果があってたまるか〜」


「効果ならあるぞ」


 ―――何ですと!?

 俺の疑問に気付いたのか、珍しくトオルから魔法薬の説明があった。


「魔法薬ってのは、生命力や魔力を回復するだけじゃない。内的、外的要因によって引き起こされた体調変化の治療も出来るんだぞ」


 オレリアからそんな説明を聞いた事がないぞ。それに今まで読んだ魔法薬書にも書いてなかった。


「魔法薬書に書かれていない理由だが、魔法薬で治ると分かった場合、薬師の仕事がなくなってしまうからだ」


「薬師?」


「聞いていないのか?」


「うん。前に陛下が俺なら魔法薬師になれるって言ってたけど、関係あったりする?」


 俺が知らなかった事が意外だったのか、あるいはオレリアが教えていなかった事に驚いたのかは分からない。数分間の間、見事にトオルがフリーズしていたから。

 急に反応がなくなったから不安に思って掌を、目の前で上下に揺らしてみるけど反応なし。


(もしかして気絶?いや、ショックを受けた事が原因で一時的に放心しているだけか)


 何度か掌を動かしていると、ようやくハッとした表情を浮かべて思考を取り戻したようだ。


「そうか、知らなかったか。説明の前に軽く運動だ。腕立て伏せ20回5セット。スクワット50回4セット」


「ちょっと待て!」


「ん?何だ?回数が足りないか?よし、だったら」


「そうじゃない。そうじゃないだろ!?どうして説明を聞かせるのに筋トレなんだ!?」


 さっさと体力と筋力を鍛えさせたいのかもしれない。だけどだ。説明をするのにきんとれさせるって、どういう事!


「仕方ない。腕立て伏せ20回1セット、スクワット20回1セットで良いだろう」


「よくないよ!全然よくない!!」


「口を動かす暇があるなら、励む事だ」


(この場合、理不尽と評価するべき?それとも横暴?いや、横暴は違うな。無茶ぶりか)


 どうやらトオルは俺が筋トレするまでは教える気がないらしい。仕方なく、譲歩として説明を聞きながら励む方針に落ち着いた。


「薬師と言うのは、魔法薬を作らない、作れないが普通の薬なら作れる人間の事を指す。日常生活におけるケガや病気の薬を作る専門だ」


 トオルが話し出したのは良い事だ。ただし、それが腕立て伏せ中じゃなければだけど。どれだけ5歳児に無理をさせるつもりなんだか。


「薬師に対して、日常における薬を作れず魔獣退治や討伐に赴く人々の為に魔法薬を作る人間は調薬師と呼ばれる。こちらは魔法薬だけしか作らない」


 説明を聞きながら、やっと腕立て伏せ終了。スクワットの方が気楽だから、まだ助かる。


「魔法薬、日常生活における薬。両方を作る人物を魔法薬師と言う。薬師と調薬師、これらは互いの薬を作る事が出来ない。単純に才能や魔力の差だ」


 9回目のスクワットで、乳酸が溜まったのか辛くなってきた。でも、トオルの解説を聞いて理解する事に集中を向ける事で、何とか耐えられそうだ。


「魔法薬師は、両方を作れる人材であり滅多に存在しないのが現状だ。つまりタケルは希少な存在という事だ」


「希少な存在って。この世界なら全員が魔力を持っているんじゃ?」


「そうだ。だが、魔力を持っているのと、魔法薬を作れるのは違う?」


「どういう事?」


「魔法薬の中には、魔力を注がないと作れない物もあるだろ?」


(普通にあるね。今までに俺が作った数が少ないだけで)


「薬師はその魔力を注ぐという、重要な行程が出来ないんだ。単に注ぐという行為が無理なのか、あるいは調整が難しいのかだが」


 話を聞いている間に、スクワット終了。よし、落ち着いて聞く事が出来る。


「調薬師はどうして普通の薬を作らないの?」


 魔力を注がないと作れない魔法薬は、意外にも種類が多かったりする。だけど、普通の薬を作ったりするのに、魔力を使う事はない。

 だから、調薬師が薬師と同じ仕事をしても問題はないはずと思いますよ。


「単純だ。魔法薬なら冒険者や衛兵、領方軍に騎士団など需要が常にある。そして収益が高い」


 つまり、あれですか。単純に儲けやすいからですか。そうですか。


「魔法薬を作れるのに、わざわざ普通の薬など作る必要がない。それが、調薬師の考えだ」


 そういうものなのか。まぁ、俺は別にどっちでも良い。興味があるのは、繰り返しになるけど魔法薬や薬を作る事だから。

 それ以外の事は放置しても問題はないだろうからね。トオルは説明を終えたと言わんばかりの表情。しかも、どうしてかドヤ顔。うん、ちょっと苛つく。




 説明の後に簡単な組手をさせられ、夕食を済ませるまでの時間、ようやくの休憩となった。俺は疲れた身体に鞭打って何とか部屋に帰り着き、ベッドに倒れ込んだ。

 もう今日は動きたくない。それだけが願いだったんだけど、叶う事はなかった。何と夕食後にトオルが実戦を想定した模擬戦闘を行うと宣言。


 4日振りに目覚めた孫に対しての扱いが酷すぎる。待遇改善を訴えようかと考えたけど、どうせ徒労になるだろうと思い直して諦めた。

 人間、慣れと諦めが肝心なんて言うけどさ。不要な事に関しては無意味だと、俺はそう思いますよ。


「タケル、入ってもいい?」


「どうぞ」


 ベッドの上で休んでいたら、セリーヌが訪問してきた。視線を向けるのも面倒に感じていたんだけど、甘い匂いが部屋を優しく包み込むように広がる。

 それは焼き立てのクッキーなどが放つのと同じ類い。ゆっくりと身体を起こしてセリーヌの方へと視線を向けた。


「中庭を見た時に、かなり疲れた表情をしていたからクッキーを焼いたんだけど」


(疲労困憊のところに甘い物。本当に疲れている時ほど、本当に嬉しく思う)


「ありがとう」


 起き上がったのを確認したセリーヌが、目の前で紅茶に蜂蜜を入れたカップを渡してくれる。受け取って、ゆっくり味わうように飲む。


(あ〜、美味い。全身に糖分が行き届く感じがするような感覚だ)


 思わず、長い一息を吐いてしまった。俺の方を見ていたセリーヌが心配そうに声を掛けてくれる。


「大丈夫?」


「今はなんとかね。でも、この後がなぁ」


 再度の長い一息となってしまった。


「あぁ。夕食後にまたトオル様に鍛えられるのよね」


「セリー、助けてくれよ〜」


「私が何を言っても、トオル様は聞かないと思うけど?」


 どんな地獄になるのやら。そんな考えばかり浮かんでくる。ただ憂鬱になるだけならと思って、頭を左右に振って思考を追い出す。

 小皿に乗せられているクッキーを幾つか食べると、程よい甘さ。全くしつこくない。


「全部食べていいか?」


「そのつもりで焼いたから」


 ありがたいね。しばらくクッキーを食べては、紅茶を飲むを繰り返す。そうして小皿のクッキーが空になった途端に眠気が。

 少しでも気を抜くと、つい寝てしまいそうになる。それでも、俺は何とか眠気に耐えた。


「ごちそうさま。美味かったよ」


「作った甲斐があったわ」


「セリー、お礼に魔法薬を作るよ。なにか希望は?」


「特にないわね。今は身体を休める事だけを考えてほしいかな」


「そっか。じゃ、お言葉に甘えて」


 俺がベッドに潜り込んだのを見て、セリーヌは小皿と紅茶のカップを持って退出した。その直前に、頬に何か柔らかい感触があったけど、眠くて気にする余裕はなかったよ。




 軽めに夕食を済ませてから食休みの40分後、俺はアルフォンスと共に暗くなった中庭にいる。そして視線の先には呼び出した張本人であるトオル。

 周囲はかなり暗くなっているけど、この世界の魔法具を使えば明るさの確保は難しくなかった。光石が入った、ランタン型の照明器具が正方形になるように設置されている。


 魔力を多く注いだのだろうと容易に推察が出来る程に、光量が周囲を包んでいた。そのお陰なのか、日中ほどではないにしても、夕焼け前くらいの明るさだ。


「今回は2人同時に実戦経験を積ませる。攻撃のタイミングは自由。協力するも良し、互いを囮に使うも良しだ。最低でも1度くらいは攻撃を成功させる事。アルフォンス、これを使うんだぞ」


 トオルが投げ渡したのは、使い込まれただろう木剣。それに対して俺は、得物を使う才能がないので無手だ。


「さぁ、どこからでも掛かってこい」


 トオルが両腕を広げて、攻撃を促してくる。一見すると無防備にしか見えないが、実際は余計な力を排除していた。つまり、どんな攻撃でも最初から防がれるだろう。


「アルフォンス、どう動く」


「僕が突撃して近接での連続攻撃を行います。タケルさんは隙が出来たと思った瞬間に攻撃を!」


(アルフォンスが祖父さんの体勢を崩せるなら、少しは攻撃も当たるだろうけど。難しいよな)


「では、行きます!」


 俺が慎重に行けと言う間もなく、アルフォンスは魔力を全身に流して身体強化。そして、真っ正面から斬りかかっていく。

 その速度は間違いなく、寝ていた俺よりも格段に上。どう考えてもアルフォンスの方が強いに決まっている。彼で無理なら、攻撃が当たる可能性など少ない。


 だからと言って、ただ見ているだけじゃ意味がない。これも事実だ。


(やれやれ。無茶しないように気を付けながら、時間を掛けて身体を慣らそう)


 目を閉じてから、いつもよりも時間を掛けて全身に魔力を行き渡せる。行き渡ったのを確認すると同時に、今度はそれを常に巡回させていく。

 身体を動かして、いつもよりも軽やかな状態を確認したら足に魔力を少しだけ多く向ける。


(えぇっと、一気に前に飛び出す感じだっけか)


 意識した動作を一瞬で行う。風を切る音が耳に届き、アルフォンスと木剣で打ち合うトオルの姿が近くなる。既に気付かれているが、そんなのは関係ない。


「はああぁぁ」


 俺の方に背中を向けた状態で、アルフォンスの果敢な攻勢に少しだけ意識が割かれている。それを見過ごす愚は犯さない。

 速度を乗せた掌打を放つ。それをトオルは半歩動くだけ躱した。体重を乗せていただけに回避されると、体勢が崩れてしまう。


「剣術一の型、空燕(からつばめ)!」


 半歩動いた先にいたアルフォンスの木剣が、意識の空白を狙うようにして突きを行う。下から剣を掬い上げるようにしてトオルが動かす。


「甘いぞ!」


 トオルの木剣が迫っているのを認識して、アルフォンスが上半身を後ろへと反らす。俺はといえば、足がしっかりと地面を踏む感触を体感していたところ。

 右足を軸足にして、左足による回し蹴り。狙いは剣を持つ右腕。見えていないだろう死角からの蹴りだったのに、トオルは左手で簡単にガード。弾くようにして振り払う。

 若干の浮遊感を味わいながらも、弾かれた力を利用して右足に力を入れて今度は右腕で肘鉄。これに合わせるようにしてアルフォンスが体勢を戻して木剣を構え直す。


「剣術二の型、鷹爪(たかづめ)!」


 3連続の突きを正面から打ち付ける事で、トオルの意識を自分にだけ向けようと彼は意識したようだ。


「遅い!」


 同じ型の「鷹爪」でもトオルのは速度が速く威力もある。剣を弾かれそうな勢いだったけど、アルフォンスは強く握る事で手放さずに済んだようだ。

 俺はと言えば肘鉄が少しだけ入ったけど、トオルの左手が行ったカウンターをまともに食らった。手加減されているのは分かるんだけど、それでも頭というよりは、脳を揺さぶられる感覚だ。


「戦闘中、横や背後を隙に見せるのも技量のうち。覚えておくんだ」


 トオルが何かを言ったけど、それどころじゃない。脳震盪までは行かないだろうけど、身体に上手く力が入らなくて倒れ掛ける。

 片膝を突く事で何とか倒れずに済んだけど、身体全体が揺れているような感覚で、しばらくは立ち上がれそうにないみたい。


「やああぁぁぁ!」


 トオルが追撃して来ないのは、単純に訓練だからだろうけど、アルフォンスが休む間もなく斬りかかっているからとも考えられる。


(倒れないようにするので精一杯だ。くそ~、祖父さんめ。訓練じゃなくて、自分が暴れたいだけじゃないのか)


 5分ほどして、ようやく揺れているというか、揺らされているような感覚が抜けきった。


「アルフォンス、前衛交代だ!」


 前衛って言ってから気付いた。俺は横や背後からの不意打ちしていたから、前衛とか後衛関係ないじゃん。


「すみません!」


 トオルが俺の方へと振り向く。どういう訳か、木剣を高く後方へと投げた。


「来い。鍛えてやる!」


 どうやら無手らしい。一瞬、トオルの姿が消えたかと思うと、急に目の前に現れた。


(瞬動かよ!?小さい孫相手に大人げないぞ!)


 口に出して抗議しても意味ないだろう。そう考えたからこそ、俺は思うだけで黙っていた。


「それ、ほい、よっと、どら」


 目で追うのが難しい速度で、手刀が関節や防御が出来なかった、無防備な脇腹を叩く。


「ちょ、俺の年齢考えてよ!」


「年齢なんて関係ない。気合いだ」


 全く無茶な話だ。何とか反撃しようと拳を出すけど、手首を掴まれると同時に足掛された。


「ただ攻撃すれば良いんじゃないぞ。足元が留守になっている」


 くるんっと身体を1回転させられて、背中から落下。


「ぐふ!」


 肺の空気を強制的に排出されて、めっちゃ苦しい。呼吸をしようとすると、容赦なくトオルの拳骨が降り注ぐ。


「相手の年齢を考えろよ!?」


 つい叫んでしまったけど、不敵な笑みを浮かべるだけだった。


(なんか妙に腹立つ!)


 身体強化をし直してから、トオルに突っ込む。


「速度は上がったが、それだけじゃ意味ないぞ!」


 速度を乗せた正拳突きだったのに、今度は手首だけでくるんと回転させられた。


「げふ!」


 今度の落下は頭から。思いきり地面に激突して、痛いのなんのって。


(……っあ!)


 痛みに耐えて立ち上がろうとした瞬間、視界に許しがたい光景が飛び込んできた。


(俺とセリーが一所懸命に種蒔きした場所に木剣が!)


 ロアエの種を埋めた場所に、木剣がめり込んでいる。これは、もう、あれだよね。怒って良いんだよね。


「っお!まだ立つか」


 感心したような声をトオルは暢気に出す。だけどね、それは今関係ない。


「トーオールちゃ~ん」


 意識したつもりはない。ないんだけど、つい声だけで相手を呪えるんじゃないかと思えるくらい、低くて不気味さを伴った声が出た。


「な、何だ?」


 身体を左右に揺らしながら、確実に近付いてくる俺に不穏な何かを感じたようだ。警戒しまくった表情で、見返してくる。


「ちょっとお説教といこうか」


「え!?」


 トオルの目の前で立ち止まって、ゆっくりと顔を上げる。そして、自分でも分かるくらいの狂気に満ちた笑顔を向けてあげた。


「あれ、どうしてくれる?」


 俺が背後を指差し、トオルが視線を動かす。そして、次の瞬間には壊れる寸前みたいなロボットのようにギギっと向き直った。


「えーと。うん、まぁ何とかなるぞ」


「歯ぁ食いしばれよ、祖父さん」


 いつもよりも強化した状態で平手打ち。


「っぶ!?」


「何とかってなに?」


 大して力を込めていないんだけど、トオルの顔が思いきり叩かれたように動く。


「いや、これはだ――へぶ!」


 言い訳しようとした。起き上がりで苦労したのに。それを台無しにされたのだ。そう考えたら、平手打ちくらい安いものだよね?


「ん~?」


 似合っていないだろうと思いつつ、精一杯の可愛らしいだろう笑顔を浮かべて平手打ちを連発。


「これは――ぶ!お、おち――っごほ!がは!げふ!」


 気が済むまで平手打ちを行い、溜飲を下げる。どんな笑顔なら恐怖するか分からないけど、とりあえず微笑もう。


「なぁ祖父さん」


「ふぁ、ふぁんら(な、何だ)?」


「あれ、どうしてくれるの?」


「あひら、ふへなおふ(明日、埋め直す)」


「それだけで、許してもらえるとか思っていない?」


「ほれは(それは)……」


「後1発だけ我慢ね」


 返答を聞く前に、全力アッパー!顎の骨が砕けようが、自分の手の骨がどうなろうが知った事かああぁぁぁ!!


「ぶっふぇ!」


 あまりにも力を入れたせいか、トオルの身体が6メートル程は宙に待った。そして受け身を取る事もせず、栽培畑の近くに頭から落下して地面に埋まった。


「薬を作る人間を怒らせたらどうなるか、これでよ~っく分かったでしょ」


 両手をパンパンと叩いて屋敷へ戻る。何が起きたか理解が追い付いていないアルフォンスを放置して。


「どうしたの、土まみれじゃない!?」


「大丈夫。風呂に入って、さっぱりしてくるから」


 目を大きくして驚くアリソンに答えて、着替えを持って浴室へ直行。汚れを完全に落として、部屋に戻ったらベッドにダイブ。


(起きたての身体じゃ、やっぱり体力的に厳しいな)


「タケル、大丈夫?」


「大丈夫、お休み」


 セリーヌが廊下から不安そうな声を掛けてくるが、眠気の方が強くて、おざなりになった。畑の事を説明しようとしたけど無理。眠たすぎて、そのまま夢の中へ。



戦闘シーン、難しいです。今回は大目に見てください。

3/30 後半の戦闘シーンは、かなり変更しました。戦闘と呼べるかは曖昧ですけども。

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