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シャルトル家のタケル  作者: 七夕 アキラ
第1章 転生と幼少期編
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1ー5


 王女と会うのに、わざわざ陛下直々の先導。自分が偉い人にでもなった気分になりそうだよ。王女に関しては事前に少し教えてもらえた。

 これから会うのは第8王女で、昔から人見知りな性格らしい。世話係りをしているメイドは6人いるそうだが、全員に心を開いている訳じゃないんだとか。


 それと同腹、異母の兄達と父親である陛下以外の男性とは関わった経験が少ないらしい。一応、執事もいるそうだが会話するには半径3メートルまで近付かないのが決まりなんだとか。

 これを聞いて俺が思ったのは、人見知りなんじゃなくて男性恐怖症なのではと。まぁ思っただけで実際には言ったりしないさ。


「ここだ」


 王女達の私室があるという7階、一番南西にある部屋の前で陛下は立ち止まった。


「シャロン、父だ。紹介したい子がいるんだが、入っても良いだろうか?」


 これから会う王女は、シャロンて名前なのかと考えているとオレリアが小声で教えてくれた。


「これからお会いするのは、シャルロット・イレーヌ・トゥーロン王女殿下よ」


(ちょい待て。シャルロットなのにシャロンって。どこから出てきたんだよ)


 必要もない思考だと分かっているけど、つい突っ込みを入れたくなった。


「お父様ですか?その、お連れされたのは、怖い方じゃありませんよね?」


 部屋の中から聞こえた声は、明らかに恐怖で震えている。何だか急に、不安になってきたぞ。会った瞬間に悲鳴を上げられたりするんじゃ。


「会ってみれば分かる。余は一緒におられぬが、オレリア殿がいる。心配は無用だ」


 陛下の言葉に俺は1つの疑問を抱いたよ。オレリアってもしかして、王子や王女全員と会った事があるんじゃないかなって。


「分かりました。しばしお待ちを」


 少しだけ待っていると、扉がゆっくりと開く。そこには扉に身体半分を隠して、俺達の方を不安そうに見る王女の姿があった。

 腰まであるロングストレートの銀髪と高価なサファイアを思わせるような碧眼。纏っているドレスは瞳の色を意識したような綺麗な蒼色。


(ヤバイ。メッチャ可愛いんだけど)


 もしも前世だったらロリコン確定していたかもしれないな。そんな事を思ってしまうくらいに可愛い王女。心配と不安が入り交じった気弱な瞳が、俺とオレリアに向けられている。


「ど、どうぞ。お入りください」


 緊張しながらも、自分に無害な相手かを観察するような視線。それも仕方ないか。身内以外で男性と話す機会は少ないだろうしね。

 震える声のまま入室を許されるが、一歩踏み出してすぐに悲鳴を上げられたりしないかと俺の方が不安だ。視線を2人に向けると、どちらも頷くだけ。


(悲鳴を上げられたら、すぐに部屋を飛び出そう。うん、逃げ出そう)


 なかなか入室しない俺を不思議に思ったのか、可愛らしく小首を傾げる。


(反則!その可愛すぎる行動は反則だよ!!)


「し、失礼します」


 俺まで緊張してきたけど、いつまでも廊下に立っているのは変だと自分に言い聞かせて踏み込んだ。


「は、はい」


 顔を真っ赤にした王女に出迎えられるようにして、俺は初めて異性の部屋へと入る。正確には前世でも転生してからも、家族以外の女性の部屋に入るのは初めての事。

 入った室内は女の子特有の甘い香りがしている。まだ5歳なのにも関わらずだ。驚きだよ。


「シャロン、失礼のないようにな」


「は、はい。お父様」


 陛下はそれだけ言うと公務の為に戻ってしまった。


「シャルロット様、失礼致しますね」


 オレリアが王女の部屋に入る事で、場の雰囲気が落ち着いたのは何でだろうか。


「しゃ、シャルロット・イレーヌ・トゥーロンです。トゥーロン王国第8王女……です」


 恥ずかしさと不安が詰まった挨拶を受けて、俺も名乗る事にした。黙っているのは失礼だからね。


「お初にお目にかかります。シャルトル男爵家当主、エクトルの嫡男、タケルです」


 王女を驚かせないようにと片膝を付き、臣下のポーズで取るようにして名乗った。直接、顔を見なかったのは、シャルロットの顔が赤くなりすぎていたから。

 普通に目を見た状態で名前を告げたら、恐らく全身から湯気を出して気絶していたかもしれないな。




 お互いに自己紹介をしてから、シャルロットがメイドさんズを呼んで気安い感じのお茶会が始まった。最初はオレリアが話し掛けて、それに彼女が答える形。

 それだけで30分が経過したけど、俺と目を合わせる事もなくシャルロットはうつ向いたままだった。さすがに、何か礼を失したかと不安に思って、頭を下げる事にしよう。


「申し訳ございません」


 ちなみにお茶会の場所はシャルロットの部屋のバルコニー。俺の言葉が意外だったのか、あるいは何に対しての謝罪か分からず、困惑した表情を浮かべている。


「え、えぇっと。どうしてタケル様は謝罪を?わたくしは危害を加えられてもいませんのに」


「突然訪問したばかりか、殿下のような高貴な方と私がお茶を共にしたせいでご不快になられたと思いまして」


 自分では分からないけど、何か不快に思われて家族に何か害を及ぶ事は避けなければ。もし万が一、機嫌を損ねて処刑されるにしても、自分の首だけで済ませてもらおう。

 俺はそんな覚悟で頭を下げたのだが。


「い、いえ。タケル様が謝罪される事などありませんよ?わたくしも何を話せばいいのか分からなくて黙ってしまっただけですから」


「殿下、私のような下級貴族に様付けは不要です」


 今更だけど陛下も俺の事を貴殿って呼んだな。普通に呼び捨てにすれば良いのに。


「そ、そうでしょうか?」


「はい。呼び捨てにしてくださって構いません」


「で、ではタケル」


「何でしょうか?」


「いくつかお聞きしたい事があるのですけど、答えていただけませんか?」


「殿下、私に敬語は不要です」


 メイドさんズは気にしていなさそうだが、ここでの会話が陛下に届けられて不興を買うのは不味い。そう思って俺は提案したんだけど、何故だか却下された。どうしてだ。

 それにオレリアも急に黙ったから、実に微妙な空気が室内を支配している。


「いつから、その、薬作りを?」


「3歳からです。他に興味を持つ事がありませんでしたので」


「さ、3歳から……ですか?その頃から薬作りを?」


 随分と驚いた表情だなぁって思ったけど、普通に考えれば3歳児が魔法薬に興味を持ったりするのは異常なんだろうな。


「ぐ、具体的にはどんな薬を?」


「陛下にお作りした風邪薬や睡眠導入薬、他には中級程度までなら生命回復薬(ライフポーション)魔力回復薬(マナポーション)ですね」


「さ、3歳で中級魔法薬を!?」


 一般常識で考えるなら、当然の反応だよな。俺の場合は異世界転生してから、興味を持ったのが魔法薬だけなんだけどね。そんな事シャルロットは知りもしないだろうけど。


「て、転生者だからでしょうか?」


「……え?」


 彼女の口から出てくるとは思わなかったから、俺としては驚かされた。どうして、そんな事を知っているのか。思わずオレリアの方へと視線を向ける。

 そうすると言葉で質問していないのに、微笑みながら答えてくれました。


「トゥーロンではタケルやお祖父さん以外にも、転生者がいるのよ。シャルロット様の姉君にも1人ね」


(な、何だと!?俺やトオル以外にも転生者がいる!?そんなの聞いたことないぞ!)


「聞かれなかったから答えなかっただけよ?」


 まるで心を見透かしたようなタイミング。もしかして心の声を聞かれているのか!?


「タケルが何を感じたのかは、表情で分かるわ」


 俺ってそんなに分かりやすい表情をしていたのか。何て事だ。


「た、タケル様。今も魔法薬をお作りになられているのですか?」


 さっきは普通に様付けじゃなくて、呼び捨てにしたのにもう忘れたのかな?指摘して泣かれたりしても困るから、放置しおこう、そうしよう。


「え?えぇ。作っています。殿下、もしかして私に対しての言葉遣いは転生者だから……でしょうか?」


「は、はい。それに、その……」


 少し戸惑いながらも、俺の方を見たシャルロットは気まずそうに言ってくれた。


「と、殿方を怒らせるような事はしたくないので」


 これってあれかな?同腹、異腹関係なく兄達に不当に怒られたりした的な感じか。だから、ビクビクとした状態なんだろうなぁ。


「殿下、私は殿下に対して敵意も害意も抱いておりませんよ」


 敵ではないと言葉だけで納得させるのは難しくても、今は恐怖心を抱かれない事と叫ばれる事態を回避するのが最優先だよね。


「ほ、本当……ですか?」


 かなり不安そうだけど、ここは力強く頷こう。


「そ、そうですか」


 あからさまにホッとした表情だな。さて、警戒心がなくなったみたいだし、聞いてみよう。魔法薬よりも重要だからね。


「殿下は転生者をご存じなのですか?」


「え?はい。わたくしの姉もタケル様や先代シャルトル様と同じで黒髪紫瞳ですし」


(マジか。しかしなぁ、謎だ。今までに転生した人間全員が黒髪紫瞳だったのか?)


「な、何でも転生前は日本という国にお住まいだったと」


 に、日本に住んでいたって!?もしかして、黒髪紫瞳の転生者って、全員が元日本人なのか!?


「あ、あの!」


 俺が黙っていると、シャルロットが少しだけ声を大きくして聞いてきた。


「お姉様にお会いしてみますか?」


 トオルの時は確認を忘れたけど、自分達の向こうでの年齢や共通の話がないかを聞いてみたい。そうすれば、何か分かるかもしれない。相手がいつ死亡したのかが。

 だけど、それは今度でも良いだろう。今回はシャルロットの相手をするのが重要だ。


「いいえ。今は殿下とのお話が重要ですから」


 決して目の前の相手を疎かにしない。俺はそのつもりで言ったんだけど、何でだか顔を赤くして潤んだ瞳で見詰められました。

 オレリアは俺達が話せるようになった頃から、ずっと黙って見守るような視線を向けてきていたけど。




「ごめんなさい。急用が出来てしまいました」


 シャルロットに見詰められてから、20分間は魔法薬の話で時間が過ぎた。その後、彼女の緊張がある程度は解けたタイミングで少しは転生者である姉の話を聞かせてくれた。

 そこで分かったのは、どうやら俺と同じで連続通り魔事件に巻き込まれて死亡した事。それと新品の制服だったという事から同い年だったのだろうと推測が出来たくらい。


 そして現在。話していた最中で、同腹兄の来訪を知らせる先触れがあった。シャルロットはそれを聞いて、残念そうな表情を浮かべながら、俺に頭を下げる。


「殿下、私ごときに頭を下げてはいけません。こちらこそ長々とご無礼を」


 俺が畏まった言葉で告げると、彼女は恥ずかしそうに耳まで真っ赤にしながらも顔を上げた。


「い、いいえ。わたくしの方こそお話が出来てよかったです。短い時間でしたが、久しぶりに楽しく過ごせましたから」


「それが本当なら何よりです。それでは失礼します」


「あの!」

 

「はい」


 部屋を出ていこうとした所でシャルロットに呼び止められた。何かを決心したような表情で、視線を合わせてくる。だから続きを促すように、振り返ると予想していなかった言葉が。


「い、1度でも良いので、シャロンと呼んで……ください」


 そうとうに恥ずかしいんだろうね。顔を真っ赤にして最後の部分がフェードアウトしていった。ずっと殿下としか呼ばなかったから、1回くらいは良いか。

 念の為にオレリアとメイドさんズに視線を向けると、全員が無言で頷く。つまり、呼んでも良いという事か。


「シャロン様、お元気で」


 俺はなるべく恐怖心を抱かれないように告げた。


「はい、タケル様。またお会いできる時を楽しみにしています」


 思いがけない言葉に驚いたけど、ここは笑顔を浮かべるだけにしよう。また会う機会があるかなんて、俺には分かるはずもないんだしね。

 シャルロット、いや、シャロンの部屋をオレリアと案内のメイド1人と共に1階ロビーへ。その途中で、あの初老執事が待ったを掛けてきたけど。


「陛下が風邪薬の調薬に感謝して、何か褒美をと。失礼ですが、ご一緒に来てもらえませんか?」


 オレリアに話し掛けているのだが、来てもらえるかの部分だけは俺に向けられていた。


「はい」


 断る理由もなかったから、案内されるようにして移動。そうして到着した部屋は5階にある陛下の執務室だった。


「陛下、オレリア様とタケル殿をお連れしました」


「入れ」


「失礼致します」


 執務室には見るからに高そうな調度品が何点かある位で、その他には机とイス。そして寛ぐ為と思われるソファだけだった。

 オレリアが一礼したのを見て、俺も慌てて真似る。ソファに座るように促されて、腰掛けると身体が沈んでいく。


(さすがは1国の王様。ソファまで高級品だな)


「タケル、貴殿に風邪薬の褒美を与えよう。何を望む?」


 いきなりだったけど、問題ないぞ。事前に考えていたからな。


「可能でしたら、下級竜か中級竜の血や涙などを」


 竜関係の物は全て高級品だ。何せ下級竜でも討伐は難しくて、全身が貴重な資源なのだ。牙や鱗、爪などは鎧や剣などの武具に。

 血や涙は上級魔法薬の材料になる。肉に関しては翼竜(ワイバーン)は硬質で食べにくいが、それ以外は美味だって言うしね。


「よかろう。状態保存の魔法付与をした瓶を用意させる。どの位が必要だ?」


 断られる可能性が高いと思っていただけに驚きましたよ。なるべく多く貰いたいけど、他にも必要な物はあるから少量で良いか。


「では、この小瓶2つ程に血と涙を頂ければと」


「ふむ、随分と控えめだな。よし、それぞれ大瓶3つを与えよう」


(マジで!?良いのか!?でも、嘘って可能性も……うむむむ)


「うむ。用意させるから、しばし待て」


 どうやら俺の表情から、何を感じたのか陛下は笑いながら、心配はいらないと確約してくれた。よし、帰ったらオレリアに上級魔法薬の本を借りよう。

 上級となると必要となる薬草や花なんかも入手が難しいけど、それは自力で何とかしないと。あまり用意してもらってばかりなのは、さすがに悪いだろうし。


 執事は陛下の命令を受けて、すぐに準備に向かってしまい執務室に残っているのは俺と、オレリア。そして陛下の3人だけだ。


「陛下、タケルに魔法薬師の才能があると思いますか?」


(ん?魔法薬師?何それ?)


「才能や素質は十分にあると思う。そもそも5歳で中級魔法薬を作り、独自に風邪薬を作る子供など常識的に考えて普通のはずがない」


 ちょっと〜、人を異常者扱いしないでよ。転生してから興味を持ったのが魔法薬で、それ以外に興味なんかなかったから仕方ないじゃん。


「そうですか」


 オレリアは俺が褒められた?事に対して嬉しそうだ。陛下は俺にチラリと視線を向けると、急に頷いてから机の上にあった鈴を軽く鳴らす。


「失礼致します」


 すると、すぐに扉がノックされてメイド2人が。


「世界樹の滴を小瓶に1つ、ユニコーンの角を1本、成竜の涙を小瓶に3つ用意するのだ」


「「はい」」


 陛下が今言ったのは、上級魔法薬の中でも特に入手が困難な代物ばかり。全部で金ルピー50万枚にもなる。


(も、もしかして!?)


 思わず顔がニヤケた。それを見て陛下は頷く。つまり、貰えるという事か。


(よっしゃああああぁぁぁぁぁ〜。陛下に感謝)


 この時、俺は風邪薬で一儲けしようという考えをすっかり忘れていた。

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