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シャルトル家のタケル  作者: 七夕 アキラ
第2章 旅立ち編
21/189

2ー11


 ガメラ討伐から数日後の正午過ぎ、俺はアントワーヌ凖爵の屋敷内で埋もれていた大きな錬金板を借りて宿屋シツキ亭の裏庭にいる。馬車も注文済みしてあるけど、帆馬車ではなく普通の客車タイプ。

 屋根があって、扉に小窓もあるタイプだ。ただし、使われている材料は違う。外部から見ると基本部分は木材だが、実際はガメラの甲羅で強度を底上げしている。


 それで俺はというと、大きな錬金板の上に壊れて使い物にならなくなった金属が積まれています。これから、錬金板を通して本格的に家馬車実現の為に錬金するところ。それと火石や水石、氷石、風石、光石の魔石も板に乗せてある。

 最初に何を作るか悩んだ結果、火石搭載型のコンロからとなった。まぁ内部構造なんか分からないから、そこはファンタジー世界の補助があると期待しよう。


 目を閉じて早速開始。大きさは横幅1メートル、縦幅を1メートル半。デザインは日本の自宅で使っていた形だ。鍋やフライパンを置いて加熱が出来る場所を3つ。

 それぞれの下に大小に砕かれた火石6個を置く。走行中の揺れを伝えないように、器具を挟み込むような爪も作っておこう。魚焼き機能は……いらないね、うん。


 具体的なデザイン出来上がったら、錬金板を通してただの金属を作り替える。点火の方法は、ただ魔力を込めるだけの簡易仕様。ただし、火石の大きさを考慮する必要がある。


(いや、待てよ。どうせなら、手前から順に火石の大きさを変えよう。手前右側が大きい、左が中、奥が小。うん、これなら火加減の管理ができるぞ)


 錬金途中で失敗の可能性もあったけど、火石の大きさを変更しただけ。数分後には立派な魔力コンロの完成。次は冷蔵庫兼冷凍庫だな。完成したコンロを動かして場所確保。

 冷蔵庫、冷凍庫のどちらの機能も持つように考えよう。と言っても難しくはないよね。だって、上半分が冷蔵室で下半分が冷凍室とするだけなんだから。


(日本での便利生活が、こんな場所でも役に立つなんてね。祖父さんも何で作らなかったんだろ?)


 おっと、余計な思考は不要、無用。さっさと作業に取り掛かろう。そう思ったんだけど、うん、意外と難しい。それぞれに合わせて、氷石と風石をどう設置するかが問題。

 冷蔵室に小石程度の氷石を6〜8個として、風石はどうしようか。氷石は魔力を注ぎ込むと冷気を発するんじゃなくて氷そのものを作るんですよ。その氷から出る冷気をどうやって、均等に行き渡らせるか。意外と難問だ。


 失敗するだろうけど、試そうかと考えたけど氷石は手持ちが少ない。それを考えると、諦めた方が良いだろうな。それなら、浴槽を作ってみよう。

 金属その物を使って浴槽を作るとなると、問題が出てくるんだよね。火石の大きさを調整して、水石を浴槽に直接組み込んだとしよう。

 金属である分、熱は伝わりやすい。その水石で水を発生させたとして温度管理に難が。


(そもそも火石をどこにセットするかが問題だよな。魔力を流したら、直接に火が発生する。ガメラの甲羅を使っていても熱は伝わるだろう。そうなると、少なからず馬車の内部に使っている木材に引火しないとも限らないし)


 火石と水石を直接に浴槽へ入れると、どちらか一方だけに魔力を供給するのは難しい。さて、どう解決しようか。


「タケル」


「ん?」


 行き詰まっていた時に、セリーヌが声を掛けてきた。


「なに?」


「クロエから」


「ん?」


 渡されたのは、どう見ても丸いクッキーだ。


「これが、どうかした?」


「食べてみて。そうすれば、わかるから」


 いまいち要領を得ないけど、糖分補給には良いかもしれない。サクっという音と同時に、口の中に広がる甘さ。その正体に気付いた。


「蜂花か?」


「正解。どうやって甘さを出すか悩んだみたいだけど、上手く蜜の味を抽出するのに成功したんですって」


(ふ〜ん、抽出か。……ん?抽出?っあ、もしかしたら)


「ちょっと凖爵に会ってくる」


「え?どうしたの?」


「クロエにヒントありがとうって、そう伝えておいてくれ」


(紋章学というか、刻印学というべきか。どっちでもいいや。どちらかを使える使用人がいる事を期待しよう)


 俺は「抽出」という単語を聞いて、もしかしたらという方法を思い付いた。残念な事に冷蔵庫兼冷凍庫には活かせないだろうけど。

 それでも、セリーヌとクロエが希望する風呂を作れるかもしれない。確実ではなくても、実現性が高くなった。ヒントをくれたクロエには感謝だね。




「出来ますよ?」


「本当か!?なら、すぐに頼むぞ」


 アントワーヌ凖爵が抱えるメイドの1人が刻印魔法を扱える事が分かり、特定条件を満たすような刻印が可能かと確認した。その結果が今の会話だ。


「た、タケル様、落ち着いてください。そんなにお急ぎなのですか?」


「そうだな。馬車が完成したら、すぐにでも出発ができるようにしておきたい」


「分かりました。刻印をしなければならない物は、既に完成していますか?」


「まだだ。というよりも、先に刻印をしてくれ。そうすれば後は錬金するだけで完成になるから」


 アントワーヌ凖爵にメイドを少しの時間だけ借りる事を言ってから、すぐにシツキ亭の裏庭へと連れていく。到着して早々に、彼女は驚いた表情だ。


「これですか?」


「違う。コンロは完成済みだ。頼みたいのはこっちだ」


 錬金板に乗ったままの金属板を指差す。どれに刻印するのかを理解したメイドは、ロングスカートのポケットから彫刻刀に近いナイフを取り出した。

 それを使って器用に楕円形を描き、その中も彫っていく。俺には知識がないから、どんな意味があるのか皆無だ。それでも、刻印さえ出来れば浴槽は完成する。


 ものの5分程度で彼女は彫り終わったらしい。その刻印には特定条件への移行と維持をする個とが出来るようにしてもらった。

 その条件とは、火石に魔力を流して発生させた火から熱エネルギーだけを抽出。浴槽に埋め込んだ水石が、一定量まで水を貯めると、抽出した熱エネルギーが徐々に加熱。

 およそ10分から15分程で水はお湯へと変貌。その後、人間が入っても火傷しない温度まで下げたら、刻印に魔力を流す。


 そうすると、刻印がお湯の温度を記録して魔力が供給され続ける限りは、温度を維持し続けるようにしてもらったんですよ。

 それと湯気や湿度は小窓を開ける事で、外へと逃がされて馬車の内部に充満する事態もなくなる。これで、いつでもゆっくり浴槽に浸かれるってもんだね。


「ありがとう。助かったよ」


「いえ。ご用件は以上ですか?」


「あぁ。これで問題ない」


「では、お屋敷へ戻ります。また刻印が必要になりましたら、滞在中にいつでも申し付けてくださいませ」


 仕事を終えたメイドを見送り、俺はすぐ錬金に取り掛かる事にした。一般的な浴槽をイメージして、具体的な情報を加える。深さ80センチ、奥行き2メートルでゆっくりと、お湯に浸かれるサイズ。

 排水に関しても問題ない。専用の配管を作って栓を抜けば馬車外へと、排水されるように設計を思い描く。錬金板にイメージを送りながら、魔力を流してただの金属を浴槽へと作り替える。

 もちろん火石と水石を組み込むのも忘れはしない。後は実際に馬車内に浴槽を設置して、使えるかどうかの確認を行うだけだ。


「よし、次だ。洗濯機でも作ってみようか」


 結局、作った生活魔法道具はコンロ、浴槽、小型ランタンに洗面台。ベッドは作るんじゃなくて購入した。より正確にはシツキ亭で使われていたベッド4つを買い取ったんですよね。

 他には調理道具を一式、新しく買い揃えた。その後で新たに思い付いた内容を大きな壺に刻印してもらいました。具体的には状態保存の刻印を。


「これで、食料や調味料の長期間保存ができる」


 ふふふ、これで家馬車は実現に向けて何歩も踏み出す事に成功した訳だ。あぁ、早く馬車に積み込みたい。


「タケル様、ずいぶんと張り切ったんですね」


 完成品を前に顔が緩んでいた時、アルフォンスがやって来た。


「よく来たな、アルフォンス。素晴らしいだろう?これを馬車に積めば、間違いなく快適な旅になる」


「それは分かります。ですが、どうやって内部に設置するんです?」


「それも対応策は考えてある」


「それは一体?」


 ウォルフの影に完成品を収納して、馬車内に影を潜り込ませて取り出す方法を告げた。すると、アルフォンスも納得したように頷く。


「それなら、問題ありませんね。しかし、ウォルフが素直に行ってくれるでしょうか?」


 普通に考えたら難しいだろう。でも、ウォルフは断らない。ヴォルフが俺を家族として見ている。つまりウォルフにとっても家族みたいなもんだ。

 困っている時に家族の頼みや、助けを拒んだりしないはず。ま、ウォルフが俺を家族みたいに思っているかは、頭を合わせてイメージというか、映像を見せてもらわないと判断のしようがないんだけどさ。


「冷蔵庫、冷凍庫の完成はどうなんですか?」


「そっちはまだ無理。それでも、旅をしていれば解決案は思い付くだろう。お楽しみって事で」


 本音を語ると、状態維持の刻印魔法を使えないかとも考えました。ただし、これには問題がある。内部で熱を持っていたりする物があると、それが他の物にも移ってしまう。

 逆に冷えている物があれば、それが移るんだけど残念な事に、冷やす事態が難しい。氷石を使わない限りは。その為に冷蔵・冷凍の両方を実現するのは、もう少しだけ時間が掛かりそうだ。




 馬車が完成したのは、生活魔法道具が完成してから5日後の事。トザキとタケの体力を考慮して作ってもらった。全長は4メートルだ。ちなみに横幅2メートル半、縦幅2メートル。小窓も5ヶ所を確保。

 これなら、ベッド4台にコンロ、浴槽、洗面台に小型ランタン、食器棚に状態維持の刻印がある食料壺。洗濯機は回転制御が上手くいかずに頓挫。朝からシツキ亭の正面玄関前に、馬車は停車中。


「ウォルフ、頼めるか?」


「ヴォフ」


 俺は隣に並んでいる身体全体を見せているウォルフに声を掛ける。生活魔法道具を1度、影に収納。その後、馬車内で影から取り出して設置する方法を選択。

 ウォルフも嫌がる様子もなく、影の中へと収納してくれた。俺の影に同化して、馬車に踏み入れた。そうして既にベッドはシツキ亭を出る前に収納済み。


 俺はセリーヌやクロエと一緒に、どこに何を設置するかを決めていく。衝立と浴槽は一番後ろに。ベッドは最後に配置する事にして、先にコンロと洗面台。

 洗面台に関しては蛇口に水石を嵌め込み、魔力を流す事で水を使えるように。排水は馬車外へと通された配管から。火石を使ったコンロは、扉からすぐにある小窓の所。


 食器棚はその反対側に。テーブルと調理台は追加で馬車内に固定で作ってもらった。イスはアルフォンスが馬車具職人から余った木材を分けてもらい、それを使って製作。

 食料壺は倒れて壊れないように、調理台の中に。空の薬瓶が入っていた木箱は無事で、それは俺のベッド横へ。本当は魔法薬の製作に使う作業台も欲しかった。


「こんなところか」


「そうね」


「ですね。これで完璧です」


 馬車内に全てを配置が終わった。これで、いつでも次の村や市へと出発が出来る。トザキとタケを馬車に繋いだアルフォンスが、会話に参加してきた。


「タケル様、次の目的地など聞いていないのですが」


「バニョレ男爵が統治するバニョレ市が次の目的地かな。その途中の村、アルトー・ブトラン・ブルトン村に寄ろうと思っている」


 凖爵で市を名乗れるのはアントワーヌ凖爵のみ。他の凖爵は全て村であり、村長として爵位を賜っている。今上げた3ヶ所の村は、バニョレ市へ向かう途中に点在している。

 だから食料や、調味料などの補充に立ち寄ろうとも思っていた。今回はガメラとの遭遇で慌ただしかったから、今度はゆっくりと旅をしたい。そう考えていたんだけど。


「若様、アルトーやブトランを通過する予定なのですか!?」


 1度も話した事のない若い商人らしき男が驚いたように話し掛けてくる。


「そうだけど?」


「立ち寄るべきではありません!あの3つの村は、非常に危険なのです!」


(は?危険?なんで?)


 男がどうして、そんな事を言うのか分からず全員で顔を見合わせていると、フェリクスが横から口を挟むようにして教えてくれた。


「アルトー、ブトラン、ブルトンの村やその周囲では悪夢病が流行しているんです」


「悪夢病?」


「はい」


 聞いた事がないから、首を傾げていると詳しい話を聞かせてくれた。


「オレもアントワーヌ市へ来る前に寄ったんですが、数日間程を村で休ませてもらっていたら悪夢ばかりを見るんです。内容は多岐に渡りますけど」


「それで?」


「オレと妹は3日間だけの滞在でしたが、寝る度に悪夢を見ました。村人達が言うには、20日程前から悪夢だけの生活が始まったそうです」


(悪夢だけか。なんでだ?)


「その悪夢のせいで、村人の大半は寝不足で隈が濃かったですね。ちゃんと寝れていないせいか、食欲もないらしく病的なまでに痩せていました」


「3つの村全てでか?」


「はい。それと確実なのかは分かりませんが、どうにも3ヶ所とも同時に始まったようです。村から離れても寝ると悪夢だけ。そのせいで、オレや妹のキトリーはアントワーヌ市に着くまでに安眠が出来ませんでした」


「若様、無礼を承知で申し上げますが、村に寄らず少し遠回りになりますが、アグノーやオセールの森を通った方が賢明です」


 アグノーとオセール。確か、直線上に並ぶ村のブトランの左右に広がる森だったはず。あくまで伝説だけど、アグノーの森はエルフ、オセールの森はダークエルフが住んでいるとかって話だったような。


「商人、どうしてその森を通った方がいいと?」


 とりあえず疑問の解消を優先しよう。何か分かるかもしれない。


「2つの森にはエルフとダークエルフが住むという伝説があります。実際に住んでいるかは別として、妖精種とも言われる種族が住むとまで言われる森。オラも通りましたけど、悪夢は見ず普通に寝れましたから」


 村全体に何かあるのか、もしくは村人達が集団ヒステリーや催眠術みたいなものに掛かっているのか。どちらも、ありそうで、なさそうだ。


「ヴォン」


 原因を考えようとしていると、ウォルフが前足を動かして来い来いアピール。


(頭をくっつけろってことか)


 前回の事を覚えているから、さっさとウォルフのモフモフ頭に合わせる。その瞬間に伝わってきたのは、何らかの魔獣が関与しているというものだった。

 頭を離して黙考に入る。具体的な魔獣の種類やイメージはなかったけど、ウォルフの方は自信ありげ。うむむむ。どうしようか。


「ブトランか、両方の森を抜けるか。あるいは、セリーの実家へと向かって情報を集めるかだな」


「バニョレ市に向かうのでは?」


 アルフォンスは首を傾げながら聞いてくる。それに対して俺の答えは単純だ。


「バニョレ男爵よりも、ボーヴェ男爵領は情報が集まりやすい。だから原因の調査と可能なら解決策をと思っている」


 シャルトル家には一切関係ない。それでも調査や解決を考えているのは、恩を売ったり、貸しを作るのが目的だ。何かあった時に協力や譲歩を引き出しやすくなるし。


「最初はアルトーですか?」


「あぁ」


 話がまとまったところで、フェリクスが情報を提供してくれる。


「アルトー方面なら要塞亀(フォートレス・タートル)の討伐と換金が済んですぐに旅立った姉弟がいます。もしかしたら何か教えてくれるかもしれません」


「分かった。気にかけておく。それじゃ、出発しようか」


 次の目的地はまずアルトー、ブトラン。そしてセリーヌの実家であるボーヴェ男爵領。そして悪夢病の調査と解決、3つの村の主家であるプレジール公爵への貸し作りだ。

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