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8話『強襲』

 黒ヘルメットが現れたあの夜から一週間が経った。あれからも毎日ラスター退治は続けているが、黒ヘルメットが現れることはなかった。


 もしかして、もうこの街にはいないのではないだろうか。そんな考えが脳裏を過る。だってもしも夢宮の予想通り瞬間移動という能力を持っているのならば、いつまでもこの街にいるメリットがない。この街にいるとレボルスの人間にバレてしまっているのだから。

 だが夢宮が言うには、ラスターが発生し続けている以上、まだこの街にいる可能性が高いのだと。俺にラスター退治を手伝わせるためだけの口実とも取れるが……。


 結局、黒ヘルメットに打たれた注射の謎も解けてない。もしあの注射が人をラスターへと変えるものだとして、現状俺がラスターになっていないことから考えると時間差で作用するモノかもしれない。そうだとすれば、黒ヘルメットがいなくとも、ラスターが出現し続ける理由になる。

 思考を巡らせながら、肘を突いて黒板を眺めていると、


「────! ──い! 聞いてるのか!? 大威!」


 教師の怒号が聞こえてきた。いつの間にか俺の机の前に来ていた数学教師を見て、慌てて姿勢を正し返事をする。


「は、はい! なんですか!?」


「やっぱり聞いてなかったのか! ……お前どうした? 最近、授業態度悪いぞ」


 すぐにキレる数学教師には珍しく、心配そうな顔を覗かせている。

 しかし本当のことを言うわけにもいけないので、無理矢理笑顔を作っておどけてみせる。


「ちょっと最近新しいゲームを買ったので、寝不足なんですよ。はは、すいません」


「ほう? わざわざ怒られるようなことを言い出すとはな。まあいい、今日は見逃してやる。…………何か心配事があるなら相談程度は乗ってやる。無理はするなよ」


 小さな声でそう言った後、よし授業続けるぞー、と大声を出して教卓へ戻っていく数学教師。

 そんな先生の背に向けて小さくお礼を言った後、聞き逃していた授業の板書へと取り掛かった。




 四時間目の数学も終わり、昼休み。修一と食事に取り掛かろうとしていた俺の元へ、夢宮がやってきた。


「なんか用か?」


「別に気になったわけじゃないんだけどね。さっきの授業中、ぼうっとしてたみたいだし? どうせ『何か』考えてたんだろうなと思って」


「それを気になってるって言うんじゃねぇのか? まあいいけど。とりあえず飯食おうぜ、腹減ってんだ」


 実際夢宮の言う通りだ。こいつには言わねぇけど。はぐらかしたというのが分かったのか、ジト目でこちらを見る夢宮。そこで修一が口を挟んできた。


「なに通じ合ってんだよ、お前ら。俺も話に入れろよー」


「誰が──」


 ニヤニヤ笑いで茶化す修一に文句の一つでも言ってやろうと、口を開くが。

 俺の言葉は、廊下の奥から響く轟音に掻き消された。


「なんだ!?」


 一番早く反応したのは修一。次いで夢宮が動き始める。


大威(おおい)


 ただ一言俺に声を掛け、廊下に向かって走り出した。驚きに固まっていた俺も、その簡潔な言葉でようやく硬直から解かれ、一足先に轟音の元へ行った夢宮の背を追って走り始める。修一の俺を呼ぶ声を感じるが、左手を後ろに向けてそれを制した。

 恐らく、夢宮が行ったということは……。頭によぎる可能性はただ一つ。


 廊下に出て、階段側へと走る。そのまま階段を通り過ぎ中庭の方へ向かう。恐らくこっちの方から聞こえてきたはずだ。木目調の床を蹴り飛ばして先へ進み、角を曲がると、すぐそこに夢宮はいた。

 そして、その先に、



 ────十数体のラスター達と、床に広がる血の海が。



 まるで夢宮と対峙するように、全ての個体がこちらを向いている。


「なん、だ、これは……?」


 信じられない光景に思わず声が漏れてしまう。一体でも俺一人では到底敵わないようなラスターが十数体もいるから、ではない。そんなことよりも、床に広がる血が誰のものなのか。その疑問への答えが分かってしまったからだ。


 誰の血かなんて、そんなもの、この学校の関係者以外にはありえない。その血が広がり、数メートル離れているはずの俺達の所まで届いている。いや、届いているのは血だけではない。鉄のような匂いと、生臭い何かの匂いもだ。

 呼吸が荒くなっていることが自分でも分かる。思考がうまく働かない。吐きそうになるのを抑えるので精一杯だ。


 初めてラスターと遭ったとき、それ以上の恐怖に縛られた俺を、


「【右手変質(ブレイク)】『空槍』ッ!!」


 夢宮の大声が、現実に引き戻した。


 夢宮は、空気の槍を放ち一番近くにいたラスターを貫く。それだけに留まらずラスター達の真後ろにある、中庭へと続くガラス張りの扉を破砕した。地面に落ちて更に細かく割れるガラスの甲高い音が連続する。


「あんたは他の生徒を避難させて! 私はこいつらをぶっ潰す!」


「この数相手にやれるのかよ!?」


「今見た通り、私の『空槍』は貫通するわ。だから束になってれば複数一気にやれる。多対一なんてむしろ好都合ってわけ! 分かったらさっさと行って!」


 それでも多対一がきついのは間違いないはずだ。貫通できるから複数を一度に殺せる、ただそれだけなんだから。もちろん夢宮も分かっているだろう。

 だが、そう言わないのは俺を早く行かせるためか。それは二人だけじゃどの道こいつらに敵わないからではなく、ラスターがこれだけではないかもしれないから。もしも学校の他の場所にも出現しているのだとすれば、被害は拡大するばかり。

 今は夢宮に甘えるしかない。


「……すまん。ここは任せる」


「早く行きなさいって!」


 二発目の『空槍』を放つ夢宮の姿を見て、俺は踵を返し駆け出した。




 階段辺りまで戻ると、幾人かの生徒が目に入る。どうするか。中庭の方から離したいがこいつらを中庭から離すための言葉が浮かばない。あの轟音、それに夢宮がこれから響かせるかもしれない音。中庭の方に好奇心で近づかないとは限らない。


 考えろ、何か生徒全員動かすための方便を。

 ──生徒全員?

 立ち止まって思案する中、一つだけ思い浮かんだものがあった。

 走って乱れた息を整えて、なるべく大きな声で見知らぬ男子へ声を掛ける。


「ちょいちょい、ちょっといいか?」


「んあ? どうかしたか?」


 見たこともない奴に話しかけられたというのに嫌な顔一つせず、明るく返事をする彼。

 よし、こいつなら広めてくれるはず。


「なんか今から体育館で全校集会らしくてよ。職員室に通りすがったとき、生徒達に広めといてくれって言われたんだわ。手伝ってくれると助かる」


「全校集会? マジで?」


 目を点にしているところを、畳み掛けるように言葉を続ける。


「なんかどっかの馬鹿がトイレでタバコ吸ってたみたいでよ、匂いが残ってたんだってさ。迷惑な話だよな」


「マジかー! 一応進学校だっつうのにそんな奴がいんのか」


「ホントだよなぁ。じゃあ俺は二年の教室回って伝えてくるから、お前は他の学年とか通りすがりの奴らに教えといてくれ」


 それだけ言い残して、自分のクラスの元へと再び走り出した。りょうかーい、という声が後ろから聞こえてくる。どうやら信じてくれたようだ。それに近くにいた生徒の耳にもちゃんと入ったらしく、皆すぐさま自分のクラスに戻っていった。


 ふぅ……。正直穴だらけの話だったが勢いで誤魔化せたな。本当に全校集会があるなら、そもそも生徒個人に伝えず校内放送で呼び掛けるだろう。

 それに内容をその場でバラしたりもしないはずだ。タバコがバレたとするなら十中八九持ち物検査が始まるし、生徒に内容を伝えて喫煙者本人に伝われば対策を取られかねないからな。


 教室の前に着き、引き戸を開く。その瞬間、修一が問い掛けてきた。


「おい、石火! さっきの音は何だったんだ?」


 他のクラスメイトも気になっていたのか全員こっちを向く。だが正直に話すわけにもいかない。そんなことをすればパニックになるだけだ。


「なんか荷物運んでた教師がすっ転んで思いっきり壁に激突した音だったらしい。恥ずかしいから広めないでくれって言われたから、皆も内緒な」


「ここまで聞こえてくるぐらいデカい音でぶつかるとか、そいつ生きてんのか……?」


「それより、なんか今から体育館で全校集会らしいぞ。なんでも誰かが喫煙してた跡が見つかったとかでな。教師陣、すげぇキレてたからさっさと行った方がいいぞ」


 えー、とめんどくさそうな声がいくつも聞こえてくる。とはいえ、疑うような声はなく、皆すぐに立ち上がり俺の隣を通り過ぎて教室から出ていく。

 ただ一人、俺の前で立ち止まる者を除いて。


「石火。それで、さっきの音は何だったんだ?」


 修一は全員が教室から出ていったところで、さっきと同じことを再び尋ねてきた。


「だから言っただろ。教師が壁にぶつかったって……」


「そんぐらい嘘だって分かるっつーの。一応親友だろうが。嘘吐くときの癖ぐらい知ってんだぜ? お前は嘘を吐くとき相手と目を合わせない。知らなかったのか?」


「そんなこと……」


 やれやれと肩を竦め、至って当然だとばかりに言う修一に、俺は言葉を返せない。


「何を隠したいのか知らんけどよ、俺ぐらいには教えてくれてもいいじゃねぇか。花蓮ちゃんが戻ってきてない理由も気に──」


 そこで、再び轟音が鳴り響いた。ただし今度は中庭の方面ではなく、すぐ近く。


 それも、隣のクラスの方からだった。


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