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7話『再会』

 交差点手前にある街灯のすぐ側に、ラスターがいる。


 そして、その隣には────、黒ヘルメットがいた。


 なのにラスターは動かない。すぐ近くに人がいるにも関わらずだ。まるで黒ヘルメットに従っているかのように、その場で固まっている。

 夢宮は言っていた。黒ヘルメットとラスターは関係があるかもしれない、と。あれは正しかったのだ。黒ヘルメットがラスターを従えているということは、ラスターを生み出しているのも黒ヘルメットなのだろうか。


 だとするなら、あのとき打たれた注射は、──まさか。嫌な想像が脳裏を駆け巡る。今すぐ黒ヘルメットに問い正したいことがたくさんある。

 だが、今は無理だ。なにせあいつの隣にはラスターがいる。もしもあいつの指示一つで動くのだとするならば、今の俺に打つ手は潜むことしかない。

 俺一人じゃどうしようもないラスターと、そんなラスターを一瞬で倒せる黒ヘルメットを同時に相手取ることなど俺には不可能なのだから。


 こっそりと電柱の陰から黒ヘルメットの動向を覗く。だが黒ヘルメットが何をしているかまでは分からない。暗闇のせいだろうか、街灯の光があるとはいえど紛れて細かな動きが見て取れない。分かるのはただラスターと向かい合っているということだけだ。


 奴らを見続けてどれほど経っただろうか。息を殺しながらそんなことを考えていると、そこでついに、異常事態が発生した。

 交差点の奥の道から、──第三者が現れたのだ。

 現れたのはスーツに身を包んだ女性。疲弊したような足取りから会社帰りだということが理解できる。つまりは完全な部外者。

 これはいけない。ラスターが人を襲うのが黒ヘルメットの指示だとすれば、あの人が殺されない理由がない。どうにかして、逃がさなければ。


 力は? ない。武器は? ない。策は? ない。味方は? 今はいない。現状はどうしようもなく、ないない尽くしだ。それに俺には正義感なんてものもありはしない。だけど、それでも、俺は、

 せめて掌に収まるぐらいは救ってやる。


「待て」


 電柱の陰からわざと足音を鳴らして飛び出る。制止の声が聞こえたかは分からない。それでも黒ヘルメットはこちらを向いた。

 とにかく意識をこちらに向けさせて、あの女性を逃がす。そのために時間を稼がなければいけない。かといって能力では一秒しか稼げないから戦うような展開には運べない。

 ならやれることは、会話だ。


「俺を覚えてるか?」


 わずかに近づきながら問う。俺と黒ヘルメットとの距離は二十メートルほどだが、この辺りが限界だ。あまり近付けば一瞬で殺されかねないし、離れ過ぎれば声が届かない。

 黒ヘルメットは少しだけ頭を縦に振って答えた。


「生きていたのか」


 その言葉の意味は、つまり。俺を殺すつもりだったということか……? しかしならば、あの時殺さなかった理由が分からない。


「あの注射は何だったんだ? 殺すつもりだったんなら注射を打つ必要はなかっただろ」


 わざと『殺す』という部分だけ声量を上げて言う。女性の耳に届くように。

 狙い通り女性の耳に届いたのかどうか。だが不穏な空気は伝わったようで、女性は来た道を小走りで引き返していく。あとは完全に見えなくなるまでの時間稼ぎだ。


「……何?」


「あの注射は何だったのかって聞いてんだよ」


 時間稼ぎではあるが、聞きたいことを尋ねるチャンスでもある。この絶好の機会を逃せば、もう聞く機会はないかもしれない。


「その前に一つ聞きたい。何故お前はそこまで私に敵意を向けている?」


 はっ? こいつは、何を言っているんだ。敵に敵意を向けるのは当然だろうが。だが馬鹿正直にそう答える必要もない。


「先に答えるのはお前だ! 質問に答────」


「もしかして……、誰かに何かを吹き込まれたのか?」


 俺の言葉を遮るように、黒ヘルメットは言った。何かを考えるよりも先に否定の言葉が口から溢れる。


「ちがっ、そんなんじゃねぇよ! 誰かに言われなくても、あんなもん打たれれば敵意ぐらい持つに決まってんだろうが!」


 そう口にした瞬間。

 黒ヘルメットは闇に溶けるようにして姿を消した。同時に、ラスターの身体が上下に引き裂かれる。

 ……何が起きた? 疑問に答えるようにして姿を現したのは、


「あいつ……ッ! 出てきなさいよ!」


 右手を黒色に変質させた夢宮だった。ということはラスターをやったのは夢宮の能力か。しかし黒ヘルメットが消えたのはどういうことだ? まさかラスターと一緒に消滅したわけでもないだろうし。

 とりあえず、と夢宮の元に駆け寄る。


「そっちはどうだった?」


「もちろんぶっ倒したわよ! それよりあんた、いるんだったら能力で止めときなさいよ!」


「一緒にいたわけでもねぇのに、お前のタイミングに合わせられるわけねぇだろ! だからあんとき待てって言っただろうが。一緒にいたらどうにかなったかもしんねぇのに」


「うっ……。それは、その、ごめん。でも犠牲者を出さないためには別れた方が効率が良かったのよ」


 誰にでも分かるぐらい苛立っていた夢宮が、俺の言葉に肩を落とす。

 まあ夢宮の策が全面的に悪かったわけではない。夢宮の言う通り別れていて良かったことがあったのもまた事実だ。黒ヘルメットを逃がしたのは置いといて、一人は確実に助けられたわけだし。


「まあ逃げられこそしたが得られたものはあった。あいつがラスターと繋がっていることは間違いないって分かったんだからな」


「詳しく教えて」


 詳しくと言われても困るが、とにかくさっき見たことを話す。ラスターは黒ヘルメットに襲い掛からなかったこと、静かにその場で佇んでいたこと、向かい合って何かをしていたこと等を全て。

 俺の話を聞いて夢宮はやっぱりと零す。


「レボルスの情報が間違いじゃなかったって分かったのも益にはなったけど、さっきのでもう二つ分かったことがあるわ」


「二つもか?」


「そう。一つ目はまあ見れば分かるけど、黒ヘルメットがこの街にいるのが間違いないってこと。二つ目は、あいつの能力よ」


 黒ヘルメットの能力。それについては俺も気になっていた。能力さえ分かれば対策し、今度こそ逃がさないようにできるのかもしれないのだから。


「どういう能力なんだ?」


 思わず顔を寄せて尋ねると、夢宮は左手で俺の額を押し返しながら答えた。


「ちょ、近い! あいつの能力はさっき初めてみたけど、あれを見た瞬間にいくつかの候補は思い浮かぶ」


 いくつかの候補……。この辺りはやはりレボルスの一員としての場数だろうか。俺はあいつと対話するのが精一杯で、そんなこと考えようとすら思わなかった。


「私が能力を放つ瞬間に姿を消した。ってことは背景に擬態するか、透明になれるかっていう線が浮かぶけど、それはありえない。だって見えなくなったところでそこに身体があるんだったら私の『(くう)(そう)』が貫くんだから。だったらあと一つ、可能性のある能力がある」


「それは?」


 夢宮はわずかに言葉を溜めた後、ゆっくりと口を開く。


「瞬間移動。それしかないわ」

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