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3話『正体不明』

「【左眼変質(ブレイク)】『石眼(せきがん)』」


 左眼が黒に染まる感覚。同時に化け物の動きがわずかに止まる。ただそれだけ。


 でも、それだけでいい。今度こそ立ち上がって、その場から駆け出した。たった一秒ではあるが、一秒あれば数メートルは距離を稼げる。

 走りながら化け物の方へちらりと視線を向ける。そこで更に俺を困惑させるような事態が起きた。


 化け物と俺の間に、見知らぬ人が立っていたのだ。全身を真っ黒な服装、ライダースーツのようなものだと思われるそれで覆い隠し、頭にも同じく黒いヘルメットを被っている。

 パッと見では化け物と黒ヘルメットの男、どちらがどちらか分からなくなるぐらい、どちらも黒い。その黒ヘルメットは脇に棒状の何かを抱えていた。


 黒ヘルメットは化け物の方へ歩いて近づいていき、棒状のそれを引き抜いて鈍色の何かが輝いたと思えば。すぐに引き抜かれたそれが脇に戻される。


 瞬間、化け物の首が落ちた。


「は……?」


 思わず声が漏れる。次いで先程の光景を思い出した。

 あの棒状の何かを引き抜いたとき、街灯の光で銀色に輝いていた。まるでナイフのように。恐らく、あれは日本刀か何かだ。一メートルと少しほどの長さがある刃物などそれぐらいしか思いつかない。


 日本刀から、首の落ちた化け物へ視線を移す。そこに化け物の姿はなかった。落ちた首も、残った身体も、どこにも見当たらない。


 ────どういうことだ?


 ショートしかけている頭を無理矢理働かせ、黒ヘルメットに視線を戻すと今度は黒ヘルメットが消えている。……もう訳が分からない。

 真っ黒な服装だからこの暗闇に紛れて去り際が見えなかったのか、それとも今までの全てが俺の夢か幻だったのか。冷静に考えて後者だろう。


 溜め息を一つ落として今度こそ本当に帰路に就くことにする。

 後ろへと振り返ろうとして、そこで気付いた。黒ヘルメットが真横にいたことに。

 更に言うのであれば、腕に、注射を刺されていた。


「……ッ!?」


「動くな、死ぬぞ」


 慌てて飛び退こうとする俺にやたら中性的な声色の制止の言葉が掛けられる。そのすぐ後に注射は引き抜かれた。

 なんだこの注射は……!?

 刺された跡に手を当て、黒ヘルメットを睨みつけると、黒ヘルメットはライダースーツの胸ポケットに注射器を仕舞い、逃げるように走り出した。


「おい、ちょっと待て!」


 その背を追って走る。

 しかし、路地へと曲がったはずの黒ヘルメットは、俺が路地に入った時にはもうそこに姿はなかった。


「どう、なってるんだ……?」


 首を傾げながら吐いた呟きは、深夜の住宅街でひっそりと消えた。


 ──────

 ────

 ──

 ─



 頭上で甲高い音を鳴らす目覚まし時計を叩いて止め、目を開く。窓から差し込む日光に目を細めながら昨日のことを思い出した。


 結局あの後しばらく探したがどこにもおらず、諦めて帰ったのだが親父は家の鍵を閉めて爆睡していた。電話で叩き起こしてなんとか家には入れたが親父には悪いことをした。


 こうして一夜経って考えるとあれは夢だったんじゃないかと思う。が、左腕に残る少しぷっくりと膨れた注射痕が紛れもなく現実だったのだと訴えてくる。

 ただ、身体に違和感はない。注射による影響など、どこにもないように感じる。だがそんなわけはない。きっと何かしらの影響はあるはずなのだ。でなければ注射を打つ意味がない。


 じわじわと効く毒の類だろうか。いや、それならば即効性のある毒を打たなかった理由が分からない。


 まあいくら考えても埒が明かない。時間の無駄だ。

 いつものように襲い来る親父をあしらって、登校の準備を終わらせて家を発った。




 始業のチャイムが鳴るギリギリに学校へと到着し、席へ着く。夢宮の奴に席を強奪されたせいで俺の席は窓際の一番後ろだ。まるで教室の端に追いやられたかのような気分になる。


 追いやった張本人である夢宮の方をちらりと見る。

 夢宮は、俺の方をガン見していた。謎の威圧感を感じる。すぐに目を逸らし、鞄の中から本を取り出して読書をしようとすると。


「ねぇ、あんた」


 声を掛けられた。いつの間にか俺の席へとやってきていた夢宮に。


「なんだよ、言っとくがもう席はやらねぇぞ」


「なんかあんた、私のこと席の強奪魔かなんかだと思ってない?」


「ご名答。あんだけ人の席に執着されて、結局奪われたんだからな」


「ちがっ、あれは素直に渡すのが癪だっただけで! って違う! あんた結局あの後ちゃんと家に帰れたんでしょうね?」


 それがわざわざこっちに近づいてきた理由か。そんなもんこうやって学校に来てる時点で分かるだろうに。というかなんか夢宮の言い方はガキに対して心配してるみたいで、ちょっとムカつくな。


 とはいえ、ちゃんと家に帰れたかという問いについてはイエスと答えるが、何もなかったかと言われるとそれはノーなんだよな。

 まあわざわざこいつに話すことでもないだろう。


「あー、そうだな。あのまま普通に帰れたよ」


「本当に?」


 ちっ、ちょっとわざとらし過ぎたか。なら怒らせて話を流そう。会ったばかりの俺でも分かるぐらいに直情型のこいつなら、きっとすぐに釣れるはず。

 俺は頭に人差し指を当てて、こう言った。


「お前頭大丈夫か? 今こうやって学校に来てるんだからちゃんと帰れてないわけがないだろ」


「フンッ! 挑発がわざとらし過ぎ。もうその行為自体が何かあったって言ってるようなもんじゃない」


 腕を組んでそっぽを向きながら、鼻を鳴らす夢宮。どうでもいいけど、そのポーズは胸が強調されてえっちぃぞ。言わねぇけど。

 しかしこいつ……、意外に頭が回るんだな。もうちょっと怒りっぽいバカかと思ってたのに。


「あんた、何か失礼なこと考えてない?」


「別に?」


「いーや、今の顔は絶対に────」


 と、夢宮の言葉の最中で。始業のチャイムが鳴り出した。

 これも策の内だ。挑発に乗るならそれでいいし、乗らないなら乗らないでチャイムが鳴るまで話を引っ張ればいいだけ。


「ほら、さっさと席に戻れ。怒られるぞ」


「ちっ、後で絶対何があったか聞くからね」


 まるで捨て台詞のような言葉を吐いて、夢宮は茶色のサイドポニーを揺らしながら自分の席へと戻っていった。

 まったく、強情というか執着心が強いというか。無事だったんだから無事だったで、話を切り上げればいいというのに。


 どうやってあいつをはぐらかそうかと思案している内に、朝のHR、一時間目の授業は終わっていた。一つ授業を潰しまでしたのに、結局案は浮かんでいない。いや厳密に言うといくつか案は浮かんだが、全てあいつの執着心の前では無に帰しそうなのだ。

 そうこう考えている内に夢宮は俺の元へとやってきて、無言で俺の腕を引っ張った。


「……? おい、なんだよ」


「うっさい、黙って付いてきなさい」


 思った以上に力が強い夢宮はそのまま俺を引き摺って廊下へと出る。更に階段の方まで引き摺られ、上を指差される。上れということだろう。


 普通に嫌だったが無言の圧力に耐えられず、仕方なしに上へ行くことにする。ただ、ここは二階なので上に階はない。あるのは屋上への入り口ぐらいだ。

 その屋上の入り口前に行くと、夢宮は入り口の扉に背中を預けて口を開いた。


「ここでなら話ができるわね」


「何の話をするつもりだ? 休憩は十分しかねぇが、すぐ終わるんだろうな?」


「それはあんた次第でしょ。あんたがすぐに話せばさっさと終わるし、話さないんならその分長引くわよ」


 やはりそういうことか。そうだとは思っていたが、思いっきり振り解くと周りの目に付くと抵抗しなかったのが仇となったな。

 ただまあ、わざわざ連れてこられたとはいえ付き合う理由はないわけで。

 黙って踵を返すために階段の方へ振り返る。すると、夢宮が後ろで静かにこう言った。


「どうして私が人のいないところに連れてきたと思う?」


「知るかよ」


 構わず階段に一歩踏み出す。


「だって、ここなら能力を行使してもバレないからね」


 なんてことないように夢宮は言った。

 最初はあまりにも自然に発されたその言葉を理解できずに固まっていたが、言葉の意味が浸透してようやく夢宮の方へ振り向く。

 剥き出しになった警戒心が見抜かれていたようで、鼻で笑われた。


「別に殺そうってわけじゃないわ。足止めはするけどね」


「どうしてそこまでする……? 転校してきたばっかで、そんなにクラスメイトを心配する理由が分からん」


「別に心配なんてしてないから! ただ、私には私のやることがあんのよ」


 意味が分からん。が、こんなところで怪我を負わされるのは割に合わない。どうせ夢みたいな出来事だ、こいつも信じないだろ。


「昨日、化け物に遭った。……これでいいか?」


 簡潔に一言でそう言うと、夢宮は神妙な顔をして「やっぱり」と呟いた。てっきり鼻で笑われるか、本当のことを話せと怒られるかのどちらかだと思ったのだが。

 予想してなかった反応に戸惑っていると、下を向いて唸っていた夢宮は唐突に顔を上げる。


「無理に聞き出して悪かったわね。代わりに一つ、私の秘密を話すわ」


 ここで「別に聞きたくないのでいいです。早く教室に帰らせてください」と言ったらどうなるだろう。少しだけ好奇心が疼いたがキレて能力を使われても困るので、視線で先を促す。


「私は、『レボルス』に所属してる」


「レボルスって、能力者暴走抑止を謳っているあれか?」


 レボルス。それは確か半年ほど前に創立されたという組織だったはず。構成員、トップ、共に不明の小規模組織だと言われているそれは、警察と提携して能力者を取り締まっているという話をたまにニュースで聞く。

 夢宮は首を縦に振って肯定した。


「だけど、こんなところでそんなこと言ってよかったのか? 構成員が不明なのは相応の理由があるから秘匿してるんだろ?」


「フン、これがここにあんたを連れてきた二つ目の理由よ。レボルスに所属してるなんて広まったら怒られるじゃ済まないからね」


「じゃあなんで俺にそれを教えた?」


「それはもちろん、私の活動に協力してもらうためよ」


 ビシッとこちらに向かって指を差す夢宮。その指を腕ごと叩き落として、疑問をぶつける。


「活動って、能力者の取り締まりか? なんで俺がそんなことしなきゃいけねぇんだ」


「いいや、違う。ていうか、この流れでなんで分かんないの? バカなの?」


「帰る」


 再び踵を返そうとすると、襟首を掴まれた。

 そして、とんでもないことを夢宮は口にする。


「活動っていうのは、──化け物退治よ」


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