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24話『決着』

「つまりは未来視。これが貴様の能力の正体だろう」



 わずかな静寂が満ちる。やがてにんまり笑う母さんが片手を右眼に当てながら静寂を破った。


「せいかい、せいかい、だいせいかーい。それこそがあたしの能力、『与知(よち)』よ。その事象に関わる人数が増えれば増えるほど可能性が交差して精度は落ちるんだけどね。まあ残念な息子ちゃんは戦力外みたいだし、私含めて三人ぐらいならほぼ間違いなく視えますとも」


 母さんの言葉を聞きながら歯噛みする。

 俺が役立たずなのもそうだが、安藤も今ので戦闘復帰は厳しいぞ。


 ただ心が読めるわけではないというのは逆に朗報だ。攻撃を当てることは厳しくとも、こっちの策謀が読まれるわけではないのだから。

 だったら今は安藤のために時間を稼ぐ。


「ずっと聞きたかったことがある」


 時間稼ぎとはいえこれは本心だ。今日こいつが現れ、レボルスのトップであると知ってからずっと聞きたかった。


「んん? なに、改まって。息子ちゃんからの質問なら、そこそこは答えてあげよう」


「なんであんたはレボルスなんてもんを作った。今思えば五年前に家を出たのもそれが理由なんだろう?」


 俺のナナメ前にいる夢宮が、話題に興味を示すのを感じる。

 横目で安藤の方へ少し心配そうな視線をやっていたが今はもう完全に母さんの方を向いていた。自身の所属する、いやしていた組織の話だから当たり前か。


「まあそうね、家を出たのはラスターが現れる未来が見えたから。そのラスターに対抗するため、レボルスを立ち上げた」


「レボルスが作られたのは約一年前の話だろ。家を出たのが五年前。じゃあ間の四年間は何をしてやがった」


 もしもレボルスがラスターの原因となるウイルスを生み出したのなら、母さんは確実に知っているはずだ。だったらボロを出させてみせる。

 そう考えての質問だったのだが、母さんは、


 まるで当然のことのように、言い放った。


「何って、能力を発現させるウイルスの研究だけど? 成功した未来を模倣しても四年かかるとは思わなかったけどねー」


「あんた……、自分が何を言ってるか分かってんのか? それとも、知らねぇのかよ」


「んー、何を?」


「そのウイルスが、能力細胞が原因でラスターが生まれてるってことをだよッ!!」


 母さんの話じゃ本末が転倒してしまっている。ラスターに対抗するためにラスターを生み出すなんて、そんな馬鹿な話があってたまるか。


 でもまだ、ウイルスがそんなものだとは知らない可能性だって……。いくら子供を放り出し、親父が大変なときにだって帰ってこなかった馬鹿でも、きっと。

 そんな俺の期待は、容易く打ち砕かれる。


「もちろん知ってるけど?」


 臆面もなくそう言いのけた母さんに。

 俺がキレる間もなく、夢宮がぶちギレた。


「じゃあ……、やっぱりトップのせいで私の両親はッ!!」


 怒りに任せて撃ち出される空気の槍。だがやはりというべきか、たった一歩の移動によって回避された。


「あたしのせいかなぁ? 夢宮ちゃんの事情は知ってるけど、ラスター化したのはご両親の問題じゃない? だってラスターになったのはバカスカ能力を使ったせいなんだし。さすがに能力を使うのは自己責任でしょうに」


「この……ッ、ふざけんな!!」


「待て、落ち着け夢宮」


 今にも暴れ出しそうな夢宮を、隣まで行って片手で制止ながら代わりに俺が喋る。


「あんた、ラスターに対抗するためにレボルスを作ったんじゃなかったのかよ。ウイルスによってラスターが生まれるって分かってて、なんで」


「ウイルスを作るまでは分からなかったのよねー、それ。能力が蔓延してようやく分かったというか」


「……じゃあ情報規制をしたのはなんでだ。あんたがウイルスを作ったって話はしないにしろ、ラスターになるっていう情報さえ出しておけば、ラスターになった人間はもっと少なく済んだだろうが」


 のんきが過ぎる馬鹿親に苛立ちを覚えつつ、けれどなんとか抑えて話の続きを繰り出していく。


「逆にこう思ったのよ、ほとんどの人類をラスターにして始末すれば、もっと面白い世界になるんじゃないかって。だからまあ、新世界のためにもラスターになってもらわないと困るし、情報は封鎖しちゃった」


「……ッ。でも、残るのはあんたみたいなナチュラルな能力者だけのはずだ。それで生きていけると? いくら能力者だろうがそんなこと……」


 初めて触れる本当の狂気に身震いする。会話こそ成り立つが、こいつは本当に狂っている。これ以上話を続けていてもいいのだろうかと不安になるぐらいに。


「ねぇ、息子ちゃん。あなた疑問に思わなかった? ラスター退治のために能力を連射している夢宮ちゃんがなんでラスターにならないのかって」


 それは、一度夢宮ともした話だ。能力を使いすぎた人間がラスターになるのならば、普通の人より能力を行使し過ぎている夢宮がラスターにならないのはおかしいと。


 かつては答えの出なかったその話の答えを、母さんは口にした。


「能力者の中にはね、息子ちゃん。ラスターにならない、素質ある人間がいるのよ。ねぇ夢宮ちゃん。レボルスは組織というには人数が少ないと思わなかった? それはね、そんな素質ある人間しか入れていないからなのよ」


「それはつまり、私に素質があるってこと……?」


「だが、どうやってそんな判断を?」


 夢宮の疑問に俺の疑問を付け足す。

 ただまあ、尋ねこそしたが答えなんて一つしかない。


「『与知』に決まってるでしょ? じゃなきゃ、わざわざ入るよう誘導したりとかできないし」


「入るよう誘導……?」


「ああ、言っちゃった。まっいっか。そうそう誘導。どうすればその子がレボルスに入るか『与知』して、それを実行する。例えば――、ラスター化し掛けている親御さんを誰かさんに殺させたり、とか」


 反射的に、安藤のいる後ろへ振り向いた。安藤の表情は驚愕一つに染まり切っている。

 だって、自身が最善と思ってやった行動が誰かに誘導された結果だと知ったのだから。

 いや、問題は安藤ではない。もう見なくても怒気が伝わってくるほどに怒りで満ち溢れている、夢宮だ。


「じゃあ、じゃあ、じゃあ! やっぱり両親が死んだのはあんたのせいってことじゃないの!?」


「それはさっきも言った通り、能力を使い過ぎたご両親のせいでしょ? まあおかげで素質ある人間を見つけることができたんだから感謝しないとね、っと」


「黙れ!」


 空気の槍が、連射される。だが、幾数もの空気を裂く音と共に直進する弾幕さえ、母さんの前では無意味だった。


「普通なら避けられないような数の暴力も、よく視れば、小さな隙間があるもんなのよ」


 まるで舞いでも踊るかのように、ふらりと動くだけでその全てを回避する。

 だが夢宮は止まらない。一人勝手に母さんの元へ飛び込み、壮絶な戦闘を繰り広げ始めた。一つ放ち、回避され、床が抉れ、その繰り返し。


 怒りを抱いていたのは俺も同じだが、正直夢宮の姿を見ていたら比較的落ち着いた。

 視界の端で何かが動いているのが見えてそっちを見ると、床に座り込んだ安藤が手招きしているのが見えた。駆け寄ると、小さな声で囁かれる。


「これをお前に貸す」


「お前は?」


「私は、そうだな。武器なんてなくていいんだ。一つだけ策がある。乗るか?」


「聞かせてくれ」


「────、────」

 そして聞いたその策は、確かに母さんにとって有効な策だった。

 だが問題が一つ。


「夢宮がどう動くか、だぞ」


 如何な策があろうともその通りに実行されなければ何の意味もない。更に今の夢宮はぶちギレていてどう動くか読めないという、策謀の中で最も扱いづらい存在となっている。


「ふはは、何を言っている。私を殺そうとまでしていた小娘を止めたのは、どこのどいつだ? 期待しているぞ、大威石火」


「テメェ……」


 しかしそうだな。やれなければ他に打つ手はない。逆に母さんの方にも決め手はないがそもそもの時点でこれが時間稼ぎという可能性は充分にありえる。

 未来視によって、こういう展開になるというのはある程度読めていたはずなのだから。


 一歩、母さんの方へ足を踏み出した。

 これは決別するための一歩だ。母さんというモノに完全に見切りを付けるため、母さんの今までを否定するための。


 もう一歩、更に歩を進めた。

 これは今を変えるための一歩だ。人がラスターに成り果てる現状を、能力によって狂ってしまった世界を変えるための。


 更に一歩、ゆっくりと前に進む。

 これが未来のための一歩。修一が死に、父さんがまともに動けなくなった。そんな異常から、日常に帰るための。


 俺が三歩目を踏み出したところで、母さんが俺の動きに気付いた。だが構わずに近づいていく。


「なーに、息子ちゃん? お母さんの胸にでも飛び込みにきた?」


 余裕綽々といった様子で微笑を浮かべている母さんを、夢宮は肩で息をしながら睨みつけていた。視線こそ攻撃的で人を射殺せそうなぐらいだが、疲労からか『空槍』による攻撃はもう止んでいた。


「何がお母さんだ。息子を親父に任せてどっかに行き、その親父が大変なときにさえ姿を見せやしない。あんたは血が繋がってるだけで、母親なんかじゃねぇよ!」


 分類上は母親だったとしても、だからといって親の役割を果たさない者が親である資格などありはしない。


「お父さんが大変? もしかしてラスター化しちゃったとか?」


「そんなことを笑顔のまま聞ける時点であんたは狂ってるよ」


 だから、こいつは俺が否定しなくてはいけない。腐っても身内である、この俺が。

 狂っちまった馬鹿親を真正面から否定してやる。


「まあ確かに狂ってるのかもねー。でも、だからなに?」


 もうこいつのペースには巻き込まれない。わざとなのかどうかは知らないが、相手を茶化すような真似をして主導権を得ようとするこいつに。


「あんたが最初に未来を見たとき思ったことはなんだ? 俺はあんたが家を出ていくときの顔を今でも夢に見るよ。あんな思いつめたような顔で出ていったんだからな」


「最初に、……思ったこと?」


 あのときの母さんは、今のこいつからは決して思い浮かばないような表情をしていた。

 その理由は、きっと。


「ラスターをどうにかしないとって、本気でラスターに対抗してやるって、そう思ってたんじゃねぇのかよ」


「……それは息子ちゃんの勝手な思い込みでしょう?」


 そこで、初めて母さんの表情が曇った。不愉快そうに、都合が悪そうに。

 ────ここだ。畳み掛けるなら、ここしかない。


「あんたが狂った理由を当ててやろうか? 世界を救おうと能力のウイルスを生み出したっつーのに、そのウイルスこそがラスターの素だった。それがあんたを狂わせたんだろ。いや、そう考えると狂ったのとはまた違うな。あんたは────」


「黙りなさい、……石火」


 ようやく演技掛かったように『息子ちゃん』なんて呼ぶのをやめたか。それだけ取り乱してるってことなんだろう。なによりだ。

 だからこそ言わせてもらうぞ。



「あんたは、不貞腐れてるだけだ。物事がうまくいかなかったガキみてぇにな。不貞腐れた結果、どうしようもないから新世界なんてもんを築こうとしてる。馬鹿か? 親の務め一つ果たせない奴が新世界なんて寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ。テメェは中二病のガキじゃねーんだから、いい加減現実見ろよ!!」



 なまじ未来視なんて物事を上手く進める術が手に入ってしまった。だから、なんでも上手くいくと思っていたし、やれると思っていた。なのに、一つ下手を打ってしまったから積み上げたもの全部ぶち壊して暴れ始めた。


 それが春道桜花、あんたって人間だよ。


「石火ァァァアア!!」


 大声を上げ、飛び込んでくる母さん。

 俺は刀を構え、そして。

 その刀を母さんの眼前へ、ふわりと放った。


「…………は?」


 わずかに、ほんのわずかに母さんが硬直する。それもそうだろう。なにせ振るわれるものだと思っていた刀を、目の前に放り出されたのだから。


 これが未来視対策、猫だまし。目の前で突飛なことをされると思考に空白が生じる、らしい。つまり考えさせないことで未来視する余裕を奪う。

 いわば、擬似的『石眼』だ。奪える時間は恐らく一秒にも満たないが。

 だが、わずかでも隙ができればそれでいい。なぜなら。


「大人しくしていてもらうぞ」


「くっ……!」


 真後ろに現れた安藤が、母さんを拘束するからだ。安藤が後ろから母さんの脇の下に腕を通して、そのまま動けないよう腕を固める。

 もう一つの未来視対策、拘束。先が分かっていても動けなければ意味がない。


「────花蓮、最後はお前に任せた。そいつをぶん殴ってやってくれ」


 呆けていた夢宮に声を掛ける。怒りの形相は冷め、俺の言葉を鼻で笑って夢宮は。


「任せなさい!」


 大きく一歩踏み込んで、思いきり腕を振りかぶった。

 母さんの眼が大きく見開かれる。その眼に映っているのは俺でも、夢宮でも、安藤でもないのだろう。きっとそれは恐怖だ。


 未来視で先が見えているのなら、自分がどうなるか分かってるんだろうからな。

 俺は最後に告げる。


「あんたに必要だったのは能力なんかじゃない。ぶん殴ってでも自分を否定してくれる誰かだったんだ」


 直後、振るわれた拳が頬を打つ。

 そして、意識を失った母さんの首が力なく下を向いた。



 そうしてようやく、安藤の戦いも、夢宮の復讐も、俺の非日常も、決着したのだった。

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