13話『問答』
「で、どうなんだ? レボルスは、夢宮は、ラスターが元は人だってことを知ってるのか?」
いつも通り八時半に街中央の公園に集まり、ラスターが現れるのを待機していた。そんな中、今まであったこと、黒ヘルメットから聞いたことの全てを話し、最後に疑問をぶつける。
ここまで俺の話を静聴していた夢宮は、ゆっくりと口を開いた。
「……バッカじゃない? 人がラスターになるなんてそんなわけないでしょ」
返ってきたのはシンプルな否定の言葉。だがまあこの返答は予想通りだ。だって、知ってたにしろ知らなかったにしろ、否定の言葉が返ってくるのは間違いないのだから。
知ってて言わなかった奴が今更本当のことを言うはずもない。
だから重要なのはこの後だ。
「だけど俺は見た、修一がラスターになる姿を。人がラスターにならないんだとしたらこれをどう説明するつもりだ」
「それは……、でも、能力が原因とは限らない。仮に人がラスターに変質するということを認めたとして。それなら私が変質してないのはおかしいじゃない。あんたが注射で抑制されていたとしても、私は注射なんて打たれてない。だったらあんたより能力を酷使してるはずの私はとっくに変質してるはずなのよ」
フェンスに寄り掛かったまま夢宮はそう言った。だから、レボルスを疑うのは見当違いだと。
なるほど、そういえば確かに黒ヘルメットの論で行くなら夢宮が変質していないのはおかしい。それについては黒ヘルメットと話をしているときに思い至らなかったな。
黒ヘルメットが夢宮について言及したのは、気を付けろってことぐらいだが……。
ただ、一つ言えることは。
「黒ヘルメットは俺と夢宮が一緒にいることを知っていたはずだ。だったら夢宮が変質していないのがおかしいと思い至るのは分かるはず」
「何が言いたいの?」
「そんな簡単にバレる嘘を吐くか?」
ことここに至っては、こういう展開に持っていきたかったのではないかとすら考えてしまう。あえて夢宮のことを話さないことで、だ。
さすがに考えすぎだろうか……?
夢宮は俺の話を聞くと、半笑いで首を振った。
「……いやいや。私達が思い至ると分からなかったって可能性もあるでしょ」
もちろん夢宮の言うことも可能性の内にはある。
ある……が、俺は思う。黒ヘルメットはそんなに馬鹿だろうか、と。夢宮が変質していない理由までは分からないが、逆にそれがレボルスへの不信感を強める。
もしかすると特別な何かが────。
「そもそもあんた分かってんの?」
俺の思考が夢宮の言葉に堰き止められる。強い視線が向けられ思わず目を逸らすが、夢宮は構わず続けた。
「黒ヘルメットの言葉を信じるとしたら、私達が今まで殺してきたのは────」
「──人間ってことになる、だろ? 分かってるよ」
だがそれは人がラスターにならないという根拠にはならない。むしろそれは元が人間だと信じたくないという願望に近い。
「だったらなんで! 元が人だっていうのはラスターを殺しにくくするための嘘かもしれないじゃない!?」
俺に限界まで近づいて叫ぶ夢宮に、俺は一歩引きながら言う。
「俺も信じたくはねぇよ。だけど、実態さえ知らないレボルスの言葉と、実際に眼で見たもののどちらを信じるかって言われればそりゃあ後者だろうよ」
正直、こう言えば夢宮はキレてどこかに行くと思っていた。
しかし予想は外れた。夢宮は肩の力を抜き、再びフェンスへ体重を掛けながら呟く。
「はぁー、……むっかつく」
「何がだ?」
「あんたが黒ヘルメットに会ったことをすぐに言わなかったこともムカつくけど、なによりあんたがあいつに唆されてるのがムカつく」
唆されている、か。その可能性もしっかり考慮してはいるが……。現状ではレボルスの真意が読めない以上、黒ヘルメットの言葉を基準に考えるしかないんだよな。
まあこいつにそれを言ったところでレボルスを擁護するに決まっているんだから、話を逸らすためにも茶化すか。
「意外だな。まるで俺のことを心配してるみたいじゃねぇか」
「ばっ、違うし! あんたが私の復讐相手に誑かされてるのが気に食わないだけよ!」
「それ言い方変えただけじゃねぇの?」
脱力していたはずなのにいつの間にか顔を真っ赤にして騒ぎ立てる夢宮と口喧嘩していると、唐突に甲高い機械音が夢宮の懐から聞こえてくる。
「ほらっ! ラスターが出たわよ!」
話を切る好機だとばかりにスマホを取り出して言う夢宮。仕方なしにそれに乗って夢宮の言う場所へと急行する。移動しながら考える。
夢宮と会話して分かった。やはりレボルスは何一つ情報を表に出していない。そしてそれは恐らく、夢宮にさえ。一つの区域をたった一人で任されるような夢宮にすら大きな情報は何も与えられていないんだ。夢宮がもし情報を持っていたとしたら、俺の言葉にもっと効果的な反論ができたはず。
もしくは反論しないことも演技の内であるか。人がラスターであるという点にしか触れていないところを見ると、その可能性はある。触れてほしくないとこに自ら触れるわけもないからな。
レボルスが何も分かっていない可能性も充分にありえるが、分かっているのか分かってないのか不明であるというのがもう信用を向けられない理由足り得る。だからといって黒ヘルメットが信用できるというわけではないが。
何にしても身の振り方を考えなければならない。
夢宮と肩を並べて走りながら、俺は自身の行く先を考えていた。




