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12話『疑問』

 休校になってから一週間、常にラスター退治に奔走する日々。日に日に現れるラスターの数は増えていっている。それと反比例するかのように出歩く人を見ることが少なくなったように感じる。

 つまりそれは、『人がラスターになる』という黒ヘルメットの言葉に真実味を付加するもの足り得るんじゃないだろうか。


 実際に修一が、人がラスターになっていく様を見た。けれど信用できない、いや、信じたくなかった。今の状況は、まるで俺から逃げ道を奪っていくような────。

 一週間経って判明したのはそれだけではない。もう一つ、不可解なことが。



 ラスターのことが、俺達の学校のことが、一切メディアに出てこないのだ。



 ラスターのことはいい。レボルスがラスターについての情報規制をしていると、夢宮は言っていたからな。だが、俺達の学校のことは別だ。人が何人も亡くなって、目撃者もたくさんいて、なのに外にはその情報がまったく出ていない。

 さすがにこれはおかしいとしか言いようがない。まさか、ラスターによって起こった死さえも、レボルスはなかったことにしているのか? そもそもあんな大事件を起きたというのに、何故まだ情報を隠匿するのだろう。


 レボルスが、『人がラスターになる』という可能性をまだ知らないとしても、ラスターという化け物が出現することはもう世間に伝えた方がいいんじゃないか……?

 ラスターの出現率が増えていることはレボルスも既に分かっているだろうし、これからも増え続けるということは予測できるだろう。出現率が増えるということは、一般人が襲われる可能性も上がってくるはず。


 心構えができていれば対抗できる能力者もいるだろうし、対抗できないにしても逃げることができる能力者達もいるだろう。つまりは心構えの有無で生存率に直結するということだ。それは俺がまだ生きていることが証明になる。

 現状を傍から見ていると、まるでレボルスには情報を隠さなくてはいけないような裏があるのではないかと感じてしまう。


 ……ふう、寝起きだからか思考が変な方向に寄ってしまっていた。とりあえず下に降りるか。

 首を鳴らしてベットから立ち上がり、リビングへと向かう。階段を下りていると、ニュースの流れる音が聞こえてきた。

 ということはまだ親父は家にいるな……。

 眼を使う準備をしながら警戒を露わにリビングの扉を開くと、そこにはやはり予想通り。


「休校だからって石火! 起きるのが遅すぎるんじゃないか!? お前の名前は『起きるのが電光石火の如く早くなりますように』と思って、石火と名付けたのによォ!」


 テーブルを挟んだ奥で、定位置とばかりに仁王立ちしている馬鹿親父がいた。


「嘘吐けぇ! 本当だとしたら嫌過ぎるわ!」


 なんだよ、起きるのが電光石火の如く早くなるよう付けた名前って。


「ふはは、問答無用だ石火。喰らえェ!」


 左手を振りかぶり、思いきり俺に向かって振るう親父。

 親父が変なことを言い出したせいで行動がワンテンポ遅れて、親父の能力使用前に動きを止めることができなかった。


 だから仕方なしに回避しようとするが、しかし。

 回避する必要はなかった。なぜなら放たれたはずの衝撃波は来ず、代わりに優しい風が俺の髪を揺らし頬を撫でただけだったからだ。


「……親父。親父はいつからそよ風系癒しおっさんになったんだ?」


「あ、あれー? すまん石火、なんか能力が不調みたいだ。あとおっさんって言うな、息子から言われると悲しくなる」


 親父はそう言いながら何度か左手を振るうが、来るのはやはりそよ風だけだ。


「いや、謝んなくていいよ。余計な労力使わなくていいから嬉しいし」


「そう言うなよ。これが俺達のマスコミュニケーションだろ?」


「マスコミュニケーションではねぇだろ。それを言うならコミュニケーションだ馬鹿。いや、コミュニケーションでもねぇけど」


 親指を立ててニカッと歯を見せてくる親父に、小さく溜め息を零す。思春期の息子への絡み方が分からず、とにかくスキンシップを図ろうとする父親かよ。

 まあいいか、とテーブルに座り用意してあったフレークに牛乳を入れているとニュースキャスターの声が耳に入った。


『連日増え続けている大量行方不明事件の被害者ですが、昨日ついに八百人を越えたとのことです。もはや能力者の仕業とは片付けられず、一種の大災害なのではないか、との声もありますが対策については未だ────』


 この事件まだ続いていたのか。二週間近く前に見たときは被害者は六百人だとか言ってたはずだが一気に増えたな。


「しかし、このニュース、詳しいところは一切話さないから実際何が起きてるのか分かんないんだよなぁ」


 と親父が独り言のように漏らす。

 親父の言うとおりだ。このニュースは結構前からちょこちょこ報道されていたが被害者の名前も被害地域も何もかも出さない。

 その癖、被害者数だけは上がっていくから危機感を煽るだけなんだよな。これだけの数が行方不明になってて何の足取りも掴めないなんて、捜査はどれだけ無能────。


 ────いや、まさか。


 そこで気付いた。もしかしたらの可能性に。

 これって、ラスター被害者の数か……? だってこれだけの行方不明者が出るなんて普通ありえない。大災害であろうと行方不明者だけがこんなに出るわけもない。


 ……待て。この報道がレボルスによる情報規制の結果だとして、ならば何故、全てを一緒くたにしているんだ? ラスターによる死亡者と、ラスターに変質してしまったから行方が分からなくなったのだろう行方不明者。それを何故。


 死亡者を別カウントとして、ラスターに変質した者だけを行方不明者としてカウントしている? それはありえない。だって、八百人もの数がラスターになっていたのだとしたら、死亡者も目撃者もその数では収まらない。

 そうなればもう情報を隠匿するなんて段階はとっくに越えてしまう。だとするなら、この八百人は死亡者と行方不明者をひと括りにしていると考えた方が自然だ。


 となると疑問は最初のものへと還る。どうして二つを一緒くたにしているのか。

 膨大な死亡者を明かさないために、行方不明扱いにするのはいい。だがそれは本当の行方不明者がいなければの話だ。本当の行方不明者がいるのであれば、捜索に一般市民の協力を仰ぐ意味でも正確な情報が必要なんじゃないか? 本当に行方不明ならば、だが。


 何が言いたいか一言でまとめるなら、行方不明者が本当は行方不明ではないことを知っているのではないか、ということ。

 つまり──、


 ──行方不明なのではなくラスターに変質してしまっていることを、レボルスは知っているのではないか?


「──か。おい、石火。大丈夫か? ぼうっとしていたようだが」


 思考がそこまで行き着いたとき、親父からの声に気付く。どうやらかなり深くまで思考に没入していたようだ。


「あ、ああ。問題ねぇよ。ちょっと考え事だ」


 曖昧に笑って誤魔化すと、親父は何かを察したのか気持ちの悪い笑みを浮かべる。


「おーおー、思春期ちゃんか? まったくしょうがない奴だ。さすが俺の息子」


「うっせ。おら、時間見ろ、そろそろ出なくていいのか?」


 ニュースの端に映っている時間を見れば、既に八時半を越えている。親父はいつも俺の登校時間でも家にいるため、いつ出勤しているのかは知らないが昼から仕事とかでない限りこれぐらいの時間には出ないとだろう。


「おっ、マジだ。おっし、んじゃ俺は出るぞ。外出するときは鍵掛けて行けよー」


 正面の席から立ち上がり、玄関へと向かう親父。俺の横を通りすがりながら頭を撫でてくる親父の手を払いながら答える。


「もうガキでもねーんだから分かってるっつーの。じゃあな」


「はっはっは。俺からすりゃ、いくつになってもお前はガキだ」


「さっさと行け、馬鹿親父!」


 振り返らずに俺に向かって手を振りながら玄関口に去っていく後ろ姿に悪態を吐き、ようやくフレークに手を付けた。


 そして、食べながら静かに決める。先程の結論を夢宮に尋ねることを。

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