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1話『日常』

『二ヶ月前より連続して起きている大量失踪事件ですが、昨日も引き続き十三名の行方不明者が出ており、これで被害者の数は六百人に上りました。警察は捜査を続けておりますが、依然として犯人の足取りは掴めておらず――』


 階段を降りていると、居間から漏れるアナウンサーの声が聞こえてくる。

 しかし内容なんて頭に入ってこない。なぜなら完膚なきまでに遅刻しそうだからだ。さっさと飯食って着替えねぇと。


 そんなことを考えながら居間の扉を開けると、リビングを二分するように置かれたテーブルを挟んだその奥に、黒髪をオールバックに固めた体付きのいいおっさん、もとい親父が立っていた。


「おっはよう、石火せっか! 遅刻するような息子には愛の鞭を喰らわせてやるぜ! 【左手変質ブレイク】『掌撃しょうげき』!!」


 左手をまるで黒鉄のような黒色に変色させ、そのまま大きく縦に振るう親父。次いで縦一線の衝撃波が放たれ、テーブルの上にあるスプーン等を弾き落としながら、こちらに迫ってくる。

 テーブルがあるため、そこそこ高めに放たれた衝撃波を、俺は前転して回避し叫ぶ。


「毎朝毎朝めんどくせぇ! 別に遅刻じゃなくても攻撃してくるだろうが、お前は!」


 回避した衝撃波はそのまま直進し、半開きだった扉にぶち当たる。扉は壊れたんじゃないかと思うぐらい激しい音を立てて、綺麗に閉まった。


 これが親父の能力。左手を振るえば、それに応じて衝撃波が放たれる。威力はそんなにないが、それでも室内で放てば相手を壁に叩きつけることぐらいはできる能力だ。


「そんなこと言わずに遊ぼうぜー、我が息子よぉ」


「気持ちの悪い声を出しやがって……。そんなに遊びたけりゃスプーンとでも遊んでろ!」


 落ちているスプーンを掴んで立ち上がり、親父の額目掛けて放り投げる。


「スプーン如き、お前と一緒に薙ぎ払ってくれるわ! 『掌撃』!」


 再び親父は左腕を振りかぶる。だが、そのまま腕を振るわせるわけもなく。


「させるかボケ。【左眼変質ブレイク】『石眼せきがん』」


 俺がそう呟いた瞬間、親父の動きがまるで石になったかのように止まる。

 そして、スプーンは見事に親父の額へと吸い込まれていった。




「酷くないか? 実の親にスプーンを投げつけて、しかもその後落ちたスプーンを洗わせるなんて」


「実の息子に能力で攻撃を仕掛けるバカよりも遥かにマシだ」


 とりあえず落ち着いて席に着き、親子揃って牛乳に浸したフレークを貪る。

 もはやここまでが我が家のテンプレ。いい加減飽きてほしいところだが、飽きる気配は一切ない。実に残念だ、親父の頭が。


「あー、そういや帰りは遅くなるかもしれん。学校帰りにでも適当に食って帰ってくれ」


「露骨に話を……。まあいい、了解」


 いつものことだ。それに仕方のないことでもある。

 ウチは父子家庭だから、その分親父が稼がなきゃならない。高校がバイト禁止でなければ俺も親父の負担を減らしたかったんだが。


 バイトができる高校に入ろうと考えたこともあった。だが親父は、「そんなことでお前の将来を狭めるわけにはいかん」のだと、やかましいぐらいに言っていたからな。


「じゃあ親父、皿は水に浸けといてくれ。帰ったら洗っとく」


 席を立ちながら言う。


「おお、すまんな」


 フレークを貪る親父のアホ面を一瞥して、居間を後にした。

 とりあえず自室へと戻り制服に着替えた。ちらりと時計を見ると遅刻の気配を感じる。

 それもこれも全部能力なんかが生まれたせいだ。親父だって能力を持ってなければ早朝から喧嘩を吹っ掛けるような真似はしなかっただろう。ダル絡みは変わらなかったかもしれないが。




 能力が生まれたのは約一年前の話。日本のどこかで、変な力を持つ人間がいると報道されたのが最初だったと思う。それからそんな力を持つ者がどんどん増えていき、今ではほとんどの人間が持っている。

 最初は皆戸惑っていたが、時間が経つごとに慣れていった。その慣れは良いことばかりではない。能力を悪用した犯罪なんかも当然のように発生、増加した。


 そんな能力犯罪を取り締まるために警察も新たな課を作り出していた。それによって爆発的に増えていた能力犯罪もひとまず鳴りを潜めたわけだ。

 まあ他にも能力関係の組織があるみたいだが、それは名前とちょこちょこニュースで聞くぐらいの情報しか知らない。

 確か能力者抑止組織『レボルス』と、能力研究機関『ガルディア』とか言ったか。


 なぜ能力が生まれたのかというのは、詳しいことは分かっていないらしい。

 分かっていることは一つ。能力を使うとき、肉体の一部が黒く染まるってこと。これのことを世間は『異能変質ブレイク』と呼んでいる。染まるのは能力が深く関係する部位だからだ。

 俺の能力、『石眼』は左眼が黒くなる。最初はかっこいいなんて思っていたが、一年も経つと分かる。死ぬほど役立たずだ、この能力は。


 相手の動きを一秒止められるだけの能力。それも再使用までに一分掛かり、人以外には効かないという制限がある。


 俺が遅刻しそうだという現実さえ変えられなくて何が異能か。せめて時間を一秒止められるとかなら、わずかながらも使い道があったのに。

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