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暗黒球場  作者: 馬河童
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2回表

 私は取材を生かし新聞・テレビでフェニックスのキャンプを絶賛した。「今年、間違いなく台風の目となる球団です」と自信を持って発言した。それがまた注目を浴びたようで「王嶋、フェニックスキャンプをベタ褒め」などとあちこちで言われることになった。

 そしてようやく待望のスターズキャンプへ乗り込む時がやってきた。キャンプは既に第二クールに入っており、練習にも熱がこもっていた。人気球団だけあって、報道陣やファンの数もフェニックスとは比べものにならず、大量の人間がフェンスの外に群がっていた。 私は視察する上でまず、下川監督に挨拶しに行った。

「おう、シゲ来たか」

「下川さん、いや監督、よろしくお願いします」

「おう。好きなように見て行ってくれや。ここはお前の庭のようなものだからな。練習の邪魔にならなければ選手個人に話を聞いてもいいぞ」

「ありがとうございます」

「何の何の。それよりフェニックスはどうだった?お前がベタ褒めらしいが……」

 下川さんはさすが指揮官、対戦相手の情報が気になるようだった。

「質の高い練習をしていましたね。今年は去年のようにはいかないかもしれません……」

「昨年はウチのお得意様だったからなあ。星が減るとなると痛いわな。ま、こちらも負けるつもりは毛頭ないが」

「多分、総合力ではスターズの方が上でしょう。横綱相撲を取れれば問題はないかと思いますが」

「ふふっ」

 突然、下川さんが笑いを見せる。

「ど、どうかしましたか?」

「お前もまだまだスターズの選手の気分が抜けてないな。解説者は公平に物を見ないといかんぞ」

「そ、そうですね……」

「まあ嬉しい事だよ。お前みたいな奴がいてくれて。スターズの将来も安泰だな」

「はは……。だといいですね。私は本当にこの球団が好きですから」

「大丈夫さ。俺の後をお前が継いで黄金時代が続いていく。球団の力の入れようだって半端じゃない。今年だってお前の後釜にサーモンズからFAで衛藤を獲っているし、さらに現役大リーガーのガンズを七億円出してまで獲得しているくらいだからな」

「球界の盟主として勝とうという姿勢があらわれていますね」

「そうさ。そんな球団だから、俺だって二年連続で優勝逃したりしたら大変だ。今年はやるぞ。お前もその辺り、よく見ていって今後の参考にしてくれ」

「はい、勉強させてもらいます」


 下川監督の元を後にした私は、早速練習を見る為グラウンドに足を運んだ。各選手がきびきびとした動きで内外野を駆け回っていた。そんな中、注目はやはり自分の後釜を努める衛藤やガンズのバッティングだった。

「王嶋さん、ガンズ凄いですね。これなら充分に王嶋さんの抜けた穴は埋まるんじゃないですか?」

 フリーバッティングを見ている際に知り合いの記者にそう言われたが、同感だった。さすが大リーガー、柵越えを次々に連発していた。飛距離に関しては私の及ぶところではなかった。あとはストライクゾーンの認識と、日本人投手の微妙なコントロール・多彩な変化球に対応出来れば、ホームラン王のタイトルを獲れそうな選手であった。 

 そしてサーモンズから来た衛藤も大暴れしそうな雰囲気を持っていた。元々、同一リーグの選手なので新しく他球団の投手を研究する必要はないし、それでなくとも力はある。打率も良いので、昨年の私以上に活躍するのではないかと思われた。

 こうして外から改めて見てみると、やはりスターズは強いチームである事がわかった。練習の質で言えば確かにフェニックスの方が優っているようにも思えたが、何よりも選手の力量が違う。フェニックスで最も優れている選手と同レベル以上の者が、ここには五人はいる。投手陣にしても二段階くらい差がある。あちらはエースが一人という感じだが、こちらにはエース級の二ケタ勝利を期待出来る者が三人揃っている。その上、名将下川さんが率いるとあっては隙がなく、優勝候補筆頭間違いなしと言えた。


 その後も各地で他球団のキャンプを見て回ったが、スターズの牙城を崩せるようなチームは見当らなかった。フェニックスのように練習の質が高い球団は二、三あったが、選手のレベルが違う。何処も善戦はしても、優勝を争うまでの力を持っているとはとても思えなかった。したがって、私はキャンプ中ながら異例の発言をした。

「ケガ人が続出でもしない限りはスターズの優勝は間違いない」

 と。

 この発言は小さな波紋を呼んだ。反発する球団や解説者も出たし、逆に同調して乗ってくる者達も多数いた。私は出席しなかったが、民放でそれに関する激論番組まで放送された程だ。ただ私個人に対する非難はなかったし、むしろ球界が盛り上がったと、一部の方からは感謝された。

「やってくれるじゃないかシゲ、こりゃお前の名誉を守る為にも優勝せにゃならんな」

 とは、下川監督の弁。他にも

「いやはや、さすがですなあ。王嶋さんがあそこまで言いなさるとは……。ウチもチャレンジャーとして頑張らせてもらいますわ」

 と言うフェニックス熊沢オーナー、

「よくぞ言ったぜ。でもな、勝負は下駄を履くまでわからない。恥をかかせてやるぜ」

 と意気込む同じくフェニックスの星本コーチなど、様々な人が意見を交わしてきた。

 その予想通りスターズはオープン戦から絶好調。衛藤やガンズを中心に打線が爆発、投手陣も相次ぐ好投、と言うことなしの出来で、ぶっちぎりのトップを走っていた。その圧倒的な勢いは他チームの追随を許さず、そのままペナントレースも独走する様を予感させた。


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