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ユーディッテ 冬の休暇

タイトル通りユーディッテのお話

随分と前に書いてたもの


ユーディとリル、お気に入りです

 フレンから、紹介したい人がいると言われたときユーディッテはぎくりとした。

 折しもリエラ退団公演の練習の真っ最中の時で、ユーディッテは、わたしも看板娘の座を降りる時が来たのかしら、と思った。

 リエラが去った後、男役トップにはウルリーケが就くことになっている。女役については、難しいところで、ユーディッテの下にも二番手三番手役を演じる女優がいて、やはりヒロイン役は十代後半の子のほうがしっくりくることの方が多い。というか、女役の方が入れ替わりが激しいのが女子歌劇団の特徴だったりもする。

 結構長い間女役、娘役のトップを張り続けた。

 リエラ退団後、運営上層部はしばらくはユーディッテにフリージア組を引っ張っていってほしいようなそぶりをみせていただけれど、それだっていつまで続くことかわからない。

 ユーディッテは長いことリエラの相手役を務めていて、良くも悪くもユーディッテとリエラは二人で一つの印象が強いのだ。ウルリーケには真新しい、彼女だけのヒロインの方がよいのではないのか。

 これはユーディッテが頭の片隅に浮かべては強制的に沈ませていることだった。

 そういうことを運営だって考えていることくらいわかっている。

 ユーディッテだって考えつくんだから、経営陣だって今後の配役とか色々と考えているだろうくらい容易に想像がつく。こういう経営者側の見方をするようになったのもやはり一つの組に長くいたためだろう。

 そこにきてフレンからの招集だ。

 フレンは手紙で、せっかくだから何人か連れておいでと寄越してきて、まず最初の顔合わせは複数人ということかしら、などと穿った見方をしてしまった。

 大口出資者のお誘いを無下にすることなんて、所属の女優にできるはずもなく、ユーディッテはリエラを含めた何人かを誘ってフレンの求めに応じた。

 出資者自ら紹介したい人がいるなんて、呼び出し文言、これは絶対にお見合いではないか。

 これを機にお嫁に行って引退しろってことなのかしら、とか内心嫌な方にばかり心が傾いてしまい、だったらお相手はぜひともお酒の趣味がある人がいいなあ、下戸は駄目とか思いながらいつものクラブへと足を踏み入れた。

「やあ、ユーディ。この間ぶり」

 フレンがほがらかに片手を上げてユーディッテ達女優陣を歓迎した。

 フロアの隅の席を陣取った、彼の座る席にはすでに上等な葡萄酒の瓶と皿に盛られたチーズが置かれていた。

 ユーディッテ達はフレンの座る席まで近づいた。

 近づいて、小さく目を見開いた。

 フレンの真正面には知らない女性が座っていた。

 茶金髪を頭の高い位置で一つに結って、まるで馬のしっぽのようなそれを垂らした女性は、とても美しい容姿をしていた。意志の強そうな瞳をしている。あいにくと薄暗い店内のため、瞳の色まではわからなかった。

 年齢はユーディッテと同じくらいかもしくは少し下あたりだろう。

 少女はじっと、こちらを見つめている。

 ユーディッテは、最初の驚きから立ち直って口を開いた。

「あら、フレンたら。可愛い婚約者をミュシャレンに残してきて、あなたは別の女性を連れているだなんて、いったいどういうことなのかしら」

 ユーディッテは芝居がかった声を出した。

「彼女はリシィル・レイマ・メンブラート嬢。私の可愛い婚約者のお姉さんだよ。メンブラート家の事業の視察の件でルーヴェを訪れているんだ」

 フレンは朗らかな口調で同じテーブルに座る少女を紹介するために立ち上がる。

「リシィル・メンブラートだ。リルって呼んで」

 リシィルも立ち上がりにこりと笑った。

「ユーディッテ・ヘルツォークよ。メーデルリッヒ女子歌劇団で女優をしています。よろしくですわ」

 ユーディッテが口を開けば、後に続いて他の女優達もそれぞれが自己紹介をした。

 一通り名乗り終わった後、リシィルが再度口を開いた。

「ああそうだ。敬語はいいよ。わたしそういうの苦手だし。一人で飲み歩いていたらフレンからふらふらするなって叱られて、ちょうど酒の趣味が合いそうな女性がいるって連れてこられたんだ。ユーディッテは、何が好き?」

 伯爵令嬢らしからぬそっけない口調のリシィルだが、打ち解けるのは早かった。

 ユーディッテは自分の大好きな銘柄を言って、リシィルがそれらを飲みたいとフレンに駄々をこね、全員で杯を重ねて、重ねるごとにお互いの距離が近くなった。

 稽古中にもかかわらず、その日はずいぶんと遅くまで飲み明かした。

 なにしろリシィルはユーディッテに並ぶくらい酒に強かったからだ。

 だからお開きになるころ、ユーディッテとリシィルはすっかり意気投合していた。



 リシィルから正式な招待状をもらったのはオルフェリアの結婚式が終わった後のことだった。

 ルーヴェで親しくなった新しい友人は『今度トルデイリャスにおいでよ』と事あるごとに言っていて、本当に招待状が届いた。

 年の瀬も迫った十二月の頃。ちょうどフリージア組の公演は休止中で、次回作のために絶賛稽古中だった。稽古といっても年末年始は休みになるので時間は取れる。

 これまで貴族や金持ちから個人的に休暇の招待を受けたことはあるが、すべて丁重に断ってきた。

 ルーヴェや近郊の屋敷のサロンに招かれて歌うことはあっても、長期間どこかの場所に招かれるということにもリスクがあるからだ。変な男に言い寄られるのも困りものだ。一つを受けると次に別のお誘いがあったときに、そちらを断ると角が立つこともある。

 けれど、リシィルとは女優云々というところではない場所で出会った友人だ。

 確かに祭りで一曲歌ってよ、とは言われたけれど。お礼としてトルデイリャス領で蒸留したとっておきの葡萄酒を樽ごとあげるよ、と言われて心が揺れたのも事実だ。アルンレイヒのお酒だ。興味がある。

 迷ったのは一瞬で、ユーディッテは返信を書くためにペンを取った。

 少し心がささくれ立っていたのだ。

 つい昨日噂を聞いてしまった。

 今練習中の舞台でユーディッテはウルリーケの相手役を務める。

 問題はそのあとのことで、次の相手役には娘役二番手の別の女優が有力だというのだ。

 ついに、ユーディッテにもこういう時がやってきてしまった。

 仕方ない、と分かっていても悲しい。確かに件の女優は演技だって歌だってユーディッテに引けを取らない。ついでに彼女はまだ十七歳。この間二十一になったユーディッテよりも若いのだ。

 ユーディッテはつい憂鬱になる心をひっぱたいて便箋に文字をしたためた。

 薄薔薇模様の便箋はユーディッテのお気に入りで、最後にシュッとお気に入りの香水を吹いてから封を閉じた。

 ユーディッテの返事を読んだリシィルはすぐに手紙を寄越してきて、当日はルーヴェまでメンブラート家の従僕が迎えに行く旨と、待ち合わせの場所の記載がされていた。

 さすがは貴族の家からのご招待だ。

 すっかり忘れていたけれど、リシィルはあのオルフェリアの姉なわけで。

 ということは、要するにユーディッテが御呼ばれをするのは西大陸屈指の名門貴族、メンブラート家の総本山ともいえる場所なのだ。

(ちょっと、もしかしたら……とんでもないことになっているのかも)

 この招待が本決まりなったあと、ユーディッテは顔を青ざめさせた。


 


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