キスの日企画
このあいだ活動報告にあげたキスの日企画に続いて。
今回はアルンレイヒの王太子夫妻バージョンです。
夕食が終わって、国王夫妻の私的な居間に子供たちを連れて訪れた。
「おじーちゃま。アンナとちゅーするの、ちゅー」
抱いていた娘を床に放すと、アンナティーゼは一目散に国王カシミーロ三世の元へと走っていった。
もうすぐ三歳になる長女はとたとたと勢いよく国王に突進する。
それを国王の威厳とはなんぞや、というくらいのデレッデレの顔で受け止めるのはベルナルドの義父だ。
カシミーロは突進してきた孫を軽々と抱き上げて、頬に彼女からの口づけを受け取めて蕩けそうに目を細めている。
「アンナ、走ってはいけません」
レカルディーナが咎めるも、アンナティーゼはおかまいなしだ。
「あらあら、いいわねえ。お祖母様にもちゅーしてくれると嬉しいわ」
「アンナはまだお祖父様の腕の中のがいいんだよなあ」
「あなた、ずるいですわ。一人でアンナを独り占めして」
カシルーダは夫の隣で唇を尖らせる。
ベルナルドはやれやれと内心ため息をついた。
二人とも孫が可愛くて仕方ないのだ。
「アンナ、おばーちゃまにもちゅーってするわ」
「あら、ありがとう」
国王に抱かれた上半身を、カシルーダのほうへ近づけてアンナティーゼは彼女の頬にも同じようにくちづけをする。
祖母と祖父は孫娘の仕草にご満悦のようだ。
「アンナったら、もう」
レカルディーナがため息をつく。
もうすぐ三歳にしてお転婆をいかんなく発揮しているアンナティーゼの最近のお気に入りはちゅーらしい。
「可愛いじゃありませんか。うふふ」
カシルーダはとろとろ笑顔だ。
「そうなんですけど。我が娘ながら恥じらいがないというか……なんていうか」
「このころの子供はなんでも真似したがるのよねえ」
思わせぶりなことをいってこちらを見つめてくるカシルーダには悪いが、アンナティーゼの口づけ魔は確実に、隙あらば彼女の頬に口づけを浴びせる国王夫妻とレカルディーナの両親の影響だとベルナルドは踏んでいる。
そういうベルナルドも子供がいようとおかまいなしにレカルディーナの頬に口づけをしているのだが、それには気づいていない。
「ああそれと。なんでも、東方の果ての小さな国ではキスの日なるものがあるようで。うっかりアンナが聞いてしまったものだから」
「キスの日?」
ベルナルドが聞き返すとレカルディーナは顎を引いた。
「ええ。このあいだみんなとそんな話になって。アンナがいることをすっかり忘れていたの」
みんなとは、おそらく宮殿に出入りをする貴族階級の夫人のことだろう。年の近い既婚の女性とレカルディーナは定期的にお茶を囲み情報交換をしている。同じ年頃の子供と交流を持つという側面もあるため、アンナティーゼも同席している。
「あとでいろいろと聞かれて、なんか、適当に答えた気が……」
すみません、とレカルディーナが肩を小さくした。
「おかーちゃまとおとーちゃまにもちゅーしてあげるわ」
とたた、とベルナルドのほうへ駆け寄ってきたアンナティーゼをベルナルドは抱き上げた。
子供たちが寝静まったころ。
レカルディーナもベルナルドと寝支度をしていた。
先に寝台に腰かけていたベルナルドの隣にレカルディーナは腰かけた。
眠りにつく前に、二人でたわいもない話をするのもレカルディーナの好きなもののうちの一つだ。
「そういえば」
ベルナルドはレカルディーナの髪の毛をくるくると指で遊びながら話しかけてきた。
レカルディーナは久しぶりに髪の毛を伸ばしてみようかな、なんて考えている。
というのも、アンナティーゼが「わたしも髪の毛切るー」なんて言い出したからだ。
短い髪の毛をしている自分が言うとまったく説得力がないけれど、娘の髪をいじりたいし、可愛いリボンをつけてみたい。短髪はもうすこし大きくなってからでもいいと思う。
ついでにこの間ベルナルドに「一度くらいは長い髪をしたおまえも見てみたい」と言われたからだ。
大好きな夫からそんな風に言われたら応えたくなる。
「なあに? ベルナルド」
レカルディーナは首をかしげた。
「おまえは、俺に口づけしてくれないのか?」
「!」
突然のことにレカルディーナは顔を赤くした。
基本、口づけはベルナルドから受ける一方だ。自分からなんて、閨の最中、彼に請われて数度……、いや、やめよう。恥ずかしい。
「えっと、どうしてまた。いきなり……」
「レカルディーナからされたのは数えるほどだとふと思い至ったからだ」
「そんなこと唐突に思わないでください」
レカルディーナは恥ずかしくて両手で顔を覆った。
結婚して三年以上経ったが、やっぱりいろいろと照れるのだ。自分から、となると余計に。
「レカルディーナ」
ベルナルドは照れるレカルディーナを自身の腕の中に閉じ込める。
暖かな温もりと、彼の熱を帯びた声にレカルディーナは彼の思いを感じ取る。
ああもう。いつまでたっても慣れてくれない。
「だ、駄目……?」
しないと。そんな意味を込めた目線で彼を見つめれば、やっぱりというか、彼は駄目だという視線を返してきた。
レカルディーナはほんの少し視線をさまよわせた。
けれど、愛する夫からの願いを無下にできるはずもなく。
レカルディーナはほんの少しだけ逡巡して、覚悟を決めて、彼の唇に自分のそれを重ねる。
自分からは、とてもじゃないけれどそれ以上のいろいろはできなくて。
それでも長い間唇を合わせていると、徐々にお互いの呼吸と体温が上がっていく。
いつの間にか主導権はベルナルドのほうに移っていた。
お互いの息遣いが荒くなっていくのが分かる。
レカルディーナはゆっくりと寝台に倒された。
「レカルディーナ。愛している」
唇から首筋、そして鎖骨へと彼の口づけが移っていく最中、彼の言葉をレカルディーナは霞がかった頭の片隅で聞いた。
ラブラブな二人を書いてみよう!を目指して頑張りました
そしてこれを書いているということは、婚約破棄……煮詰まってます




