1.奴隷に首輪をつけた日。(新婚生活7日目)
異世界転移してから「7日目」の昼下がり。
食事を終えた俺がのんびりとお茶を飲んでいると――
「あ~も~さっさと飲めよ、食器が片づけらんねーだろ!……ご主人様」
「ふむ、とても反抗的な態度だな。本来なら×××なお仕置きをして楽しむとこだが
……その言葉使いの悪さと、恥ずかしげな服従感のギャップ! そんな奴隷ちゃん
がすっごくかわいいので許す!」
「くっ、ううぅ、この変態ヤローめぇ……//」
メイド服を着た、元「盗賊」の美少女――つまり俺の奴隷が、頬を紅くしながら
ジト目で俺を睨んでくる。かわいい。
一緒にお茶を飲むかと聞くと「茶は苦いから飲めない」と言って、卓上のお盆に
盛ってあった果実(さくらんぼに似てる)を食べ始めた。小ぶりの赤い果実が、
つやつやの小さな唇に呑まれていく。かわいい。眺めているだけで幸せになる。
この奴隷は天使に違いない。
「……おい、あんまジロジロ見るなよ」
「かわいいから却下♪」
「~~~っ//」
◇ ◇ ◇
その後、メイド服姿の奴隷ちゃんが食器を洗っている後ろ姿をじっくりと眺め
ながら楽しむ。
うむ。絶対領域の黄金比率と言われる「スカート丈:太もも:ニーソックスの
膝上部分」の比率「4:1:2.5」を敢えて崩して、スカート丈を短くして
奴隷ちゃんのつやつやした太もものより上層部を見える様にしながらも、太もも
面積を広げすぎない様に黒タイツ製ニーソックスの面積を伸ばし且つアクセント
に「ガーターベルト」を追加装備させた比率「3:1:3」のメイド服コーディ
ネイト……我ながら完璧だぁぁ!!
――こほん。閑話休題。
「そう言えば、俺の日用品がいろいろと不足してるから街に買い物へ行きたい
な。案内してくれるか?」
「ん、街に行くのか? えっと、その……私と一緒に?」
食器洗いを終えた奴隷ちゃんが、かわいい頬をぽりぽり掻きながら聞いてきた。
かわいい。
「そうだよ。どうかしたの?」
「あ、いや、そうか……今から作って用意するから、ちょっと待ってくれよ?」
奴隷ちゃんはそう言うと、壁際に置いてある箪笥や棚で何やら物探しを始めた。
たまに「やっぱり布製より革製のが喜ぶよな…」とか呟く声が聞こえる。
「ねぇねぇ奴隷ちゃん……何を作ろうとしてるの?」
「何って……私が着ける『首輪と紐』に決まってるだろ?」
「ふぁ!?」
「何を驚いてんだよ……『主人』または『調教代行者』に拘束された状態でない
と『奴隷』が街中を歩けないのは一般常識だぞ?」
「いや、だって、そんな……(自分の嫁に首輪と紐を着けさせて街中を歩いた上
に公園や路地裏で「これは躾だぞグヒヒ」とか言って×××や×××を強要する
犬プレイができるだと~)じ、実にけしからん話だな!」
「……お前、本音を隠すつもりないだろ?」
奴隷ちゃんは呆れた様にジト目で俺を見つめると――鼻で軽く笑った。
「まっ、お前が私を「奴隷」にしてくれた事で、私が命拾いしたのは事実だから
な。感謝こそすれ、恨みやしねーよ。……で、だから、なんて言えばいいかな。
うん、その……痛くするなよ?」
普段とは異なり、もじもじと小さな声でお願い事をする奴隷ちゃんは……本当に可愛かった。
こんなかわいい娘に首輪を着けて、革紐で引っ張るなんて――俺には絶対できない。
「安心してよ、奴隷ちゃん……俺には異世界転移した時に女神様から貰った、
『特別経験点』があるからな!」
「ちいと? お前たまに変なこと言うよな?」
俺は急いでステータス画面を開くと、『特別経験点』を一般技能の「木工」と
「裁縫」に振り込んでスキルレベルを一気に上げる。
え、経験点の無駄使いだって? うるさい俺の奴隷ちゃんはプライスレスだぜ。
「……?」
俺がある物#を作るために材料を集めて作業を開始すると、奴隷ちゃんが傍らから
興味津々に見てくる。
――って、ああぁぁーっ奴隷ちゃんが前かがみになるもんだからメイド服の隙間から
胸チラしてんぞクソかわいい! 髪からいい匂いもする! 幸せすぎて作業に集中できない!
「あのさ、そんな近いと奴隷ちゃんのうなじをクンカクンカするよ?」
「このド変態めぇ…// わかったよ、集中できねーならあっちで待ってるよ!」
◇ ◇ ◇
「ふぅ、これで完成だな!」
「お、やっと出来たのか~ご主人様?」
「うむ。装飾面と永続的に使う事にこだわったから、時間かけて丁寧に作ったぞ!」
「どんな拘束具だよ!? 逆に不安になってきたぜ……」
「まあまあ、そう言わずに左手を出しなさい」
「んん? あ~なるほど、手錠型の拘束具か。それなら確かに首輪より身体へ
の負担が少なそう――」
次の瞬間、俺の奴隷は言葉を詰まらせた。
そして――
左手の薬指に嵌められた、
木細工の「指輪」を不思議そうに眺めた。
「な、何だよこれ……」
「俺の故郷では、永遠の愛を誓った夫婦は、お揃いの指輪を身につける伝統が
あるんだ」
「んな…っ//」
俺はそう言うと、自分の薬指につけたお揃いの指輪を奴隷ちゃんに見せた。
奴隷ちゃんは耳まで真っ赤にしながら、もじもじと足元に視線を落とす。
「いや…だって…拘束具だろ…?」
「そうだね。だからさ、街に行く時はふたりの指輪をこれで結ぼうかなって」
そう言って俺が取り出したのは――糸織りで作った1本の細い「紐」だった。
「それって……ただの赤い糸じゃねーかよ」
「これも俺の故郷の言い伝えでさ……いつか愛で結ばれる男と女には『見えない
運命の赤い糸』でお互いが結ばれてるんだって」
俺は喋りながら奴隷ちゃんの左手を優しく取ると、木の指輪に「赤い糸」を結びつける。
そして「赤い糸」のもう片端は自分の指輪に結びつけた。
ふたりの指輪の間で「赤い糸」がたらんと垂れる。
奴隷ちゃんは右手をぎゅっと握りしめたまま、じっと静かにその様子を見ていた。
「な、何だよ、糸製の紐とか……奴隷の拘束具と言えば、普通は鉄製の鎖や
革製の紐を使うんだぞ? だって、これじゃ奴隷が…逃げれちゃうぞ…?//」
「む。それは奴隷の調教が必要だな」
俺は奴隷を優しく抱きしめると、
そのかわいい耳に「好きだよ。ずっと一緒にいようね」と囁いた。
俺の奴隷は、しばらく俺の胸元に顔をうずめると――
小さな声で「しかたねぇな…」と呟くのが聞こえた。
ああ、この娘は本当にかわいい。ずっと俺の奴隷でいてほしい。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、せっかく拘束具も作ったからふたりで街に行こうか?」
数分間、優しく抱き合った事で心満たされた俺は、抱きしめていた
奴隷ちゃんに優しくそう言った。
そして奴隷ちゃんと手を繋いで玄関に向かおうとした、その時だった――
「……や」
奴隷ちゃんと手を繋いでいた腕が、くんっと小さく引っ張られる。
少し驚いて振り向くと――そこには瞳を潤ませた奴隷ちゃんが、
頬を赤くしながら上目遣いで俺を見ていた。
俺の腕に抱きつく様にして、奴隷ちゃんがもう1回だけ小さく引っ張る。
腕を引っ張る先には――俺たちの寝床がある。
「……しよ?//」
結局その日、俺たちは街へ買い物に行く事はできなかった――
◇ ◇ ◇
「もう夕暮れかぁ……いったい何時間Loveってたんだろうな?」
俺が「そろそろ買い物に行こうか」と言って起き上がろうとする度に、
奴隷ちゃんが吐息まじりに「やだ…//」「んぅ…//」「もっと…//」と言って
俺をベッドに引き戻したのだ。
あ~もう、おねだり状態の奴隷ちゃんが可愛いすぎて「いいこいいこ」して
あげているうちに……すっかり日が暮れてしまった。
俺は身体を起こして寝床に腰掛けると――
俺の隣りにいる、くったりした奴隷ちゃんのかわいい寝顔を見る。
ああ、幸せだなと実感する。
今夜の食事当番は奴隷ちゃんだけど……このまま寝かせてあげよう。
かわいいから。
俺は静かに寝床を離れると、台所に向かって夕食を作り始めた。
数分後――
異世界の食材で「親子丼風の何か」を作ってみた。
うむ。これは美味しそうだ。俺は料理の出来にご満悦になると食卓に並べた。
さて、そろそろ奴隷ちゃんを起こすか。
そう思って寝床を見てみると――俺の奴隷がニンマリと笑っていた。
「いいにおいがする♪」
「こいつ寝たふりしてたなぁ?」
「にししっ。ありがとーね、ご主人様♪」
光を透す白地のシーツだけを身にまとった奴隷ちゃんが、
寝床に頬杖をつきながら、泳ぐように素足をパタパタさせている。
ものすっごく可愛い。惚れ直した。
「んっ♪」
奴隷ちゃんは上体を起こすと寝床にペタンと座り、両腕を俺の方に伸ばした。
抱き起こして、という意味かな?
やれやれ、どうやら「おねだり状態」が続いているらしい……。
いや、喜んで抱き上げにいきますけどね?
俺の腕に絡みつく奴隷ちゃんを食卓まで連れていき、椅子に座らせてあげる。
奴隷ちゃんが「おー美味しそうじゃん♪」と言って微笑む姿にホッコリしながら、
俺は奴隷ちゃんとの夕食を楽しんだ。
しかし、
これだと、どっちが奴隷か分からないよな……?
まあ、そんな事は俺と奴隷ちゃんにはあまり関係ないか。
俺と奴隷ちゃんの物語は、こうやって続いてゆくのだろう――
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<次回は、奴隷ちゃんと露天風呂に行くお話です>
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