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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第三章
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各自の行動  肆

 しばらく待っていると、城の壁の向こう側から、微かに焼玉エンジンの発する懐かしいポンポン音が聞こえてきた。その焼玉エンジンとは古い漁船に多く使われてきた物で、私達を乗せてきた漁船もその焼玉エンジンの船だった。


「あっ、漁船の音が聞こえますよ……」


 私は声を上げた。


「そう言えば聞こえますね」


 源次郎は顔を上げて答えた。少し寝ていたようだ。


「それじゃあ、船着場まで行きましょう。それで誰が行きましょうか?」


 源次郎が様子を窺いながら聞いてくる。


 中岡編集が顔を上げ口を開いた。


「そうですね、ある程度の状況を説明しなければいけませんし、僕達を迎えにきた漁船ですから、さすがに僕達の事情を説明しないといけないでしょうし……」


 そう云いながら中岡編集は料理番の顔をちらりと確認する。


「只、僕と連れは疑われてもいますので、僕達だけで赴くのはどうかと……」


「それでしたら、皆で向いましょうか?」


 源次郎が皆を見ながら問い掛ける。


「……その漁船に乗って本土に渡れるのですか?」


 妻の初が中岡編集を見ながら質問してきた。


「いや、この場合だと、漁船の船長に事情を説明した上で、船舶無線か、もしそれが無ければまた本土に移動してもらい、警察に連絡を入れてもらう事になるでしょう。ですが、すぐに無線で連絡がとれたとしても、その場で待機しているように。という指示が入るのではないかと……」


「ならば、私は此処に残っています……」


 妻の初は静かに呟いた。


「それなら私もここに残っています」


 娘の飛鳥も頷きながらそう答える。


「あなたはどうしますか?」


 源次郎が料理番に聞いた。


「源次郎さん、私は此処に残っています。お客人二人とその漁船の船長が仲間だという可能性が無いわけではありませんからね」


 料理番は私達にまだ猜疑的な視線を向けながら答えた。


 結局、中岡編集と私、源次郎と女中頭の幾島が、船着場に赴く事になった。

 そして源次郎と幾島を先頭に、本丸を出て、二の丸、三の丸へと下っていく。

 大手門までくると、源次郎が全員が通過した後、外からしっかり鍵を掛けていた。私達と漁船の船長が仲間だと少しだけ疑っているのかもしれない。


 しかしながら、振り返り閉じられた門の外側から天守方向を見上げると、簡単には侵入出来ない強固さを感じずにはいられなかった。


 我々が船着場に到着すると、丁度船は大きく回りこみ接岸体勢に入りながら船を寄せてきていた。改めて見るが、どうみても大人数が乗れる構造ではなく、また大人数が乗っている気配もなく、船の中央部に設けられた操舵室には、私達を此処まで連れてきてくれた気の良さそうな親父さんの姿が見える。


 漁船はゆっくりと接岸した。


 源次郎が船側から投げられたロープを、まるで小型の石灯籠のような係船柱に巻いていく。渡し板が掛けられ、船長が船から降りてきた。


「ああ、お客さん、昨日は此処に泊まるって、そこの人に聞いたから帰ったけっど、迎えは今日でよかったのかいね?」


 船長は皺っぽい顔に皺を寄せて笑顔を作った。


「ああ、ええ、本日で大丈夫です。だけど大変な問題が起こってしまって、警察に連絡を取らなければならなくなってしまったんですよ」


 中岡編集が返事をする。


「警察? 随分と大仰な話じゃねえ」


「実は、このお城で殺人事件が起こってしまったんです。この城の主である村上氏が亡くなってしまったんですよ」


「ほえっ、さ、殺人!」


 船長は目を見張って問い返してきた。


「なので、もし船舶無線が使えるようなら、漁協に連絡して頂いて、その上で警察にその事を伝えて欲しいのです」


「おうさ、なら無線で、すぐに連絡を取ってみるけえ」


 幸い無線が使えるようだ。船長さんにまた海を渡って本州の警察に連絡をしてもらう事がなく済みそうだった。


 船長はすぐに船に戻り、操舵室に入り込む。そして無線機に口を当て何かを話し始めた。


 ある程度話をした後、手に集音装置を持ちながらジッと待っている。五分程で、連絡が戻ってきたのか、再び話をし始める。そして、おおよそ十五分程してから、再び船長が船から降りてきた。


「えっとだな、一時間前後で警察の船が、此処までやってくるらしいんだが、それまでは、俺も含め、この場で待機して待っているようにっつう事だ……」


 船長は困惑した様子で説明してくる。やはり予定の流れのようだった。


「なんか解らんが、ややこしい事になってきちまったなあ……」


 船長は頬を掻きながら呟いた。


 船長を含め、私達はそのまま桟橋付近に留まり、警察が来るのを待った。

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