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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第三章
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各自の行動  参

「あっ、そうだわ、そう云えば夕食の席で、そっちの女性の方がご主人様に笑われていたわよ、龍馬に似ているから龍馬子。龍馬に似ているから龍馬子だとか云われて……」


 私達の布団を敷きにきたあの美津が、思い出したかのように騒ぎ立て始めた。


 この女中、二回も龍馬子って云わなくも良いじゃないか……。


 私は連呼された事に憮然とする。


「ほう、それは興味深い出来事だな。その龍馬に似ているから龍馬子というのは少々馬鹿にされている部分を含んでいる気がする。確かに似ているが、今、その話をした時、そちらの女性が怫然とした表情を浮かべている事からも、本人が良く思っていない事が察しられる」


 おお、良く解っているじゃないかこの男。そうだ嫌なんだよ。私は龍馬子と呼ばれるのは嫌なんだよ。ん? 確かに似ているだと!


 私は聞き捨てならない言葉を聞き顔を顰める。


「……だからこそ、馬鹿にされた事に怒り、殺意を覚えたと」


 な、何っ!


 突然矛先が自分に向かい。私は驚かずにはいられない。


「男が犯人かと睨んでいたが、犯人が女だった可能性もあったか……」


 料理番が呟く。


「い、いえ、ちょっと待ってください。違います。私は何もしていません」


 私は激しく顔を横に振る。


「皆そう云うよ」


 その男は解ったような口をきく。


「信じてください。私は本当に何もしていませんから……」


「なら、昨晩あんたがどう過ごしていたか聞かせて貰おうか?」


「えっ? 私ですか? え、ええ、良いですよ。説明しますよ」


 私は頷き説明をし始める。


「私も中岡同様に美津さんにお部屋へご案内して頂いて、それから三十分程してから近くにあるお風呂に入りに行きました。お風呂には三十分程入っていたと思います。それから部屋に戻り、敷いてもらった布団で休ませて頂きました。それから朝まではぐっすりです……」


「ん? じゃあ、あんんたとそっちの男性は一緒の部屋で寝たのか?」


 その事を知らなかったのか料理番は驚き顔で聞き返してくる。


「ええ、一緒です」


 私は強く肯定して頷いた。


 中岡編集と一緒に寝たのは嫌だったが、今になって思えば一緒で良かった。行動の相互確認が出来ている事になるからだ。


「そっちの男性はちゃんと部屋にいたのか?」


「ええ、居りましたとも」


 私は再度頷く。


 中岡編集もそうだと云わんばかりに何度も頷く。


「ふん、とはいえ仲間同士だ。庇い合っているとも考えられるがな……」


 料理番はまだ猜疑的な視線を送ってくる。


「おい、じゃあ、そっちのあんた」


 料理番は再び中岡編集を見た。


「あんたにも聞くが、この女性と一緒に寝てたのは間違いないんだな?」


「あっ、いや、それが……」


 えっ? いや? なぜ否定を……。


「いや、僕、布団に入ったらすぐ眠たくなってきちゃって、坂本の奴が風呂に入りに行ったのや、戻ってきたのを良く覚えていないんですよ……はははは」


 中岡編集は頭を掻きながら答えた。


 お、おい! あたしを庇わねえのかよ! こっちはあんたを庇ってやったのに、そっちは庇わないつもりかよ! 部下だぞ。あたしゃああんたの部下なんだぞ。


 私は唖然としながら心の中で叫んだ。


「ほほう。一緒に寝ていたが、行動確認は出来ていないと……」


 わが意を得たりとばかりに料理番が再び猜疑的な視線を送ってきた。


「ち、ち、ち、ちょっと待ってくださいよ、だったら私も風呂に入っていた時とか寝てた時は、この人の行動確認は出来ていませんよ!」


 私はぶちまけた。


「き、君、自分が疑われたからって、急に証言を変えるのはどうかと思うよ」


 中岡編集が焦り気味に言及する。


「証言を変えてなんていませんよ、改めて考えたらずっとは確認し続けられていなかった事に気が付いたんです」


 私は切れ気味に云った。


「ふん、じゃあ、二人とも相互の行動確認は出来ていないという事になりますね」


 料理番は嬉しそうに言及した。


「き、君、ひどいぞ、僕が正直に証言した事を根に持っなんて!」


「根になんて持っていません。私も正直に話したまでです」


 私は苛立ち気味に云った。


 中岡編集がじっと私を見た。


「……恐ろしくて云い出すのは躊躇う所だが…… 本当は君、やっちまったんじゃないか?」


 な、何だと! 


「夕食の時に、もう我慢できないとか云っていたじゃないか、松の廊下じゃないが、龍馬子、龍馬子と馬鹿にされて、いや馬鹿にされ続けて、そして根に持って、怒りを溜めに溜めて、とうとう堪えきれずに殿中で……」


 な、何て事を云うんだ! あたしに恨みでもあるのか? あんたの部下だぞ、犯人になったら困るだろ! それに龍馬子と連呼しやがって!


「素直に告白した方が良いかも知れないぞ……」


 ぶちっ!


「そ、そもそも、お前が龍馬子って云わなければ良かったじゃねえか! それを云わなけりゃあの村上さんもあたしが龍馬子だと知らなかっただろ! それに、あたしゃあ龍馬子、龍馬子と馬鹿にされても、人を殺したりはせんわ!」


 私は怒りと共に吐き捨てた。


「……」


 中岡編集は苦虫を噛み潰したような表情で口を噤む。


「ま、まあ、細かい事は警察が来た時にちゃんと確認してもらいましょうよ……」


 余りに見苦しい内輪揉めに居た堪れない気持ちになったのか、源次郎が宥める様に言及してきた。


 そんな源次郎を横目に料理番が、ふーっと大きく息を吐いてから口を開いた。


「まあ一応ですが、俺も昨夜から今朝まで何をしていたかお話しますね。俺だけ云わないのは不公平にあたりますからね。それで俺の方は二の丸にある調理場で、ご主人様、奥様、呉羽様、飛鳥様、そしてお客様である貴方の夕食の準備をしていました。七時頃料理の目処がついて女中達が私のいる調理場から料理を運び出していきました。その後、料理が下げられ、今度は使用人達の賄い料理を準備し始めました。使用人達が食事をしている時に少し賄い料理を食べました。そして明日の朝食の仕込みをしてから、二の丸にある使用人用の寝所で寝ました。俺は男なので一人部屋です。朝まで寝ていましたが、それを証明してくれる人間はいません。そんな所です」


「ま、まあ、警察が来れば、全てひっくるめて細かく調べてくれるでしょう。とりあえず十時まで待ちましょうよ」


 結局、私の憤慨を機に場の空気は固まってしまい、それから先は皆無口になってしまった。


 腕を組んで考え込んでいる者、下に俯き寝ているのかどうか解らない者、只々静かに他の人間を見張りながら時間が過ぎて行った……。

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