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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第三章
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各自の行動  壱

 そうして、源次郎を先頭に、妻の初、娘の飛鳥、妹の呉羽、女中達、料理番、私と中岡編集は階段を下り、一層下の、天守閣三層目に移動した。周囲を武者走りで囲われた大広間に輪になって座り込む。すぐに女中陣がその間の棚から座布団を持ってきたので、それを尻に轢いた。


 しかし座ったものの、皆一様に黙っている何を口にして良いのか解らないといった様子だ。


「……しかし、どうしてこんな事に……」


 しばらくすると妻の初は囁くように声を上げた。


「……なにか心当たりはないのでしょうか?」


 中岡編集は腕を組んだ姿勢で質問する。


 源次郎や妻の初に頼られて徐々に心得違いをし始めているのか、なにやら少々探偵を気取っているようだった。後々困らないと良いが……。


「心当たりと申しますと?」


「どうして、村上氏が殺されたのかという部分なのですが……」


 中岡編集は躊躇いがちに訊いた。


「さあ、どうしてなのでしょうか? 私にも皆目解りません……」


「……他の方々はどうですか?」


 中岡編集は視線を上げ、皆を見回しながら質問する。


「……解りません……」


 妹の呉羽が答え、その他の者は解らないという意思表示なのか顔を横に振っていた。


「ち、ちょっと、改めてでお伺いして申し訳ないですが、外部からこの島に殺人犯が乗り込んできているかもしれないというのは本当なのですか?」


 三人の女中の中では一番若そうな、小太りの女性が手を挙げ質問してきた。一番若そうといっても年の頃は四十前半だと思われる。


「えーと、申し訳ありません、なんとお呼びしたらよいか解らないので、一応お名前を教えて頂いても宜しいでしょうか?」


 中岡編集は探偵気取りの様相のまま訊いた。


「えっ、あっ、はい、私は吉川福子と申しますが……」


 その女中は戸惑いながら答えた。


「えーとですね、吉川さん…… 本当かどうかの確証はありませんが、この島のある瀬戸内海は他に島が沢山ありますし、四国や本州からも船で簡単に来ることが出来ます。絶海の孤島ではありませんから、殺人犯が乗り込んできている可能性はあると思いますよ」


 素人探偵化した中岡編集はそう答える。


 そして眉間に親指と人差し指を押し当て、少し格好をつけて考えこんだ様子を見せながら源次郎に質問した。


「あ、あの、源次郎さん、船着場辺りに、何か不審な船が接岸した形跡とかはなかったですかねえ?」


「それはいつごろの話ですか?」


「そうですね、昨日の朝から、今朝辺りに掛けてなのですが?」


 源次郎は首を横に振りながら答えた。


「その間はあなた方を乗せてきた漁船以外には特に船が接岸した様子はありませんでしたが……」


「そうですか……」


「……じゃあ、ここにいる中にご主人様を殺害した人がいる可能性があるって事ですか?」


 吉川より少し年齢が上と思える背の高いもう一人の女中が声を震わせながら聞いてきた。昨夜、私をいやらしい視線で見たあの女中だ。


「ああ、先日はお布団を敷いて頂きありがとうございました。えーと、確かまだ名前を聞いていませんでしたね、失礼ですがお名前をお教え頂いても?」


 中岡編集は昨日のお礼をしながら質問する。


「私は女中の徳井美津です」


「徳井美津さんですね」


 中岡編集は頷いた。


「徳井さん。云いにくいのですが、正直なところ、僕もその可能性の方が高いのではないかと思います……」


 女中の徳井は、瞬間、微かに猜疑的な目で周囲を見る。


「ならば、その、ご主人様が亡くなられた時間に、それぞれが何をしていたかをお互いに話した方が良いのではないですか?」


 源次郎が厳しい顔をしながら呟いた。


「行動確認ですか……。時間も真夜中ですし、誰かと一緒に過ごしたという人の方が少ないように思えますから、あまり参考にならないかもしれませんが、一応しておいた方が良いかも知れませんね……」


 素人探偵の中岡編集は顎に手を添えながら呟く。相変わらず格好を付けている。


「それなら、私から説明するわよ」


 妹の呉羽が小さく手を上げて話し始めた。


「私は、昨夜、お兄様と黒田さんのお話を聞きながら食事を取ったわ、その後は、自分の部屋で寝たわよ、朝六時頃顔を洗っていたら、女中さん達が騒がしそうにしていたから、話を聞いて、一緒にお兄様の部屋に行ったのよ、そうしたら……」


妹の呉羽が感極まった様子で言葉に詰まると、娘の飛鳥も消えそうな声で話し始めた。


「私も、叔母さまと同じで夕食後にお部屋に戻って自室でそのまま寝ました。朝、源次郎さんがお越しに来られるまでずっと寝ていました……」


「それなら私も同じような感じですね……」


 妻の初も口を開く。


「私も夕食後部屋に戻り、部屋で少しのんびり過ごしてから床に入りました。ただその晩は何故かあまり寝付けなくて、外が明るくなってきてからようやく眠りにつけた感じでした。それで寝入ってすぐ源次郎さんに起こされたといった所です……」


 その初の説明を聞いた中岡編集は、少し気になったのか質問する。


「あまり寝付けなかったのですか、とすると、隣の部屋などから誰かが出入りしたとするならば気が付かれますか?」


 初は少し考えてから口を開いた。


「そうですね、多分気が付くと思います。部屋を出る音は解らないかもしれませんが、廊下や階段は結構軋み音がしますから、歩いたり階段を降りたりすれば音で気が付くと思いますね」


 そういえば確かに、すぐ下の部屋で寝ていた私にも朝方に階段を上り下りする音や廊下の軋む音が耳に入ってきていた。


「昨夜はそのような気配はありましたか?」


「いえ、特に気が付きませんでしたけど……」


「そうですか……」


 いずれにしても夜中の出来事だ。通常ならそんな時間に部屋から出てウロウロしているというのは考えにくい。

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