久遠寺へ 参
そうして、三人で西側の登山道を下山しながら進んでいくと、感井坊という宿坊があった。一応この付近が分岐点らしく、追分と書いてあり追分帝釈天が祭られていた。しかし宿坊自体は比較的新しく、とても千六百年も前からあるとは到底思えない代物だった。
私達は帝釈天を拝んだ後、先を急いだ。
「はあはあはあはあ……」
再び登りの坂道になった。
きつい。私は肩で激しく呼吸しながら登っていく。
中岡編集はというと当然の如く、激しく呼吸を乱し、這い蹲るように登っていた。正直見ちゃいられない。
「……龍馬よ、す、すまんが、僕の荷物を持ってくれ」
とうとう坂の途中で動かなくなり、そして懇願する眼付きで訴えてきた。
「だ、か、ら、龍馬じゃないって云っているでしょう!」
私は龍馬と呼ばれ、すぐさま訂正する。
「……」
いつもなら重ねて色々言い訳がましい事を云って来るのだが、そんな気力も無いらしい。その上で手招きで私を呼んでくる。
「なんですか?」
私は仕方が無く近寄る。
「本当なら君に負ぶって連れて行ってもらいたい位なのだが、松子さんにそんな無様な姿は見せられない。だから…… なんとか荷物だけでも頼む……」
中岡編集は松子に聞かれないように囁いた。すでに十分無様な体は晒している。
「お、負ぶるですって、女の私が男の中岡さんを負ぶるなんでとんでもない。というか嫌ですよ」
私は小さな声で抗議する。
「君は大きく逞しいから、きっと出来る。だが恥ずかしいから、そこまで云うまい。何とか荷物だけ頼まれてくれないか」
そして、私の目をじっと見詰めてくる。疲労の為なのか懇願の為なのか眼が潤んでいる。
私の心に少しだけ哀れみの心が浮かんできた。
「…もう、仕方がないですね、持ちますよ。それと何度も云っていますが、龍馬だとか、龍馬子とは呼ばないで下さいね。その名前で頼まれたら次は断りますからね。あと私は大きくも逞しくもありませんから」
「……」
私は中岡編集のリュックを肩に掛け歩き出した。中岡編集は力を振り絞り、なんとか立ち上がりゆっくり傾斜を登り始める。
「中岡さん相当辛そうですね……」
松子が心配そうに訊いてきた。
「食べてばかりで運動不足ですからね、自業自得ですよ」
「私はまだ左程疲れていませんから、そのリュック持ちましょうか?」
私の肩に掛かった手荷物を見ながら松子が訊いてきた。
「いえ、私も大丈夫ですから持っていきます」
「なら良いのですが……」
松子は相変わらず涼しい顔をしていた。
体も細く、肌も真っ白で、全く体力も全く無さそうな女性なのに、どうして辛くないのだろう……。
実は松子は七面天女で、苦しんでいる我々を嘲笑っているのではないだろうか……。 特に鈍重な中岡編集を……。私は酸欠の為なのか変な事まで頭に思い浮かべてしまった。
途中、白糸の滝という立派な滝を横目に、神力坊、肝心坊、中適坊、晴雲坊と宿坊を通過して、ようやく社殿の入口となる和光門というしめ縄が渡された古そうな門に辿り着いた。
「お、おおっ、やっと、つ、着いた。着いたのか……」
中岡編集は感嘆の声を上げた。
門の奥には七面山本社が広がっていた。鐘楼、随身門、敬慎院本殿、池大神宮などが立ち並んでいる。
私達は一応、門になにか書かれていないか注意深く観察してからおずおずと門を潜り抜ける。しかしながら中岡編集は到着と同時に門脇にへなへなとへたり込んだ。やはり駄目駄目である。
そんな中岡編集を気遣い、私と松子は少し呼吸が整うのを待った。
大凡十五分程休憩すると、中岡編集は何とか元気を取り戻してくる。そして、取り合えず皆で一緒に周辺を調べてみる事になった。
「……さ、さてと、僕の考えでは、建物は作り直しを経ている筈なので、情報として残っている物は鉄だったり岩だったり石だったり、また建物内に大切に保管されている文書などであると想像する。まず可能性か高いのはあれだろう」
中岡編集の指差す先には鐘があった。
「徳川家康が国家安康、君臣豊楽、子孫殷昌と書いてある事で豊臣秀頼に言い掛かりをつけた方広寺の鐘のように、鐘には側面に何かしら文字が彫ってある場合がある」
「なるほど……」
「調べてみようじゃないか」
「ええ」
私達は確認する為に鐘に近づき、側面を凝視してみた。
「中岡さん、何も書いていませんよ」
残念ながら、鐘には文字のような物は刻印されていない。
「うむう、そうか…… まあ、まだまだ序の口だ。次へ行こうではないか」
かなり元気を取り戻したらしく、そこからは中岡編集が先導し始める。
続いて入った本社には本尊として七面大明神という神様が祭られていた。そして傍に山や寺の縁起のようなものが記されていた。
「ほほう、なるほど、七面天女は七面大明神とも云われ、日蓮宗では法華経を守護する女神だとされているのか。法華経が成立したのが千二百年代の事だから、だとすると比較的新しい神様だと云えるな」
「新しい神様ですか?」
意味が解らず私は質問する。
「ああ、日本に伝わる神様は大抵仏教系か神道系の神様になる。仏教系ならば印度の神や大陸の神になり、神道の神様ならば天照大御神のように古事記、日本書記に出てくる神様になるのだ」
「じゃあ、中世誕生の神様になるのですか?」
「まあ法華経は仏教であるから仏教に属さない神様だと具合が悪いのか、七面大明神は吉祥天とも弁才天であるとも書かれてあるがね」
改めてだが、中岡編集は仏教学部というのを出ており、仏教や神道などにかなり詳しい。勿論歴史に関しても歴女である私と同等若しくはそれ以上の知識を持っているのだ。どちらかというと私の方が俄か仕込みだったりする。
本社の右横には池大明神宮というのがあり中に入ってみる。そこには池大神と云う物が祭られていた。そして、傍にはまた説明書きがある。
「ふ~ん、説明によると、池大神というのは修験道の神様で日蓮宗が起こる遥か以前からこの地で祭られていたらしい。となると池大神が先で、後から七面大明神を祭る本社が出来たという事になるな」
「修験道ですか?」
正直云って私は修験道の事を殆ど知らない。
「ああ、修験道の神様らしい。僕は一応修験道の知識も持っているから概要を教えておこう。まず修験道というのは実は随分不思議な位置づけの宗教になるのだ。そもそもは日本古来の山を神として信仰する山岳信仰から端を発している物なのだが、自然崇拝の古神道と密教、仏教などが融合した日本独特形式を持つ宗教として確立していったものだった」
「随分難しそうですね」
「修験者が深山幽谷に分け入り、厳しい修行を経て衆生の救済を行うべき験力を得るというのが修験の道なのだ。修行場としては熊野三山や出羽三山などが有名になる」
「あれ、熊野三山や出羽三山って仏教の施設ではなかったでしたっけ?」
「その通りだ。自然崇拝や古神道や仏教、密教が融合した物と云っても修験道は仏教色が強い。密教も秘密仏教の略であるから仏教だしね。修験道では祝詞などは唱えられず。経典なども真言を唱える物ばかりなんだよ」
「そうなのですか……」
中岡編集は先程の失態を取り繕うが如く雄弁に語った。横目でちらちら松子の様子を確認している。その松子は黙ってその説明に耳を傾けていた。
「ここにある池大神は役行者の姿で祀られているようだが、修験道の創始者はその役行者、別名だと役小角とも云われている」
「役行者ですか…… 名前だけは一応聞いたことがありますね……」
「ああ、奈良時代の人物だと云われている。そして、この役小角という人物は伝説的な人物なので、実在したかは定かではないとも噂されている。そもそもこの役小角は十七歳頃に奈良にある元興寺で修行を行い孔雀明王法の呪法を学んだとされ、その後山岳修行を重ねていったらしい。恐らくその山岳修行の際に修験道の基礎となる物が確立したのかもしれない。それで二十歳の頃、大化の改新で有名な中臣鎌足の病気を治したとも伝えられており、その頃から名前が世に広まりだしたものと思われる」
「中臣鎌足って、あの中大江皇子と一緒に有名な人ですよね、そんな人の病気を治したのですか」
「本当かどうかは定かではないがね。まあ、この役小角はまことしやかに語られる伝説の方が有名で、鬼人を使役できる程の法力を持っていたと云われていた。葛飾北斎の絵でも左右に前鬼と後鬼を従えた図像が描かれている。そんな伝説もあってよく伝奇小説の題材に選ばれる事も多い。南総里見八犬伝では伏姫に仁義礼智と書かれた数珠を渡す役として登場したりもするんだ」
「なんだか妖怪じみていますね」
「いずれにしても創始者である役小角が仏教者であったからこそ、修験道は基本的には仏教であり、その上で山若しくは自然崇拝を融合していったものだと考えるべきだと思われる」
「なるほどです」
動きは鈍いくせに知識は中々の物だ。さすが出版社の編集をしているだけの事はある。
そんな説明を聞きながら、池大明神宮を抜けると、そこには直径四十メートル程の大きな池が広がっていた。
「おおっ、こんな山の上なのに、随分大きな池があるのだな」
中岡編集は思わず声を上げる。
「そ、そうか、改めて考えると、池大明神宮が有る理由はこの池があるからに他ならない訳か……」
「この池が池大明神だという訳ですか」
「そうだ。修験道では自然崇拝において、山、岩、池など、自然物そのものが崇拝の対象になる。つまりこの池が池大明神なのだ」
みると祠があり、そこに水晶の玉が祀られていた。
「……確か云い伝えでは、日朗上人が池のほとりに立ったところ、七面天女が竜の姿で現れたと……」
横で静かに話を聞いていた松子がぼそっと呟いた。
「ほう、そんな伝承が……」
その話を聞き、私はこの池こそが龍口、竜口なのではないかと想像せずにはいられなかった。
「面白いですね、池の周りを回ってみましょう」
中岡編集は嬉々として云った。
そうして、我々は連れ立ってぐるりと池の周りを回ってみる。
しかし特別入り口のような場所は見当たらない。池の水を掻い出すわけにもいかないので底を探る事も出来ない。
「近く二ノ池という池もありますが……」
そう松子が云うのでそちらも見に行ってみる。
二ノ池は随分小さく、直径六メートル程しかなく底も透けて見える程浅かった。すぐに水を搔い出せそうではあるが、見るからに入り口など無さそうだった。
「どうでしょうか中岡さん?」
松子が訊く。
「あの一ノ池は怪しそうですが、まだ何とも云えませんね…… 松子さん、他に怪しそうな所はありませんかね?」
「他には大きな石がありますけど……」
「大きな石? なんですかそれは?」
「七面天女が現れるという巨石です。石の周りを唱題しながら七度回るとご利益があるという物です。私は以前その石が天岩戸ではないかと調査しましたが、残念ながら入口らしき場所は見つけられませんでしたが……」
「ほほう、それはどこにあるのですか?」
「奥の院の傍にありますよ、ご覧になられますか?」
「ええ、是非見たいですね」
中岡編集は頷いた。
松子に促され、私達はその石まで進んでいく。すると説明通り、まるで一軒屋ぐらいある大きな石が地面から突き出ていた。それには荒々しくしめ縄が巻かれている。
「た、確かに怪しいですな……」
中岡編集は巨石を細かく調べていった。私も同様に石を凝視する。
何か文字が刻まれていないか、入口のような場所があるのか、動かすことが出来るのか等々を見る為である。
しかし、石は全然動かせそうもなく、動かした気配もなく、文字もなく、入口らしき場所もなかった。
「うーん…… 怪しいには怪しいが入口のような場所は見付から無いな……」
中岡編集は残念そうに呟いた。
私達はそれから手分けして七面山本社周辺のあっちこっちを調べまわってみた。そして大凡一時間後、再び一ノ池の畔で集合した。
「一応、調べて出てきた逸話、伝承によると、七面山には七つの池があると云われているらしい。しかし七つ目の池は見ることが出来ないと、見ると目が潰れるとも……」
調査して出てきた伝説のような話を中岡編集が口にする。
「七つの池ですか…… 面白そうな話ですね、でも、どうして見ることが出来ないのですか?」
私は内容が理解できず質問する。
「それは神が棲む神域の池であるかららしい。付随して樵が迷い込んだという話なども残っていて、池から竜が飛び出すのを見て驚き、斧を池の畔に忘れてきてしまったと伝わっているようだ」
「神が棲む池で、竜がいるという話もあるのですか……」
私は関係がありそうな言葉を聞き反芻する。
「また、それ以外にも伝承があったぞ」
中岡編集が手帳のページを捲る。
「どんな話ですか?」
「それも少々紹介してみると。遠い昔に京の都に立派な公卿の男と奥方がいたという。しかし何不自由の無い暮らしだったが子宝に恵まれなかった。そこで神様に祈願した。特に厳島神社に何度もお願いした所、美しい娘を授かったという。ようやく授かった娘は大切に育てられていった……」
「京都の話なのですか?」
場所的にも内容的にも随分かけ離れた話のように思えて、私は首を少し傾げながら訊いた。
「まあ、聞きたまえ。しかし年頃になった折、病気になり顔に醜い痘痕が出来てしまった。再び厳島神社に祈願したところ、甲斐の国の波木井郷の水上に七つの池の霊山があり、その水で清めれば平癒せんとお告げを受ける。そうして娘は旅立ち痘痕を治したという。この話に出てくる七つの池の霊山は七面山を指すのだと七面山では紹介されている」
「七つの池の霊山……」
「とにかく伝説では池は七つあるらしい。そして、日蓮上人の高弟である日朗上人の逸話によれば一ノ池にも竜が現れ、伝承の話によると七ノ池にも竜が棲むという……」
なにやら怪しい気配がある。
「……中岡さん、どうでしょうか何か目星でも付きましたでしょうか?」
松子が顎に手を添え考え込んでいる中岡編集に質問してきた。
「そうですね、伝承に残っている七つの池というのが矢張り怪しいと思いますね。特に見ることが出来ないという七ノ池が…… 松子さん達は池の方は調べられた事はあるのですか?」
「ええ、実は私共も池が怪しいと思い調べた事がございます」
「へっ、そ、そうなんですか、もう調べられていたと……」
中岡編集は自分が最初に池に目を付けたと思っていたようで、少々残念そうな表情を浮かべる。
「ええ、三ノ池は七面山に属する希望峰という峰の手前に地名が残っているのですが水は枯れてしまって居りまして入口のような部分はありませんでした。四ノ池という地名は八紘峰という峰の近くにあるのですが、こちらは池の痕跡すら発見出来ませんでした。五ノ池、六ノ池は地名すらもう定かではありません。七ノ池は果たして本当に有るのか…… 私共一族で七面山を歩き回ってみましたが見付けられなかった次第です」
「そ、そうなんですか……」
松子達はもうすでに目を付けていて、三ノ池、四ノ池まで足を運んでいるという。その上で五ノ池、六の池、七ノ池が見付からなかったとなると、七面山の池という線は薄いのかもしれない……。
中岡編集は肩を落とした。
「あの、ところで、中岡さん、そろそろ下山しませんと、下山中に日が暮れてしまいますけれど……」
松子が空を見上げ太陽の位置を確認してから声を掛けてきた。
「あっ、そうか、そうですね」
「もう少し探されますか?」
「いえ、暗くなってしまっては危険です。今日はこの辺りにしておいて、もう下山しましょう……」
そうして、私達は山を下って行った。
七面山登山道を経て、身延山登山道側に戻り、下山しながら道沿いにある本地堂、十如坊、丈六堂、大光坊、法明坊などを調べていった。
我々が三門まで降りてきた頃には、空は随分暗くなっていた。しかし、そこから先は門前町なので商店が立ち並び明かりが光々と付いていた。
「随分遅くなってしまいましたね、もう図書館は終わってしまいましたでしょうか?」
中岡編集は松子に質問する。
「いえ、午後八時までは開いていますから大丈夫ですよ」
「おお、そんなに遅くまで…… それは有難いですね」
「ご案内致しますわ」
「申し訳ありません……」
中岡編集は頭を下げる。
図書館は門前町から少し逸れた場所にあり、中程度の大きさの施設だった。
図書館では穴山梅雪に関わる文献、日蓮に関係のある文献、武田家に関わる文献、七面山に纏わる文献、修験道に関する文献、山梨県の登山ガイド本、少し厚めの辞書、静岡県の登山ガイド本、身延周辺の地図など計二十冊を松子に借りてもらった。
図書館を出る頃には、もう時間は午後五時半を回っていた。
私達は完全に暗くなる前に屋敷に辿り着くべく下山の地を目指し歩き進む。
国道は街灯があるからまだ歩けるが、屋敷周辺の山道には記憶では街灯などは一切無さそうである。道を知っている松子と一緒だからまだ良いが、我々だけでは到底辿りつけそうにもない。
国道から屋敷に赴く細道に入り込むと、予想通り真っ暗であった。しかし道の真ん中に丸い明かりがポツンと佇んでいた。
その丸い明かりが、ゆらめき火の玉のようにどんどんこちらに近づいてきた。
「ひっ、ひあっ、な、なんだ、あれは!」
中岡編集は驚き叫んだ。
「お待ちしておりました松子様」
暗がりから現れたのは提灯を手に持つ女中の清子であった。しかしながら提灯の明かりに下から照らされた無表情の清子は、本物のお化けのようであった。
「……清子さんいつも済みません」
松子が申し訳なさそうに頭を下げる。
「松子様、暗くなる前に帰ってきて頂かないと……」
「ごめんなさい……」
清子がキッと私達に鋭い視線を向けてきた。
「な、な、な、中岡様っ! 松子様に会われるのは、昼間のうちだけとお伝えしたでしょう! それと暗くなってから出歩いてはいけないとも!」
かなりご立腹な様子で清子が苦言を呈す。とにかくその形相が凄い。それはそれは山姥のようだった。
「も、申し訳ありませんでした」
中岡編集は恐怖にかられ姿勢を正して深々と謝罪した。私も横で真摯に頭を下げる。
「今後は気を付けて下さいね!」
「は、はい……」
中岡編集は平謝りだった。
そうして我々は清子の提灯を先頭に屋敷へ進む。
暗く鬱蒼とした林に囲まれた林道を進み、傾斜の先にある城郭のような屋敷を目指して向かっていく。私は再び現実世界から異世界に入り込んでいくような感覚に襲われた。
提灯の灯りだけでは一メートル先までは見えるがその先は真っ暗であった。かなり心もとない。昔は当然電灯などは無かった訳だが、城攻めなどの際には夜討ち、朝駆け、夜戦などの作戦があったと聞く。その際には敵に気取られないように松明などは使わずに月明かり程度の中で、明かりを消して山を登り城を攻めていたのだ。守備側は不意を突かれる為効果的な作戦だとも云われているが、自軍も殆ど視界を得られない為大変な作戦になる。おそらく今我々よりも遥かに条件の悪い中で山道を進んでいた事だろう。昔の人は凄いなと私は改めて思った。
私の少し前には松子が、先頭には提灯を持った清子が静々と進んでいた。
美しいが不思議な妖艶さを持つ松子、無表情ながら怒ると恐ろしい清子、薄気味悪い屋敷、私は何やら妖怪屋敷にでも向かって歩いているような気がしてきた




