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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第八章
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事件の解説  壱

 そうして、私達は勧進所を出た。外は少しだけ日が傾いてきていた。


 いくら五月とはいえ、ここは山の中だ。高い山の稜線に日が隠されてしまえば急速に暗くなってしまう。出来れば明るいうちに解放されたい所である。


「どうだ? ある程度纏まったか?」


 中岡編集が訊いてきた。


「ええ、証拠はありませんが、誰がどのようにして今回の殺人事件を犯したのかは見えてきました。もう一度土方警部に会って、出来るだけ論理的にその事を伝えたいと思います」


 そこまで云い掛けて私は改めて中岡編集の顔をじっと見る。


「……なので、新撰組だとか、土佐藩だとかの戯言は云わないようにしてくださいね。絶対!」


「あ、ああ、解ったよ。気を付けるよ」


 中岡編集は少し残念そうに答えた。


「気を付けるのでは駄目です。絶対云ってはいけません」


「はい……」


 そうして、私と中岡編集は開山堂に戻るのではなく、大仏殿の正面に回りこみ、再び大仏殿の正面から内部へ足を踏み込んだ。


 中では先程と大して変らず、駕籠の下側に付いた滑車を鑑識が調べていた。どうも上手く進展しているとは思えない様子だった。大仏殿内に視線を走らせると、回廊に繋がる部分の戸の付近に腰を屈め戸を調べている土方警部の姿が見えた。


 そのままじっと見続けていると、腰を伸ばそうと立ち上がった所で、私と中岡編集の存在に気が付いたようだった。


 ゆっくりとこちらに体を向け、そして私と中岡編集の方へ、カツカツ足音を響かせながら近づいてきた。遠目でも解る位厳しい表情をしている。


「あなた、坂本さん、そして中岡さん。一体なんですか? 待機していてくださいと云ったはずですよ、これ以上勝手な事をするなら、捜査妨害と判断しますよ!」


 土方警部が苛立たしげに声を上げた。


 今回は私を見上げないで済むように三メートル程の距離で止まり、さりげなくだが必死に背筋を正し首を伸ばし、格好を付けたような姿勢で私を見る。


「土方警部、私の話を聞いてください……」

 

 私は真剣な眼差しで声を上げる。


「先程聞きましたよ、ですからこれは遊びではありませんから探偵の真似事は止めて下さいと申したはずでしょう」


 刺すような視線で私を睨みつけてくる。


 さすがに、ゴッコと云うのは私に対して失礼と思ったのか、真似事という云い方に変えてきていた。


「ゴッコも、真似事をしているつもりはありません。どういうやり方であの凄惨な光景を作り上げたか解ったから、それをお伝えしようと思っただです」


 私は訴えた。


「だからそれが真似事をしているって云っているんだよ!」


 土方警部は吐き捨てるように云った。


 そう云われたものの、私も苛立ちのピークに達していた。


「だから、真似事じゃないって云ってるでしょう! 私はね、今回の事件に関してあなたがた警察の参考になる話をしようと思っているんですよ、参考にならないと思えば参考にしなければいいじゃない、なんで私の話を聞かないんだ!」


 堰を切ったような私の怒声に土方警部は唖然とした顔で固まっている。


 土方警部の向こう側に見える刑事や鑑識も驚いた顔で私を見ていた。


「ふ、ふはっははははははははははっ、そうですか、そうですか、ご自身の意見にそれ程までに自信があると云うのですか」


 土方警部が笑い出した。


「……面白い、とても面白い。それではその坂本さんの持論とやらをお聞かせ願いましょう」


 しかし、威嚇なのか制止なのか私に手の平を向けてくる。


「そうしましたら、折角なので全員の前で発表していただく事に致しましょうか」


 土方警部は不敵な笑いを浮かべながらそう促してくる。


 私としては当初、こんな方法がありますよ、と一意見を云うつもりだった。しかし警部は私の持論として全員の前で発表させると云い出した。もしも大した意見でなかったり、上手く説明できなかった場合には皆の前で恥をかかせるつもりなのかもしれない……。


「で、ですが、私はどのような方法が取られたかが解っただけですよ……」


 私は怯み気味に云った。


「自信がおありなのですよね、推理小説家の坂本龍馬子さん」


 こ、こいつ、調べて知りやがったのか!


 土方警部は不敵な表情で確認するように聞いてくる。


「……ど、どのような方法が取られたかに関してはですけれど……」


 私は緊張気味に答えた。


「なら、自信を持ってご説明して下さいよ」


 警部の表情は笑っているが目は笑っていない。その目付きは恐ろしく鋭かった。


「わ、解りましたよ……」


 私は搾り出すように答えた。そんな横で中岡編集が堪らないといった表情で叫ぶ。


「と、土佐者を舐めるなよ、わ、我等、土佐者が貴様等新撰組の度肝を抜いてやるからな!」


 また始まった。あんなに云うなと云ったのに……。


 気持ちが解らないでもないが、ハードルが恐ろしいほど上がったぞ。


 土方警部が薄く笑った。


「では三十分後に開山堂で説明を始めていただきます。宜しくお願いいたしますね」


「わ、解りました……」


 私はそう答えるしかない。


「ふふふ、土佐者の意地というのを期待していますよ」


 土方警部はそう言及すると、背を向け元の回廊と繋がっている戸の方へ戻っていった。


 私は全然土佐者じゃないのに……。



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