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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第七章
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私なりの検証  伍

 徐に、電話の前にいた法観が立ち上がり、我々の傍を擦り抜ける。


「あ、あの法観さん、何処へ?」


 私は気になり質問する。


「ちょっとトイレに」


「トイレはどこにあるんですか? 私もちょっとトイレに行きたいと思って……」


 私の説明に法観は軽く笑った。


「なんだか、喉が渇いたとか、トイレに行きたいとか忙しいんですね」


「え、ええ、尿意と口の渇きには時差があるみたいで……」


 私は頭を掻きながら説明する。


「こっちにありますからご一緒に行きましょう」


 法観はトイレの方を指差しながら促してくる。


「一緒に行って平気なのですか? 順番に行ったほうが良いんじゃ?」


「大丈夫ですよ、男女でも分かれてますし沢山ありますから」


 先導する法観に付いて行くと、大人数が使用するようなトイレがあった。


「ここは多くの人が出入りしますし、私達僧達複数がここの二階に寝泊りしていますから、こういう形状なんですよ」


「そうなのですか……」


「じゃあ僕は男子用トイレに……」


 法観はそそくさと男子用トイレの中に入っていく、私は女子用トイレに足を踏み入れた。そこには大用の個室型トイレが五つ並んでいた。


 私としては本当に尿意があった訳ではないので、扉を開け閉めする振りをしてから、手洗いで手を洗いトイレの前まで戻った。


 しばらくすると法観もトイレから出てくる。


「ああ、待っていてくれたのですね」


「ええ、一応」


 そして揃ってトイレから戻る際、私はさり気無く訊いてみる。


「そういえば、法観さんは五時頃から六時頃まで回廊から中門辺りを良基さんと掃除をしていらっしゃったと云っていましたが、それは中門側から始められて最後大仏殿付近に戻ってくる感じなのですか?」


「いえ、逆ですね、大仏殿の正面で良基さんと待ち合わせてから、大仏殿の横から繋がる回廊部分から始めて、最後に良基さんと一緒に中門を念入りに掃除をして終了になりますよ」


「ということは、回廊自体より中門の掃除に時間を掛けていると?」


「そうですね、最初の二十分で回廊を掃除して後の四十分で中門の掃除を行うといった感じですよ、中門の方が凹凸が多いので汚れやすいですから」


「なるほど……」


「それと、あの、昨夜の夜中十二時頃トイレに行ったと仰っていましたが、その後はトイレに行かれましたか?」


「いえ、その後は朝まで行っていませんよ」


「因みになのですが…… 他の方もトイレに行かれたと言っていましたが、法観さんの後にトイレにはどなたか行かれましたか?」


「僕の後ですか…… 確か僕が床にもどった入れ違い位で良基さんがトイレに行ったと思います。それからしばらくして良寛さんが、起き上がってトイレにいったようでしたが……」


「そうなんですか」


 私と法観は待合席に辿り着く。待合席では相変わらず寂抄尼、鈴子、松子、良寛が頭を下げ俯いている。中岡編集はその横で茶を啜っていた。法観はそのまま電話の前まで進み、椅子に腰を下ろした。

 私も中岡編集の横に腰を下ろして、先程貰った麦茶の残りを飲み干した。


 私は俯いていた良寛に躊躇いがちに声を掛けた。


「あ、あの、良寛さん、良寛さんに一つお伺いしたかった事があるのですが、お伺いして大丈夫ですか?」


 良寛は疲れた顔を上げる。


「はい、構いませんよ、どのような事でしょうか?」


 それでも微かに笑顔を作り上げ受け答えをしてくれた。


「良寛さんが大仏殿の戸締りをされる時は回廊に繋がる戸も担当されているのですか?」


「いえ、その二つは戸の掃除をし終えた良基と法観が閉める事になっています。私は正面の大扉を閉じるだけですよ、一応閉まっているか遠目で確認はしますけどね」


「でも内側で閉める戸ですよね?」


「ええ、戸を掃除してから大扉から出て回廊の掃除の続きをしていく感じなのです。ちょっと回りくどいやり方ですけどね……」


「確かにちょっと面倒ですね……」


 私は頷き同意する。


「……すいませんちょっとだけ気になったものですから…… すいませんお疲れの所を……」


「いえいえ、気にしないで下さい」


 良寛はそう答えるも、すぐ頭を下げ俯いてしまった。


「さて、喉も潤ったから、そろそろ待機場所の開山堂に戻ろうか、我々宿坊体験者は開山堂にいないと警察に怒れてしまうからな」


 中岡編集が促してきた。


「ええ、そうですね。只、いずれにしても、早く事件が解決してくれて解放してもらえると有難いです…… 」


 その場にいた僧達は同意と見えて皆小さく頷く。



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