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歴女作家 坂本龍馬子の奇妙な犯科録  作者: 横造正史
第六章
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鑑識からの質問  肆

「さて、そういった訳で、先程、生田友則という人物の行動に関してお話をお伺いしましたが、再度、その人物の行動と、その際の皆さんの行動を照らし合わせながら、、生田友則という架空の人物をここに居いる誰かが演じているかもしれないという観点で確認していきたいと思います。宜しいですかな?」


 土方警部の声に皆は頷いた。


 土方警部は部下の刑事から手渡された手帳を開き、それを確認しながら声を上げ始める。


「まず、最初に生田氏が現れたのは、勧進所という場所だったとお聞きしました。それを出迎えたのは法観さんでしたね?」


 問い掛けに法観は緊張気味に答えた。


「そうです。僕が勧進所で受付をして、戒檀堂へご案内しました」


「ですが、案内したといって、案内した事にする事もできますよね、戒檀堂ではあなたと生田氏が一緒にいた上で誰かに会われましたか?」


「寂抄尼様に引き継ぎましたから、その時に僕と生田さんと寂抄尼様とが一緒の場所に居ましたよ」


「なるほど、寂抄尼さんと三人で面したのですか…… それでは、その後、寂抄尼さんが宿坊体験の待合室に案内されたとの事でしたが、その待合の場には誰と誰と誰が居たのでしたしたでしょうか? その場に居た人間は手を挙げて貰えますか?」


 私、中岡編集、橘、武藤京子、大谷正志、石田老人が手を挙げた。


「その方々と寂抄尼さんは、生田氏を含め、一同に会したという訳なのですね」


 私達は頷いて応えた。


「その時に鈴子さんや松子さんと生田氏の接触はありましたか?」


 土方警部が探るように質問する。


「いえ、松子や鈴子は給仕室に居りましたから、直接の接触はありませんでしたけど……」


 寂抄尼が答えた。


「なるほどです。……その後、皆さんで境内の散策に出掛けられたと言うことでしたが、その際には他に誰かと会われたなどはありましたでしょうか?」


 土方部が我々を見回して質問してくる。その質問に武藤京子が手を挙げ答えた。


「いえ、大仏殿に行って、良弁和尚様と良基さんにお会いするまでは、他の方に会ってはいませんでしたけど……」


「そうですか…… それでは続いて大仏殿に赴かれたとの事ですが、次の体験である説法体験の際には、良弁和尚様、良基さん、生田氏を含む皆さんで大仏殿内にいたという事で間違い無いでしょうか?」


「はい、それで全員だったと思います」


 続けて武藤京子が返事をする。


「そうして説法体験が終わると、今度はここ開山堂までやってきて、写経体験をしたと聞きましたが、皆さんご一緒に移動されたのですかな?」


「そうです皆一緒にです。良基さんに開山堂まで引率して頂きましたよ」


 大谷正志も土方警部の問い掛けに答える。


「確か、席で講師である良寛さんが来るのを待っていたと聞いたのですが、その待っている際に、生田友則が間宮さん改め橘さんに、具合が悪いと耳打ちをして部屋を出て行ったと…… そして良寛さんと廊下で擦れ違ったものの、逃げるように玄関の方へ歩いていったのですね」


「ああ、そうだよ」


 橘が頷き答えた。


「ええ、確かにそんな感じでしたね。腹の辺りを摩りながらフラフラしていましたけど……」


 良寛が付け加える。


「そこからは、生田友則は皆から離れ単独行動をとったという事でしたが、約一時間後、写経体験が終わり、橘さん、石田さん、武藤さん、大谷さん、坂本さん、中岡さんの順番で開山堂から出られ、講師を勤められていた良寛さんは出入口で皆さんを見送られていた…… そんな際に開山堂を出た所で坂本さん、中岡さん、武藤さん、大谷さんが少し離れた場所にある俊乗堂というお堂の石段に生田友則が座っているのを目撃したということですね」


「ええ、間違いありません」


 武藤京子が答えた。私も頷く。


「最後、生田友則は六時少し前に宿坊の方へと戻ってきて、寂抄尼さんに具合が悪いので部屋の用意をして欲しいと依頼して、用意が出来ると部屋に篭ってしまい、それから後は何時姿を眩ましたか定かではないと……」


「そうですね。そんな感じです」


 寂抄尼が答えた。


 その寂抄尼の言葉を聞き終えると、土方警部は腕を組んで考え込む。


「……そうですか、皆さん生田友則と行動が重複していますね、強いてあげるなら鈴子さんと、松子さんが、接点が少ないといった所でしょうか…… となると矢張り生田友則は外部の人間である可能性が高いと見るべきなのでしょうか……」


 答えに窮したのか、土方警部はそのまましばらく無言になってしまった。


 沈黙が続いてから少しして、土方警部がゆっくりと顔を上げた。


「それでは、皆さんから頂いた情報を参考にしつつ、警察の方でもう少し捜査を進めていこうと思います。ただ容疑者こそおりますが、その人物が本当に犯人なのか、そしてどのようにしてあの犯行を行ったのかは未だ定かではありません。なので、皆さんはこの場で待機していて頂ければと思います」


 部屋に飾られている時計を見ると、時間は現在午前十一時だった。いくら朝早くから起きているとはいえ、大僧都の遺体を発見し、大仏殿の内部を少し探り、警察が来るまで待ち、警察の事情聴取を受け続けたのである。随分時間も経過していた。本来なら朱印を貰い、そろそろ宿坊体験も終了となる頃だとも云える。


「あ、あの、どのくらい待機しなければいけないのでしょうか?」


 土方警部の説明を聞き、武藤京子が手を挙げて質問する。


「私達、この後、善光寺の方でも宿坊体験に申し込んでるんですけど……」


 横にいる大谷正志も武藤京子と同じような眼差しで土方警部を見ている。


「そうですね、事件がある程度把握出来てきた上で、事件とは全く関係が無い事が解ればお帰り頂いても結構ですが、現在の状態でいつ自由に出来るかというのは云い切れませんね」


「ならキャンセルの連絡をしたいのですが電話しても良いですか?」


「それは構いませんが、ですが事件の事は言わないようにお願いしますね」


「解っていますよ」


 その説明を横で聞いていた寂抄尼が静々と声を上げる。


「恐れ入ります。本日にお迎えする宿坊体験のお客様は幸いな事にありませんが、ただ勧進所の方にお客様から連絡が入る可能性があると思います。お断りするにしても勧進所に誰か待機させておいた方がいいような気がするのですが……」


 寂抄尼の言葉を聞き、良寛も気が付いたように言及する。


「……そうですね、この寺に大仏見学に来る人間もおりますので、南大門辺りで事情を説明したりもしなければなりませんし……」


「その辺りに関しては、警察の方で門前に人を置き立ち入りを規制させますよ」


 土方警部が答えた。


「それにしても、こんな大変な事件が起こってしまったからには、やらなければいけないことが沢山出てきてしまうことでしょう。せめて大仏殿の方と勧進所の方だけでも出入りを許していただけると有難いのですが……」


 良基が真剣な表情で訴えた。


 土方警部は少し考えてからゆっくり口を開いた。


「……仕方がありませんね、解りました。ではここ開山堂と中央にある大仏殿、その向こう側にある勧進所の方までは行動を許可しましょう。ですがそれ以外の場所へは行かないで下さいね。一応刑事と警官に監視させますので、もしそれ以外の場所に行ったら、その後は部屋から一切出させませんからね」


「お、恐れ入ります」



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